#19 天然ボケ②
彼女が忘れ物を取りに行って、取ってきたのだが、ポケットにスマホと間違えて入れていたのはカタチがそっくりな温度計だったという、天然ボケから数秒たったのが今で、今はもう、どうしていいか分からなくなっているという言葉がピッタリだ。
再び慌ててスマホを取りに行ったが、部屋に上がるのに靴下は脱がなくていいのに、慎重に脱いで、しかもゴムが伸びないような畳み方までしていて、天然というより、養殖という文字の方が、脳に深く刻まれていた。
スマホを手に帰ってきたけど、そのスマホは確実に、あのみんなが持っている本物で、正真正銘モノホンのスマートフォンで、それは良かったのだが、スマホ型温度計は戻してこなかったので、外にはその温度計を絶対に持っていきたいらしい。
さっきと今で変わったことと言えばもうひとつあって、それは少し寒かったのか上着を数枚着てきたというヤツで、羽織るほどの気候でもないし、特に必要があるわけではないのに、何でだろうと、考えて考えて考えすぎてしまっていた。
寒かったのなら、別に彼女が何かを羽織ることを否定するつもりはないのだが、ハンガー込みで着ちゃってるから、肩がピンとなっていて、後頭部にはハンガーの引っかける部分がニョイッと出てしまっていて、思い切り頭を抱えた。
彼女は、外の温度ばかり気にして、ハンガーに全く気がついていないから、教えてあげようとしたけど、教えたとしても、これが最先端のファッションだと言われたらそれまでで、もう何も言えなくなってしまうから、そのままにしておくことにする。
漫才のグランプリとコントのグランプリと一人芸のグランプリの三つの大会を総合して、一回戦は漫才で、二回戦はコントで、三回戦は一人芸を披露するという形の大会があってもいいなっと思ったけど、それにしても天然ボケの人がやりそうなことを彼女は全部やっていて、こんなのなければいいなっと思ったものを、彼女にほとんどやって見せられていた。
パジャマで外に出る以上のことを彼女がしなければ大丈夫だと、自分に言い聞かせて、彼女に、背中に何か付いてるっぽいな、と言って上着を脱がせて、ハンガーを回収したが、そのハンガーは硬い針金のハンガーで、硬すぎて硬すぎてかなりゾッとした。
歩きを進めていって、進めていった先で、次に段差も何もないところで彼女が転んでしまって、ヒザがつくかつかないかの時に、思い切り抱き寄せたけど、思い切り前に倒れてしまい、彼女の上に覆い被さる形になってしまった。
外見で見る限りは、彼女に天然の要素もオカシそうなところもなくて、安心していたが、サラダチキンのことをチキンサラダと言った友人に、思わず『ステイホームをホームステイと言い間違えるのと同じだよ』と突っ込んでしまった僕だからこその、なんか嫌な予感がする。
お父さんは子供を喜ばすために俳優並みの演技力があった方がいいと思っていて、それなのに僕の父は大根役者と呼べるくらい下手で、彼女はヒザというヒザを全て擦りむいたみたいなのだが、僕と違って彼女はそれなのにという言葉を使わなくていい環境にいて、どうやら絆創膏がバッグに入っているらしい。
彼女はバッグを覗いていて、覗くと絆創膏もあったが、テレビリモコン、テレビリモコン、エアコンリモコン、テレビリモコン、DVDプレイヤーリモコン、扇風機リモコン、テレビリモコン、コンポリモコン、テレビリモコンと、リモコンだらけだった。
僕の部屋にあるデジタル温度計は、上段に大きく温度、下段に大きく湿度を表示するのだが、もしも気温55度の湿度77%だった場合、ひっくり返したら、スマホのように自動画面回転機能は付いていないので、LLとSSみたいなアルファベットが表れて面白くなるのに、今のこのバッグの外出バッグとは思えない光景に、面白くなりそうな予感は皆無だった。
クーラーや照明や扇風機やDVDプレイヤーなどの、ほぼ全リモコンがあったわけだが、外出先ではそのリモコンの本体はどこにもいないわけだから、それはただのガラクタということになって、テレビの見すぎで知識がつきすぎて、クイズ番組の正解率一桁しかないクイズにも、簡単に答えられるようになってしまった僕くらいムダだなと感じた。
彼女のキャラの詳細をまとめたノートを見ても、全く予想できない出来事ばかりで、まだ今日は始まったばかりだから、かなりかなり怖くて、かなりかなり怖くて、かなりかなり怖かったが、絶望的な天然ボケではなく、とてもポップな天然ボケだったらいいなと想いを巡らせていた。
鞄に手首をしっかりと入れて、ニヤリと笑う彼女に、嫌な予感しかしなかったけど、案の定、彼女は悪巧みをしていたみたいで、DVDプレイヤーのリモコンを僕に向けて押してくるという、あきらかな養殖ボケをしてきて、それを喰らったとき、少しだけ楽になった。




