#72 ミュージカル
目を開けると彼女が横に寝ていて、彼女が起き上がって寝ぼけながら、ただいまと言ってきて、何も発することのないまま、また横になっていって、ベッドから彼女が、まだ一度も離れていないことに気がついて、ベッドと彼女は一体化して、ひとつになってしまったかもと思った、その後が今である。
寝てしまったということは、キャラが変わるんじゃね?、とか思ったけど、何事にも丁寧さが必要だと感じ、訂正して、彼女がお寝になりましたから、キャラクター変わりますよね?、と思ったことにして、平然と生きようと思う。
ホッとしているけど、ハテナだらけで、英語で言うと、クエッションだよ、みたいに思っていたけど、クエッションじゃなくて、クエスチョンが正式みたいで、とにかくハテナが頭に浮かんだんだけど、ハテナはカタカナだとダサいよね、そう感じた。
不思議すぎるこの、ベッドにくっついて離れないというキャラを、もう少し解明したかったけど、彼女が寝てしまった時点で、キャラも眠りにつくというか、永久の眠りに入るから、残念無念、残念無念、残念無念、そういう感じだ。
いつ起きるか分からないが、かなり次のキャラが気になっていて、ベッドに張り付いてなくて、出来ればカラダの一部が、どの物体ともくっついていない、ノーくっつきキャラで、目が覚めてもらいたい、そう願いに願っている。
次はしゃべって欲しいし、二足で立ってほしいし、出来れば人間の感情をもって生まれてきてもらいたくて、願って願って、願って願って願って、願ってはいるけれど、よく考えたら、願うという漢字は不気味で、よく考えなくても不気味だった。
彼女はうつ伏せで大の字で、ベッドに張り付いていて、今が一番ベッドと彼女が親密な関係というか、密着度マックスというか、とにかく、ふたつの間に入って、引き離さなくては、ならない、ならない、ならないのだね。
もしかしたら、まだベッドと繋がっているかもしれなくて、起きたときもベッドに張り付いていた場合、外出は回避できると思っていて、でも、ベッドというものは意外と、軽いものは軽くて、重いものは重くて、みたいな感じだから、とにかく、何が起こるか分からない。
彼女が起きたけど、まだベッドで座っていて、ベッドに座っている今は、まだキャラの予想は出来なくて、ベッド関連のキャラは嫌だということだけが、血に乗り、全身を駆け巡っているような、いないような、そんな感じが続いていた、そんな感じだ。
寝ぼけているみたいだが、立ち上がったようで、彼女が物理的な意味で、立ち上がったみたいで、寝惚け、と漢字で書くと、なんかかっこよくて、【寝惚け】という漢字だけでは、意識がフワッとしている状態だと、読み取れないなと思っている。
彼女は、久し振りにベッドから離れてくれて、ベッドから離れたことを喜んだが、久し振りに言葉も発していて、それが普通の、べしゃべしゃべしゃり、ではなく、声が遅れて聞こえる系でもなく、気持ち良さそうな顔で、ミュージカル風に歌い出したのだった。
ごはんたべようか、という言葉を、色んなメロディーに乗せて、何度も歌ってきて、言葉のバリエーションがあれば、もう少し楽しめたかもしれないが、ごはんたべようか、という質問系というか、問いかけ系というか、そんな感じのヤツを繰り返していたから、答えをいつ返せばいいか、タイミングを考えて考えて考えてしまっていた。
ミュージカルキャラだと思っていて、ミュージカル!と頭のなかで叫んでいたが、ずっと話していた人の名字を聞くのを忘れていて、聞いてみると『綿さん』だった場合、僕は『名字軽っ!』と心のなかで叫んでしまうだろうが、そんなことはどうでもいい。
これは同時に、僕へのミュージカルムチャブリとなるのだと思っていて、今も、♪ごはんたべようか~、の答えをミュージカル風に言うことを求められていて、♪そうだね~、と言おうか、♪そうしましょ~、と言おうか、♪ごはんたべようね~、と言おうか迷いに迷っていた。
サプライズプロポーズとかでよくやるあの、フラッシュモブ毛嫌い人間、の僕だから、こういう感じのやつは、目の前で繰り広げられたくなくて、こっちも、まさかこの人生で、こんなことやるなんて、思っていなかった。
こういうミュージカルノリは、好きではないがやるしかないから、♪ご飯を食べてお腹をパンパンにしよ~、と歌ってしまって、そんな自分を客観的に見たとき、ミュージカルというより、ミュージ重になっていて、もう重くて重くて重かった。




