#02 ド真面目
前日に失敗をしてしまったりして、機嫌が悪いとハズレキャラ出現率が20%アップする彼女なのだが、彼女から貰った指輪をトイレに流すというとてつもない失敗を前日にしてしまい、心から謝ったことは謝ったのだけれど、仏キャラが何日も続いているこの日々がそれによってどう変わってしまうのか、心配している状況である。
朝、目が覚めて起き上がったら、彼女がベッドの上で正座していて、僕の安心感は乾燥ワカメを雨季の屋上に敷き詰めて、数日間待ったときに出来上がったとてつもないもののように、ドヒャドヒャとウネウネと膨れ上がっていた。
いつもは必ず寝ている時間なのに、いつもは彼女が寝言を念仏のように唱えながら、非常口マークの人と普通に水に飛び込む体勢の人のちょうど真ん中くらいのポーズで寝ている時間なのに、起きているので最大級の違和感がある。
旅館の女将のような格好に落ち着きながら、彼女はベッドの上で佇んでいて、旅館の女将ならぬ、ベッドの女将として、この先にある未来を見透かしているように思えてきて、その後、突然、献血しに行きたいと彼女は言い出した。
仏キャラとは似ているが、これは真面目すぎる真面目キャラなのかと思い、彼女の姉から貰った傾向と対策が書かれたノートを見ると、それに書いてあったのはド真面目キャラというキャラで、パッと真面目な彼女に視線と焦点を合わせると、全ての外出準備を済ませて、窓の施錠をすべて確認しているところだった。
家から出て鍵を閉めたけれど、僕はスマホを忘れてしまって、家に戻ってすぐにスマホを握り締めて玄関に戻り、『伊勢海老と言ったはずなのに「異星人?」と聞き返されてしまったけど、聞き間違えられただけなのか、僕が異星人かどうかを聞きたかったのかは分からない』みたいなモヤモヤの気持ちになった。
何でもメモを取って間違えたことは繰り返し復習する彼女が、僕のスマホを忘れるという大失態を、試験官がメモを取るみたいな感じでメモしていて、僕の悪さをしっかりと記憶するために書いているのか、ただの真面目だから書いているのか、よく分からないが、怖いことに変わりはなかった。
家からすぐの大通りの横断歩道に着いて、待っているこの状況でもド真面目で、進むことが出来ずずっとここに立ち続ける予感しかせず、ド真面目を最上級としたら、ドシラソファミレと下がっていって、六個下にある『レ真面目』くらいにはなって欲しいと思った。
運動会当日に、前日の雨で校庭が水浸しになっていて、しかも乾燥ワカメが有り余るほど家のキッチンにあるとしたら、迷わずに乾燥ワカメで校庭の水溜まりの水を吸わせるだろうけど、今は慎重すぎで車を譲りすぎているので、横断歩道がずっと渡れない彼女がいるこの状況を突破してくれるワカメがあったら、真っ先に使ってしまうくらい、大量の増えたワカメに脳を飲み込まれてしまったような気分になっている。
1パーセントの危険でも、動かないので渡れない風景がずっと続いていて、このままでは地面と靴底がくっつくぞみたいに思ったりしたが、【身長と横幅が大きいから小さく見せるために下がりたい、彼氏は顔も背も小さいから、3歩下がってついていきます】みたいな人みたく引くことはなかった。
車がいなくなって、【内装が毛糸のバスのなかで、毛飛ばすことと蹴飛ばすことをした】みたいな文章のようなややこしさが一切無くなったことを実感したとき、彼女は『「巣から熊だ!」と騙くらかす』という回文を見つけたときのように、かなり強い嬉しさを表情に表しながら、ようやく渡り出した。
今は、血を採りに行っている訳だが、ずっと止まっていたせいか、脳にあるはずの血が足にいっている感覚に陥り、すっかり何目的かを忘れてしまっていて、しっかりと目的を覚えていた彼女は僕に、【血は何リットル採ったら体調悪くなるの?】ということを聞いてきた。
彼女がキャラに徹底しているわけではなくて、キャラがとり憑いてキャラを徹底せざるを得ないという状況にいると分かっていても、献血で得られる報酬は最小限しか受け取らないと、断言する彼女に少しの演技くささを感じた。
地上波の他にも、BSやCSなど50以上の番組が見られる世の中で、ひとつの番組に絞るなんて、あまりにも酷なのではないかと思っていて、テレビ番組と真剣に向き合っていない僕とは違い、彼女は、時間とも真面目に向き合っていて、スマホの時計を何度も見たり、両腕にしている腕時計を何回も確認する姿があった。
正確な時間を確認するため、時計はひとつでは足りないという、真面目を通り越したものを彼女は発揮していて、彼女の姉から貰った、傾向対策ノートの対策ラインに辛うじて乗っている彼女の行動の数々に、今日はまだ余裕を感じられている。
献血する施設は『血』という漢字みたいな建物を想像していたが、『血』というよりも、『皿』に似ていて、彼女は献血ルームに入って腕を差し出して帰ってくると、瞼が食い込むくらいの目瞑りをまだ続けていた。
献血デートも終盤を迎え、家へと帰っていると、僕に深々と九十度以上のお辞儀を突然やりだし、感謝の言葉を間も置かずに、早口で500文字くらいスラスラと出し続けていて、余裕が出てきていた脳にそれが詰め込まれて、若干、苦しくなった。