#11 ハイテンション
彼女のおばさんの家で、真星ちゃんという人物に会って二人のことを占ってもらって、占った結果、相性がよくて別れることはないと言われたけど、他の事柄が無性に気になったみたいなことを言われたことがあった翌日が今日だ。
いつも好きになる芸能人の顔は、だいたい好きになって少し経つと忘れてしまって、その芸能人によく似た系統の顔の別の芸能人の顔がずっと頭のなかにいるのだが、その脳内現象に科学的な名称が付けられていないなら付けたい、と思っているくらいのテレビ好きの僕が、テレビを大音量で流しているのかなと思うような音で目が覚めた。
ハイテンション芸人とか、叫び芸の芸人さんか何かかと思っていたが、昔地震がもうすぐ来ることを知らせる【緊急地震速報】みたいな音が遠くで鳴っているように聞こえることが2.3回あって、それなのにテレビも付いてないので実際には鳴っていなくて、それは【緊急空耳地震速報】だったみたいなことがあったから、またそれの類いかとも思っていたら、僕の彼女だった。
彼女がニワトリのように、朝になったことを知らせて起こしてくれたのだと思ったけど、冷たい飲み物をグラスに注いだときにグラスの周りに付着するあの水滴が、澄んだ綺麗な水滴であるのかないのかがいつも気になるように、彼女が本当に澄んだ綺麗な心で起こしてくれたのかが、少しどころかかなり気になった。
やはり、起こしてくれたのではなく、ただの声出しだったことを知って、改めて彼女に現れるキャラクターの怖さとか奥深さとか、テーブルのない部屋で高くて平らな場所がどれだけ有り難いかとか、その他諸々を、しっかりと感じられた。
今日はハイテンションキャラだと気付いたとき、頭痛の予感がして、段々とありとあらゆる場所から痛みのようなものが溢れてきたが、「喧嘩は売ってません、ここは幸せ屋なので・・・」というセリフが決まり文句の口が悪い店員がいたらこの世は終わりだよな、と思ったときの感情に少しだけ似ていた。
スマホの音楽をイヤホンをつけて聞くとき、音量をあげすぎて、これ以上あげたら耳壊れますみたいに言われるような僕の耳だから、少しは鈍い聞き取り機能を持っているものだと思っていたが、流石のハイテンションキャラだけあって、もう音質も音量も全然次元が違った。
声だけでなく、床が抜けるような動きも凄くて、ハイテンションを内から外に、あらゆる手段を用いて排出しているような感じに感じられて、溜めた覚えは全く無いというのに、自然と溜め息というものが口から出ていた。
端から見る以上に、ハイテンションは接触時の衝撃もかなり凄く、ハグも命懸けで、僕が超人のポテンシャルを持っていたとしたら、トラックが突っ込んでくるのを受け止めるくらいの力と均等がとれるくらいの関係性だろう。
テンションが上がっているせいか、普段の人見知り感は彼女にほぼなくて、オトメハゼという魚の映像を最近テレビで見たのだが、乙女というよりも、ヤンチャ坊主という言葉の方が似合う感じで、まさにギャップは彼女と似ているところがある。
愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してると、ずっと彼女が叫び続けていて、七回を越えたあたりから、【これは三桁行くな!】と確信を持ち、見つからないうちに、避難場所であるトイレに逃げ込んだ。
自分の叫びで彼女は、耳も注意力も散漫になっているから普通に行けたのだが、その注意力散漫の度合いは、僕が【掛けるという言葉は様々な使い道があるので、掛けるについてもっと知りたいなと思っている度合い】とほぼ一緒くらいだと思う。
トイレでウォシュレットのことを考えるでもなく、ウォシュレットを浴びるでもなく、レジによくある小銭を置くトレイの名前は何だったかなとか、ウォシュレットに似ているウォレットという言葉は、確か財布って意味だよなとか、考えていると、急に叫びが止んで、足音がドタドタと近づいてきた。
あんなに大きい声を出していた彼女だったのに、『洋服は破れたら買う!破れたら買う!』の精神でやらせてもらっていますというように、あんなに前のめりになっていた彼女だったのに、急に小さい声になって、僕の名前を敬語で聞いてきて、充電が切れかけているのか?みたいに思った。
トイレの外で、僕の名前を確かめるように呼んできたので、そうだよと答えると、いつものというか、さっきのテンションに戻って、奥の奥の右の右の下の下の斜め手前の左の左の左の左にずっと眠っていた、彼女本来の人見知りが出たなと感じた。
誰もいないひとりの空間で叫んで、急に我に返って、顔を赤らめている姿を想像して笑みがこぼれたが、近所迷惑の四文字が頭に浮かんできて、急に現実から逃避したくなって、【僕がマスカットだったとしたら、シャインマスカットは無理だが、アルバイトマスカットくらいにはなれそうだな】みたいなことを考えたりしていた。




