#07 ド変態
今は、安心していた僕を切り裂くように、カラオケボックスで彼女のシャウト気味の声が鼓膜を突き刺し、暴れ出して、安心が簡単に消滅してしまった次の日という状況にいて、スッキリの一歩手前くらいの気分で目覚めたところだ。
目覚めたら、あのどうしようもない、乱暴を押し付けるような、たまに優しさを押し付けるような、そんな狂気さはなくなっていて、その代わりに、ずっと付き合っている彼氏という立場の僕からしても、一センチは引いてしまうくらいの変態さに変わっていた。
芸能人のファッションコーディネート的な番組と、シリアスサスペンス的な映画を同時に見ていたら、ファッションコーディネート側では変身した芸能人の歩いてくる足のアップが映っていて、サスペンス映画側では鎖で繋がれた鉄球を引き摺りながら悪人が歩いてくる足のアップが映っていて、それを同時に見ていたために二つが混ざってしまい、脳がこんがらがって、この芸能人は攻めたファッションだな、みたいな変な勘違いをしてしまったことがあるが、目覚めの瞳に一番に映ったのが、下着姿で踊り狂っている彼女だった今は、そのような錯覚ではないだろう。
猟奇的な彼女も、変わった行動をする彼女も、優しく見守って接することが出来ていた気がするが、今回の変態要素が複雑に絡まっていそうなこのキャラは、一番苦手かもしれなくて、今の彼女を見ると、僕は普通のジャージを着て寝ているのに、僕がまるで裸でいるみたいに、僕の身体を舐め回すように見ていた。
彼女は目を最大限に見開いて、血走るくらいの変態な目をして見ていて、『何でこんなに髪の毛が硬いのかずっと悩んできたけど、タブレットを近距離で操作していたときに前髪がかざって、それによって文字が押され、入力されてしまい、髪の毛のなかに細い針金が仕組まれていたからかと納得した』という友達の脳みたいになりたいと感じた。
起き上がると、もうテーブルには朝御飯が出来ていて、それを見て僕は安堵ではなく、安堵に近いものでもなく、安堵から遠く遠く離れた、安堵の正反対の溜め息を、3秒吸って、8秒かけてゆっくりと吐き出すというスタイルで吐いていた。
子供は面食いで正直だから、ママと結婚したい!とか、パパと結婚したい!みたいに言う子供の両親はだいたい美男美女だよな、みたいに思っていて、今の彼女も、その子供の正直さに負けないくらい正直だよなと思ってしまっていて、それは、きちんと今の変態キャラが反映されるように、お皿に目玉焼きの目玉がふたつあり、その下にはフランクフルトが縦置きされていたからだ。
そして彼女は、僕のことをイメージして盛り付けたと言ってきて、そんな言葉を言ってきた直後にはもう、僕のものもフランクフルトみたいに立派になっていたことは言うまでもなくて、僕がこの彼女のキャラが一番嫌いではないことも言うまでもない。
それからというもの、彼女はいま瞳に映っているものや、いま行動していることなどの光景を描写してくる、【光景描写】を僕へのセクハラ発言を交えて放ってきたり、色々と色々なことをして、僕を色々と困惑させて、暴れまくったのだった。
世界で一番美しいものは、スクランブル交差点でスピードを緩めることなく、避けることなく歩いて、颯爽と反対側に渡ることの出来る人だけど、現時点での、世界で一番エロいものは、彼女が目玉焼きの目玉を箸でツンツンと突いて潰して、オレンジ色がとろっとドロっと流れ出ている今かもしれない。
誰とでも仲良くなれる女とは?と打ち込んで検索サイトで検索してしまったことは、もう起こってしまったことなので、元に戻すことは出来ず、変えることなんて出来ないが、その後、フランクフルトにかじりつこうとしたが出来ずに、一旦、口から出した彼女を、エロいものの一番に変えることは出来るので変えた。
僕には、一度メモをしてしまうと、メモ欲が目覚めてしまい、しばらくの間、止まらなくなってしまう癖があって、食事中なのに無性に今も紙とペンが欲しくなっているのだが、彼女は食事中なのに立ち上がり、セクシーな声を出しながら、コンセントを何度も指したり抜いたりしていた。
読んでいた小説の中の少年が、ホッケについて語っていたのだが、そのホッケが最初はあの魚のホッケだとは思わず、ホットケーキの略称だと思ってしまっていた僕だから、牛乳を一気飲みして白いものを口から流している彼女への想像の幅も、かなり広がってゆく。
傍らの納豆を食べて、指についた糸を人差し指と親指で伸ばしたり、テーブルの下に箸を落としてしまい潜っていった場面で、彼女がこちらにお尻を向けていたので、下着姿のエロいお尻が僕の目には映ってしまって、僕の脳内の放送コードを越えていないか?僕のエロの許容範囲を越えていないか?みたいに感じたりした。
[ピキヒキビキヒキヒキピキヒキピキヒキピキ]が小動物を数えるときの、1から10の単位だと気付く人は少ないだろうけど、落ちた箸を水道に持っていき、激しく上下に擦るようにして箸を洗い、椅子に戻った彼女のような人の方が、この世には少ないと思う。
これが夢ならば覚めて欲しいけれど、これが現実ならば夢に突入して欲しいほどで、エロの免疫の小さい僕ではもう手に負えないと感じていて、彼女に、フランクフルトを食べさせてよ!と言われて彼女の口に突っ込んだときにはもう、僕がそのフランクフルトそのものになりきるようにして突っ込んでいた。




