#12 ハイテンション②
彼女がハイテンションキャラになって、僕がこっそり奥に消えて、誰もいないひとりの空間で彼女が叫び続けて、急に我に返ってひとりだと気付いた顔を赤らめている彼女の姿を想像して笑みがこぼれたが、近所迷惑の四文字が頭に浮かんできて抑えた、というのが今の場面だ。
【急いでいてボタン押し忘れた、と聞こえて何のボタンを押し忘れたのだろうと思っていると、急いでいてボタンをし忘れた、の間違いで、ボタンは服のボタンだった】みたいなそんな間違いがこの先に山程起きそうで、外に出たいと彼女に言われたが、絶対に彼女のハイテンションがみんなに引かれると思い、外出を少し渋った。
結局は何が一番大切かを考えて、考えて考えて考えまくった結果、お姉さんのノートを確認することが一番の近道だと気がついて、ノートを鞄から出して、指でもって指で開いて、指でなぞって目でなぞって見た。
ノートを見てみると、ハイテンションキャラはすでに記されていて、そのハイテンションキャラというキャラ名の横には、難易度が書いてあって、それはマックスで、他のものの難易度は青色のスターなのに、このハイテンションキャラの難易度は、赤色の流れ星だった。
そのなかには、マスクを付けてみるという、一時的な対処法が記されていて、嬉しさを少しだけ感じていたけど、合体ブームが来ている僕の脳では、何よりも何よりも[ノート]という言葉を手で挟んでぎゅっと押したら[升]にならないかな?みたいなことばっかり考えていた。
駄々っ子のような彼女にとりあえずマスクをつけてみると、テンションに蓋をするように、テンションはやわらかなものとなり、[互いの窓を開けている状態で対向車と擦れ違ったとき、その対向車が大音量で音楽を聴いていて、窓と窓がちょうど重なった一瞬だけ、耳を殴るほどの音楽が直にドンと来て、一瞬にして去っていった出来事]のような驚きも少なくなると信じていた。
動作からはハイテンションが漏れ出していても、音は抑えられて、安心していたが、その代わりに【床に落ちているものがたとえ糸くずや小さなホコリであっても、100%それらとは限らないから、早急に拾ってしっかりとティッシュペーパーで包んで捨てないと、動きそうで不安だからいつもそうしている】ということを思い出してしまった。
出掛ける場面で、玄関にある、おろしたばかりの新しい靴に、彼女がテンション上がってしまったけど、そのテンションに僕のテンションが吸われることなく、いつものテンションでいたのに、僕のテンション下がるなテンション下がるなと、テンションのことばかり考えてしまい、なんかおかしくなりそうになった。
魔法の靴のように、まるで靴に操られるように身軽なダンスを始めた彼女はもう、止めることなんて出来なくて、音楽内に電話が鳴っていたら、現実に鳴っている電話の音と間違えてしまうかもしれないけど、その音楽内の電話の音と、現実の電話の音と同じくらい、今の彼女のそれは格差ない感じだった。
外に出たらフィギュアスケート並に回っていて、もうこれでもか、これでもかこれでもか、というくらい、ヤバいくらいに回っていて、感情を全部出して隠さなくて、フィギュアスケートの美しさと格差なくてまあいいな、みたいな感じに思っていた。
何を決めるでもなく、歩いて歩いて歩くことにしたけど、バラエティーやオリンピックなどでテレビ画面に表示される[まもなく○○]の意味は、僕の体感からいうと[一分から一時間後]くらいの時間だろう、とかをただただ考えている間に、100人に映像を見せたら99人が【街!】と答えるような場所についていた。
歌うときにハシビロコウのように全く動かない【棒立ちアイドル】がいてもいいと、思ったことがあるので、こんな彼女のようなテンション高めのアイドルがいても、いいかもしれないと、思っていたその時、彼女は大好きなピンクの服をガラス越しに見つけて、激しく跳び跳ねた。
ついテンションを抑えるように、押さえつけるように、彼女の肩に手を置いてしまい、後悔を覚えたが、僕は心配性で、ある心配事を心配しすぎて、その心配事の心配中の行動がテキトーになってしまい、その行動を改めて1から考えて辿っていくみたいなことを繰り返してしまう、そんな性格だから毎日疲れていて、今もそんな心配の渦に巻き込まれているような気がしていた。
すると、急にスンッと何もかも静かになって彼女は、【スマホに入っている絵文字の候補のなかに、青色のハシビロコウがいた気がして、もう一度確認したが見つからず、二度と見つかることはなかった時の僕】みたいなテンションの静けさになっていた。
昔、剣道部だった男女の告白の場合、「結婚を前提に僕と付き合ってください」ではなく、「結婚を前提に木刀で突っつき合ってください」になるだろうけど、今後の僕たちの木刀で突っつき合う激しさが想像できるような感じになっていて、嵐の前の静けさという言葉が頭に浮かんだ。
僕はいつも通り『【おしい】という言葉は【おいしい】という良い言葉と、一文字違いという点においても【おしい】と言える』みたいな、どうでもいいことを考えたりの普通の身体で、明日もなんとなく収まるのだろうけど、彼女の今日のハイテンションの負担は計り知れないものだったので、彼女の明日の筋肉痛と、喉の渇れと、キャラ大爆発が心配だ。




