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#73 ミュージカル②

彼女は起きて、まだベッドで座っていて、寝ぼけているみたいだったが、やっと立ち上がって、気持ち良さそうな顔でミュージカル風に歌い出して、ごはんたべようか、という言葉を、色んなメロディーに乗せて、何度も歌ってきて、こういうミュージカル乗りは好きではないが、自分もやるしかないと、しょうがなく歌った後が今である。


ご飯を彼女は、簡単に用意してくれるみたいで、料理を喋りながらやるやつなら見たことがあって、それならそんなに、まばたきの回数は多くならないけど、歌に加えて、動きまでダンス要素入りまくりで、まばたきは、僕のゲームのボタン連打以上の回数の記録は出たと思う。


料理の間は、普通にひとり歌いだったから、ただ見ていればよかったけど、食べるときに、踊りながら歌って感想を言ってって言われたら、もうダメだなと感じていて、♪味に集中したいので~、一発で済ませようと、脳内練習を開始した。


僕の歌の出番がなくて、安心したのだが、アドリブが苦手なだけで、彼女が歌った歌の、そっくりそのままコピーとかなら、やれる気がしていて、やれる気がしていて、やれる気がしていて、やれる気がしている。


ミュージカルは見たことがないから、分からないから出来ないけど、テーマがちゃんとあって、例えば、架空アニマルのミュージみたいな名前のがいて、それを狩るみたいな、そんな『ミュージ狩るミュージカル』みたいなものなら、やれそうな気がする。


たぶんミュージカルには、掛け合い系と、ひとり自問自答系があると思っていて、僕はどちらも苦手そうで、諮問死闘系も苦手そうで、鬼門祈祷系も苦手そうだから、ミュージカルは全て苦手そうだと思っているけど、いま何を言っているのか、自分でも分からなくなった自分が苦手だ。


彼女が、いただきますと、音楽に乗せて言ってきたけど、こちらが歌わずに、普通にいただきますと言ってしまうと、後々壮絶なミュージカルに発展しそうなので、♪味に集中したいので~、でミュージカルを遮断することもできず、決意を固めた。


僕も、いただきますを音楽に乗せて言ったのだが、このあと良いメロディーの、♪召し上がれ~、が来た場合、食事中の味に集中出来ない度数は、かなり高くなり、もしもその、♪召し上がれ~、の最初の音が、女性でも出すのに苦労する、高い場所にあるミくらいだったら、もう駄目だろう。


♪召し上がれ~とは歌われたが、僕でも出すのに苦労する下の方のミだったことで、ややだけど、ほんとほんの少しだけど驚いて、頭のなかにいるもうひとりの、ミニミニの僕が、座っていたイスと前にある机ごと、豪快にコケた。


高いミより、低いミの方が大丈夫だと感じていて、もしも高いミから始まる♪召し上がれ~、だった場合、気絶に近い別ルートで、頭のなかにいるもうひとりの、ミニミニの僕が、座っていたイスと前にある机ごと、豪快にコケただろう。


目玉焼きとサラダと、豆腐味噌汁とごはんと漬け物が、目の前に並べられて、目玉焼きとサラダと、豆腐味噌汁とごはんと漬け物かぁ、となるのが普通だけど、僕はそうなることなくもなく、目玉焼きとサラダと、豆腐味噌汁とごはんと漬け物かぁ、となった。


こういう食事は大好きで、どれくらい好きかというと、散歩をしていたら、空に大きな雲があって、その雲がかなりのスピードで流れていっていて、それが僕の夢に近づくスピードよりも、遥かにはやくて、雲ってはやいなぁってなっている、そんな瞬間くらい好きだ。


彼女は、♪こういう食事いいよね~、って歌いながら食べていて、特に僕にネチッコクなることなく、褒めすぎかもしれないが、本当のミュージカルにもあるかもしれないなくらいの、いいヤツを演じていて、いいなと感じた。


刺激はあまりないミュージカルで、これなら耐えられると思っていたけど、やさしいメロディーで、やさしい歌詞で、やさしい表情で、やさしい動作で食べていた彼女が、突然、目玉焼きの目玉に箸をぶっ刺して、ハイヤーッてなった。


たまごの黄身が、薄い黄色に近いもので良かったと、初めて思ったのかもしれなくて、普段はオレンジ色に近いたまごの黄身の方が、美味しそうに見えるが、今は、本当に本当に、本当に本当に本当に、オレンジ身ではなく、黄身で良かったと思っている。


黄身がオレンジ色過ぎたら、もうオレンジ越えて、レッドに限りなく近い状態になっていたとしたら、血に見えなくなくなくなくなくもないから、怖い怖い怖い怖い怖いみたいになっていたかもしれなくて、気が付いたら自発的に、♪やめてくれ~、と低音で歌っていた。

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