#27 ぶりっこ③
彼女が行きたかった場所というのは、フォトスポットで、家から歩いて行けるらしいそれは、10年生きた人から20年生きた人の間の人間を中心としたティーンだか、ディーンだか、そんな名称のついた人ばかりの空間らしく、実際に行ったらその通りだったみたいな、そんなことが起きたすぐ後が今である。
彼女はピンクの中からピンクを出してピンクを鼻に当てて、鼻をちーんちーんとかんでいて、ピンクではないのは彼女の鼻水ぐらいだろうと、笑って話せるくらいの余裕なんてなくて、鼻をただ赤らめることしか出来なかった。
そして可愛くない豪快な鼻のかみ方で周りに轟かせたあとの周りの反応は、ざわざわざわざわざわざわといった感じで、バフンウニと初めて耳にしたときのような動揺が周囲には、わんさかわんさかあった。
そのあとにした彼女のくしゃみは流石の可愛いくしゃみで、クシュン、だったのだが、個人的に好きなくしゃみは、チュン、なのでテンションが上がりきることも、この状況がましになることもなかった。
今気づいたのだが、今は彼女の言葉の内容にぶりっこ要素は全くなくて、僕にとって、ぶりっこをやめてくれるか?という言葉は、ワンタン麺専門店宣伝人兼担々麺専門店審判員、という言葉より言いづらい言葉なので、なんとか助かっている。
ただしゃべり方がぶりっこなだけで普通の人だなと、今の彼女のことを思っているが、10度を下回っていない気温だというのに、右手人差し指だけ霜焼けになったり腫れたり、右手薬指のひらだけひび割れたりする敏感な僕には、このあとに起こるヤバイ出来事が何となく肌で分かる気がする。
しゃべり方以外のぶりっこの要素や少し変なところは、ほっぺたを膨らませることの一択で、僕には可愛いハリセンボンに見えたり見えなかったりしていて、ハリセンボンのことを真剣に考えたのは、バフンウニという名称に違和感を感じなくなって少し経った頃以来だったと思う。
霜焼け前と霜焼け後の指は1.5倍くらい差があるが、そのくらい、彼女の睡眠前と睡眠後では何かが増えている気がするな、とか、クーラーが無いことよりあなたがいないことの方が耐えられないよ、とか、ぶりっこ少ないな、とか思っていたけど、僕の気持ちを察したのか、彼女のことを考えて黙っている僕に、必殺首かしげをしてきた。
喋っているとき以外はほっぺを膨らましていたが、喋るときも膨らませようとしていて、中臣鎌足行ったり来たり、という早口言葉よりもこの世に簡単なものはないし、彼女の考え方より簡単なものもたぶんないと感じた。
可愛い歩きと可愛いほっぺの状態で僕の手を引っ張ったけど、その力は可愛くなくて、急に引っ張られたことで、欲しくはないのに歯医者で300円の歯磨き粉を買わされて、一回使っただけで合わなくて使うのを止めた、あの嫌な感じが蘇ってきた。
どうやらフォトスポットが空いて馬鹿力で引っ張ったらしいが、想像にやられて全然気付かなかくて、フォトスポットなのかホトスポットなのか、呼び方を考えたり、フォトスで切って言った『フォトスぽっと』の方がカッコいいなとか考えていた。
フォトスポットに着くと、周りの人々がこちらにカメラを向けていて、でも僕はそんなことよりも、前髪がカールしてちょうど鼻の穴に入る状態になっていて、鼻がムズムズしてくしゃみが出てしまったのだが、この場合は、ちょうどよくカールした前髪が悪いのか、穴が少し上を向いていて少し広い鼻の穴が悪いのか、そうさせてしまった僕が悪いのか、分からなくなってしまったけど、一番悪いのは、一番最後のヤツだろうみたいに思った。
誰かに撮られること大歓迎というような顔を彼女はしていて、まるで有名人の記者会見のようだったのだが、もう彼女は有名人のようなもので、明日にはすべての人に忘れられるとしても有名にかわりはないので、すごいなと思った。
僕が写真を撮る係だと思っていたが、彼女と一緒に映るらしく、今になって彼女はだんだんと素に近づいてきていて、TV雑誌を買って袋なしで持ち帰っていたら、地面に落としてしまって汚れていないか見てみたら、裏表紙が汚れていたのだが、それは裏表紙の広告に元々あった汚し演出で、ホッとしたことがあり、そのときくらい今もホッとしている。
ブラックの羽が生えたように見える壁のフォトスポットだが、彼女の可愛さがまぁまぁ映えていて、♪貼るよ!テープ貼るよ!瞼閉じればそこに~と口ずさんでいた一年前の彼女くらいの可愛さがあった。
そこら辺のお姉さんに撮影を頼んで、ポーズを決めた彼女だったが、舌を出した狂気な顔に、手をパーにして空に掲げるという、変な格好をしていて、悪魔の子みたいに見えて、寝言で彼女が『私ずっと充実してる。そして、私ずっと柔術してる』と言ってきたときくらい怖かった。




