#45 せっかち④
デパートに行きたいと彼女が言ってきて、たぶんそれも計画に組み込まれていたのだろうと思って、デパートに行って、エレベーターに乗ったが、降りる前の彼女は陸上競技のスタート前みたいな感じで立っていて、短距離走のクラウチングスタートではなくて、中距離のときの中腰的な姿で立っていて、どれだけアスリートなんだよ、とツッコミを入れたくなった、その続きが今である。
彼女は、エレベーターの後ろの方にいたが、まだ開いていないのに歩き始めて、これは何らかの時短テクニックかなとか、時間短縮という言葉を時短と略すことも、時短テクニックかなとか、色々と考えながら乗っていた。
歩いていって、彼女がドアの間近に来たとき、目的の階にエレベーターが止まってドアが開いて、そのままスピードを落とすことなく、彼女はそのままスムーズに出ていっていて、彼女が普通にシンプルにエレベーターを降りるように、戻ってほしいと、今までで一番思った。
ギリギリを攻めすぎだろう、とか思ったりしたのだが、ギリギリを攻めていいのは、グラビアアイドルの水着グラビアだけだと、そう思っているから、もうしないでおくれ、もうしないでおくれ、もうしないでおくれ、と心のどこかが願っていた。
彼女は『2、3秒損得世界』にいるのだろうけど、付いていけなくて、今は『2、3秒損得世界』と言いたいだけで、『2、3秒損得世界』って言いたい、『2、3秒損得世界』って言いたい、『2、3秒損得世界』って言いたい、『2、3秒損得世界』って言いたい、ってずっと思っていた。
僕の全力のはや歩きでも、追い付けない彼女のはや歩きは、たぶん狩り直後のチーターでさえも、追い付けないと思っていて、たぶん僕の家の前によくいる、地面をはや歩きで歩く姿しか見たことがない、あの鳥でも追い付けないだろう。
目的のアパレル的お店に着いたら、店員さんが紙袋を持って待っていて、あっ、もう、これも、あれか、事前になんかしてる感じか、そうだよね、サスガだね、なにひとつ無駄がないってすごいね、とか思ったり、『持って待っていて』という字面なんか不思議、とか思ったりした。
着いてすぐに、スマホをピッと何かにかざして、サッと紙袋を受け取って、パッと5秒でその場を去っていった彼女は、シューと歩きながら、ビューと加速していき、ドビューとエレベーターに向かって歩いていっていて、彼女は無駄がないが、僕の頭のなかは無駄だらけだと、そう感じた。
本当にひとつも無駄がないと言っても過言ではないような、そんな動きを彼女はやってのけている気がしていて、僕が丸一日考えたとしても、こんな構成では動けないとおもうので、無駄なくてスゴいなと思うしかなかった。
エレベーターに向かった彼女だったが、エレベーターが混んでいて、初めて予定外の出来事が起こったけど、何をどうやってどうすることで、このピンチを回避するのか、非常に興味がわいてきて、注目して注目して注目して注目して、注目しまくって、注目して、ずっと注目していた。
第一便では乗れそうにないときの、第二案は、たぶん彼女の頭のなかには、絶対にあると思っていたから、立ち止まらず、咄嗟に次の行動に移行する彼女に、うなずきと、カッコいいという気持ちが、漏れて漏れて漏れまくった。
彼女は、普段は数人しか使わないであろう、隠れた位置にある階段をダダダダと降り始めていて、後について降りようとしたけど、二段飛ばしで美しく、彼女は階段を降りていて、それは陸上の110メートルハードルの選手みたいに、まったく無駄のないギリギリのラインを攻めていて、僕は追い付けなかった。
結構かなり高い階から、階段で降りるのは楽じゃないが、彼女にはスタミナまであって、僕は以前、可愛く生まれたかったと思っていて、河合くんに生まれたかったとも思っていて、可愛く河合くんに生まれたかったんだなと、改めて理解したことがあったが、そんなことがバカらしくなるくらいの、彼女の強さだった。
車に戻り、僕は運転を始めたが、彼女は何もせずに僕と話すことしかしていなくて、全リモコンをまとめられるリモコンが欲しいな、とか、一度カチッと組み立てるだけで完成する団扇が欲しいな、とか、【指定された型紙を使って、一枚の紙から出来るだけ多く、その形を切り出しなさいゲーム】をしたいな、とか、色々話した。
単独で僕と話しているということは、僕との会話は無駄じゃないということで、この時間は有意義な時間であることを証明したようなもので、少し分かりにくいが、大事に思ってくれていることが分かって、とても嬉しかった。
彼女は車内で、さっきデパートで買ってきた品物を、僕に渡してきて、高速のハッピーバースデーの歌と共に渡してきて、とても嬉しかったけど、夕方にもなっていないのに、明日の僕の誕生日をお祝いしてきたので、多少はせっかちだなと思ったりした。




