#29 探偵
口に唐揚げを思いっきり頬張った彼女は、ぶりっこの頬膨らませの時より可愛かった、そんな日は終わって、ぶりっこから解放された次の日の朝が今というときで、ぶりっこから解放された次の日の朝が今というときである、ということだ。
もうぶりっこは嫌だ、もうぶりっこは嫌だ、もうぶりっこは嫌だと、頭のなかでリフレインを続けていたが、変顔をしてと言われたとして、もしも変顔の度合いが薄すぎて普通の顔の人に似てしまったら、気まずくなるから変顔は躊躇してしまう僕みたいな、キャラもあまり来てほしくないなと思った。
朝起きたら彼女が探し物をしていたのだが、探すという行為が、ずかずかと心のなかに踏み入ってくることと重なったりして、抗酸化作用と、高三か左様?、という言葉が似ていると気付いたときくらいの、どうしていいか分からない気持ちに陥った。
自分のものを探している雰囲気でも、形相でもなく、場所的にも確実に彼女のものではなく、僕のものを漁っている確信は持っていたが、やはり僕のものを綺麗に漁っていて、確信は、この状況を、革新に変えたいという気持ちに、変わっていた。
紙に書かれた【地球】という言葉が、【地味】という言葉に見えたのは、僕の目のせいか、それとも【地球】と書いた人の文字の上手さ下手さのせいか、どうなのだろうと思ったりしたことがあったのだが、ぶりっことはガラリと変わり、キリッとしている彼女がそこにいることは、たぶん見間違いではないだろう。
部屋では、いつも定位置に座っていて、その隅の定位置から一番遠い場所にカレンダーを掛ける定位置があって、いつもは貰えるカレンダーを掛けるのに貰えなくて、何処にも売ってなくて、月の数字がかろうじて見えるくらいの小さい文字のカレンダーを掛けているが、そのカレンダーを活用しきれる彼女が今ここにいるとしたら、それはそれで怖くて、知能を発揮される系彼女もかなり怖いなと思う。
今日は先が予想できない状況にいて、何を探しているのかもまだ分からなくて、駅弁のお品書きをよく見たらお城のイラストの上に太陽のようなイラストがあって、太陽かと思っていたけど、それは綺麗なグラデーションで、綺麗な曲線を見せる油染みだった、みたいなことが最近あって、それみたいな綺麗な展開には今は至らなそうだ。
トレジャーハンター的なあれだろうか、みたいにも思ったが、トレジャーハンターと似ている言葉の『それじゃあ、あんた』があたまに張り付いていて、『それじゃあ、あんた、トレジャーハンターの1択で確定するんだね?』『それに全額ベットするんだね?』みたいに頭のなかで繰り広げられていて、かなり疲れが出た。
眼鏡をかけて、彼女は念入りに何かを探していたのだけれど、秋の終わりくらいに右手の薬指の先だけ、まずひび割れてきて、右手の薬指に薬をつける毎日だった僕には、薬指中心の考えしか浮かばず、まだ疑問が残った。
その彼女の姿は無駄がなく、道の駅でキャベツが売っていて、その値段がよく見ると1400円もして、えっ、こんなに高いの?、こんなに高いの見たことないな、高級すぎる幻のキャベツか、でも値段の打ち間違いで間違いないだろうと思った、そのキャベツのような不完全さは彼女にはなくて、まさに探偵のようなものだった。
何をしているのと聞くと、浮気調査だと言ったのだが、浮気という言葉から一番遠いところにいると、自負している僕だから、最初はピンと来なくて、浮き輪という言葉と、浮き輪そのものの姿が、脳に映像として浮いているみたいな感じになっていた。
浮気が出来るほど余裕はないし、浮気なんてことを考える時間ももったいないと思っている僕だから、浮気をしないことは、常温のものだけを飲めばお腹を下すことは少なくなる、という当たり前のことと、同じで当たり前だと思っている。
今の彼女の変なキャラが、この先ずっとずっと続く限り、浮気なんて出来ないと思っていて、一週間分のマスクが一度に収納出来るマスクケースが欲しいと最近は思っているので、僕が浮気をするとするならば、マスクやマスクケースに浮気はしてしまうかもしれない。
何よこれ?と言って、彼女は、透け透けのランジェリーを両手に持って、堂々と掲げてきて、透け透けの赤ランジェリーだ、あれはあの時の透け透けの赤ランジェリーだ、ヤバイなヤバイな、あれは絶対に怒られる透け透けの赤ランジェリーだ、と思った。
それは、彼女がセクシーキャラだったときのもので、彼女がセクシーキャラだったときに一緒に行って、僕の好みを聞きながら、ランジェリーショップに長時間入り浸って、場違い感をガンガンに感じながら、やっと買ったあのランジェリーだった。
ランジェリーキャラ終了後に、預かっていたのだが、過ぎたキャラのことを彼女は忘れてしまうので、もうこのランジェリーの記憶は彼女にはなくて、彼女からしてみれば、僕は歴とした変態おじさんなわけで、あの日、あの時、あの場所で、捨てておけばよかったなと思った。




