#65 小声
なんやかんやあって、僕の腕を独占しながら歩き、家から歩いてでもいける植物園にきて、彼女の狂気な行動に意識を持っていかれて、胸元があらわになっているセクシーな赤いやつにも、意識を持っていかれて、彼女の独占する項目に、男性の目線が追加された、その後が今である。
僕がトイレで、作戦を練って帰ってくると、彼女は寝ていて、寝るとキャラがリセットされるシステムだということで、少しの安心と少しの不安と、ドバドバの期待と、ワッサワッサの希望と、ざっくざっくの優しい気持ちが、溢れたり溢れたり、溢れたりした。
ベンチで座りながら、下を向いているから、たぶん寝ているけど、寝ていないこともあるから、寝ていると決めつけてはダメで、昔、マスクをしている長髪の人を、20代女性だと決めつけて接しようとしたら、40代男性だったことがあるから、決めつけては絶対にダメだ。
寝ているということは、あの独占キャラがリセットされている、ということで、段々と嬉しさが上回ってきていて、なかなか開かなかったドアのカギが開いたみたいな、そんな感覚があって、もう、独占という言葉の『占』という漢字が、鍵にしか見えなくなってしまっている。
近づくと、彼女が目を開けて立ち上がってきて、目はとろんとしていて、覇気がなくて、触ったら崩れたり、とろけたりしてなくなってしまいそうな感じで、とても繊細な感じがして、何かを独占するような、以前のようなキャラではなくなった、そう確信した。
かすかに、ほんの微かに、本当に微かにだけど、どこ行こうか?と聞こえた気がして、植物園に僕と来ているという認識保持のなかで、違うキャラになっているんだなと思ったのと、控えめなキャラになったと思わせておいて、独占キャラだけは継続していたら、嫌だなと思った。
声が小さすぎる気がするけど、違う方向から、考えるとすると、僕の聴力を弱めることの出来る超能力キャラや、空気中のなんともない音を、なんともないまま、雑音になるかならないかのギリギリラインまで、押し上げている、ということも、なくはないのだろう。
今のところは、声が聞こえないという、会話が難しい壁にぶちあたっているだけで、そこまで支障をきたしていないからヨシとして、圧力的にも、かなり薄まったのでヨシとして、とか考えていたが、彼女の唇がずっと少しだけ動いていることに気づき、ゾッとした。
離れていたから良かったが、近づくと恐怖で、口の動きは最小限にし、音量も最小限にし、ずっと何かを口から漏らしていることに気付いてからは、もう、怖さも不気味さも、震えも、これからの不安も、たぶん最大限に溢れ出てしまっているに違いない。
小声の早口で走り抜けていて、小声、それは恐怖で、寒気がするくらいの恐怖で、小声で凍えるみたいなことが、実際に起きそうなくらいの、ものすごい場面になっていて、早口が、はやく違う早さの喋りに変わらないかな、変わらないかなとも思っている。
一秒に30文字くらいの感覚で、彼女は喋っていて、でも、早すぎてそれしか聞こえないということも考えられるから、一秒100文字でやっているかも、という可能性も視野に入れて、これからを生き生き、生き生き、生き生き生きて行こうと思う。
大人しい感じの、あまり前に出られない感じだと思っていたけど、小声が、引っ込み思案で控えめな性格だと、誰が決めたのだと、思ってきてしまって、小声のお調子者もいるにはいるし、控えめポジティブな人もいるから、決めつけてはダメなんだ。
今は、植物に囲まれた、植物の中心的な場所にいて、植物がずっと側にいてくれているが、植物の癒し効果も、かなり薄れるくらいの破壊力が、彼女の小声早口ブツブツマシンガン、には含まれていて、これから歩むべき道が、途絶えて見えない。
もう楽しめなくて、緑たちの差別化がはかれなくて、よく緑は目がよくなるとかいうけど、緑はずっと見続けると、視力アップに繋がるとか、よく言われている気がするけど、これ以上視力がよくなったら、早口の小声で喋る彼女の言葉を、声が聞こえなくても、読唇術で読み取れそうだから、薄目で歩いた。
ここに来て、ベンチで寝てしまうまでの、彼女のあの独占キャラは、まわりにも僅かに恐怖を与えていたけど、これは、それほど、まわりに悪影響は及ばさないみたいだし、気にしなければ、普通のことのように、見えてくる可能性もなくはないから、いいか。
そして、早口の小声で彼女が喋る内容は、僕への悪口ではなく、誰かへの不満でもなく、植物の説明が主だから、誰も傷つけずに、誰もダメージを負わずに、平和なことを怖く怖く発しているだけだから、そういう面では救われた、そう思ったら、楽が溢れてきた。




