第6話 最果てを超えて…肉焼き対決??
※本作では異世界「神域」と、元の世界「地球」それぞれの視聴者コメントを区別するため、以下の形式で表記しています。
- 『地球のコメント』…地球の動画配信プラットフォームでの視聴者の反応
- {神域のコメント}…神域における神族・精霊・転生者などの視聴者による反応
配信活動は両世界に同時発信中!それぞれのリアクションもお楽しみください!
朝露が煌めく大地に、鳥のさえずりが柔らかく響く。
異世界の空に浮かぶ二つの太陽がじわりと昇り始め、森に静かな金色の光を注いでいた。
そんな朝の空気を胸いっぱいに吸い込んだ真斗は、マイハウスの玄関前でふと空を仰ぎながら一言、ぼそりと呟いた。
「さて、行くか。街に」
静かに、しかし確かに決意が込められた声だった。
その背後では、アルとオルフェンがすでに旅支度を整えていた。
「真斗様、本日の天候は晴れ。湿度38%、風向きは東南東。絶好の旅日和です!」
張り切った口調で報告するアルは、腰に小さなサイドポーチを提げていた。中には応急回復用の魔法道具と、こっそりと用意した真斗用の非常食が詰まっている。
オルフェンはといえば、いつもの威圧感ある狼獣の姿ではなく、すでに“人間サイズ”へと魔術で変化していた。
銀灰色の髪と整った顔立ち、鍛え抜かれた長身の姿は、まるでどこかの王族か近衛騎士のような気品すら漂わせていた。
「……街では騒ぎを起こさぬよう努める。いや、真斗」
「それでいい、相棒」
真斗は微笑みながらオルフェンの背を軽く叩き、そして俺の城に手をかざす。
「召喚反転 収納」
瞬間、家全体が青白い光に包まれ、数秒後には真斗の右手の親指に銀色の指輪として収まった。
「よし、これで忘れ物もなし……っと」
彼は腰のポーチを軽く確認し、配信用のマジックアイテム世界撮影と地球転送が起動しているのを確認した。
「行こうか。今日は配信向けに面白い風景が撮れそうだ」
旅支度の完了と同時に、真斗の中に不思議な高揚感が沸き上がっていた。
この世界には、まだ知らない景色や文化が広がっている。
そしてそれを「伝える」ことが、自分にとって“動画配信者”としての意味にもなる──そう確信していた。
オルフェンは腕を組みながら首を軽く回し、人間姿にまだ慣れない様子で少し肩をすくめた。
「しかし、この姿は歩きやすいな……視線があまり集まらないというのも新鮮だ」
「そりゃあな。お前の元の姿じゃ、まず門番に止められて入れないだろ」
「む……確かに……否定はできん」
「でも大丈夫!オルフェンさん、きっと人間姿でも人気者になりますよっ!」
「ふ……そうか?」
いつもは戦闘狂のように豪快なオルフェンだが、アルの無邪気なフォローに少しだけ頬を緩ませていた。
三人は朝の柔らかな光に照らされながら、最果ての大森林を後にし、石畳へと続く道を歩き始めた。
その足取りは、希望に満ちていた。
最果ての大森林を抜ける道は、自然と文明の境目のようだった。
はじめは木の根が複雑に張り巡らされた獣道のようなものだったが、数十分も歩けば、徐々に整備された小道へと変わっていく。土は踏み固められ、道の両端には苔むした石の縁が丁寧に積まれていた。
「お、なんか街に近づいてきたって感じだな」
真斗がふと道の脇に目をやると、そこには腰ほどの高さの小さな石碑が並んでいた。
よく見ると、各石碑にはそれぞれ異なる紋様と文字が刻まれており、中心には魔力を帯びた淡い光が灯っている。
「これ、何かの祠か? それとも道標?」
アルがにこやかに解説する。
「精霊碑ですね。旅人の安全を祈って、土地の守り神へ感謝を捧げるために設置されたものです。
それぞれの紋様は、周囲を守護する属性精霊のものですよ」
「ほう……そういう信仰文化もあるのか」
「もちろんです。異世界の旅路は危険ですから、こういう祈りの文化も大事にされてるんです」
オルフェンが腕を組み、感心したようにうなずいた。
「我の故郷でも、古の森にはこうした碑があった。だが、これほど精巧なものは少ない……。アオゲニストの魔術技術は、やはり侮れんな」
さらに歩みを進めると、今度は道沿いに建つ木造の東屋のような休憩所が現れた。
屋根付きのベンチに、簡易な水汲み場、そして柱に埋め込まれた魔力灯。
「これ、夜でも使えるように魔法で照らされるようになってるのか?」
「はい。魔力灯は持ち運びもできる簡易型と、こうした定着型があるんです。
魔力量に応じて明るさを変えたり、色を変えたりもできるんですよ」
「へえ……想像以上に文明進んでるじゃねぇか」
真斗は腰ポーチから世界撮影用の小型魔晶カメラを取り出し、くるくると回転しながら景色を撮影していく。
「石碑も、街道も、こういう“何気ないけど異世界らしい”映像が地球には刺さるんだよな」
オルフェンが横目でカメラに視線をやる。
「本当に、この小さな機械が“別の世界”とつながっているのだな?」
「まぁ、魔法×テクノロジーの合作みたいなもんだ。お前も配信映ってるぞ?」
「……フン、ならば顔を作る必要があるな」
オルフェンはふいっと顔を逸らすが、耳がわずかに赤く染まっていた。
「照れてるんですか?」
「ち、違う。そういうわけでは……ない」
真斗は思わず吹き出しそうになるが、そこはこらえて映像チェックに集中する。
「よし、この道中映像は一本動画にしてまとめるか。『異世界道中旅ログ:アオゲニスト編』──って感じで」
「また再生数、増えますねっ!」
アルが嬉しそうに手を打つ。彼女の目はまるでプロデューサーのように輝いていた。
その後も彼らは、道中に現れる小動物や珍しい植物、空に浮かぶ浮遊岩などを興味深く観察しながら旅を続けた。
中でも印象的だったのは、木々の合間から差し込む光が自然に屈折し、小さな虹のような光輪を浮かべていたこと。
「……この世界、普通に美しいな」
真斗がそう呟いたとき、アルもオルフェンも静かにうなずいた。
空気は澄み、風はやさしく、そして確かにこの異世界の息吹が彼らの周りに満ちていた。
「こんな場所を、もっと伝えていけたらいいな……」
それはまさに、真斗が“この世界での生き方”を見出し始めた瞬間だった。
──次の視界には、ついに街の輪郭が見え始める。
「お、あれが……アオゲニストか」
街へ向かう彼らの足取りは、少しだけ速くなっていった。
一方その頃、地球では
《異世界生活者のチャンネル “マナト / 異界Vlog”》
「異世界……って本当に、あるのか?」
そんなタイトルの配信が、今まさにバズっていた。
YouTubeに似た地球の動画サイト《StreamCircle》では、異質なサムネイルと“リアル”な空気感に引き寄せられた視聴者が、一人、また一人と動画を再生していく。
サムネイルは真斗が撮影した石碑と浮遊する魔力灯、そして異世界の青と紫が混ざった空。
コメント欄には驚愕と混乱、そして興奮が爆発していた。
⸻
『ちょ、これ……本当に実写!?』
『VFXってレベルじゃねーぞこれ』
『あの木、現実には存在しないよな?構造がもう異世界』
『ガチで向こうの文明紹介してんじゃん!何この精霊碑とか魔力灯って!?』
『背景の光源が明らかに太陽“2つ”あるんだけど?やべぇ世界来たな……』
⸻
「これが、“映える”ってやつだな……!」
異世界の旅の合間に、真斗は片手で小型タブレットを操作しながら地球配信のリアルタイムコメントを流し見していた。
視聴者数はすでに6万人を突破。登録者も急増中。
SNSでも「#異界Vlog」「#マナト配信」がトレンド入りし、同業配信者たちや、オカルト系インフルエンサーまでもが騒ぎ始めていた。
⸻
『あの配信者、ただの実況者かと思ってたら“異世界行き”とか何それ!』
『やばい、夢あるなこれ……本当に行けるなら俺も行きたい』
『この街並み、どこかの海外のスタジオセットとかじゃないの?』
『現地で魔法が使えるって……チートすぎるだろ』
『ていうかこの人、料理もうまいし、見た目もイケボだし、まさか……異世界主人公……!?』
⸻
「うわっ、すげぇことになってるな……!」
真斗は思わず目を丸くした。
それもそのはず。
彼が世界撮影を介して異世界の映像を地球へ送信できるようになってから、たった数日で世界中に“異世界”という概念がリアルな映像で浸透し始めていたのだ。
しかも、今回の配信では初の“異世界道中映像”。
ただの戦闘ではなく、現地の文化や生活感がリアルに伝わることが、視聴者の知的好奇心を大きく刺激していた。
⸻
その頃、とある動画配信事務所では──。
「この配信者、“マナト”って名前の奴……どこのプロダクションにも所属してないのか?」
「調べましたが、どこにも履歴がないですね。個人でやってるはずです。でも……映像の構造が完全に“未知”です」
「おい、コンタクト取れるか調べとけ。これは新時代のバケモノかもしれん……!」
⸻
さらには、国際的なメディアも注目し始めていた。
“異世界系動画”という新たなジャンルの誕生。
しかも、それがただの創作や演出ではなく、“リアル”である可能性が出てきたことで、各方面が水面下でざわめき始めていた。
⸻
「これ……ちょっと本当にヤバいやつかもしんねぇな」
真斗は苦笑しながらも、どこか満足そうな顔でコメント欄を眺めた。
その横でアルがぴょこっと覗き込む。
「真斗様っ、視聴者の方が“アルちゃんも出して!”って言ってます!どこから見てるんですか!?って!」
「まさか……俺の視界を通して向こうにアルが映ってるのか?」
「はい!視界端でずっとニコニコしてる“金髪の小さな美少女”が“謎の女神”だと話題になってます!」
「……まあ、間違っちゃいねぇか」
アルは頬を赤らめながらも、視聴者に向かって小さく手を振った。
⸻
『うおおお!手振ったああああああ』
『アルちゃん最高!女神推し確定!!』
『あれリアルに存在してるならマジでやべぇ世界』
『マナト、お前……ハーレム王か!?』
⸻
「……これは、しばらく“異世界発信者”としての俺の役割、全力でやるしかねぇな」
真斗はそう呟くと、カメラに向かって片手を軽く掲げた。
「この世界の面白さ、俺が全部、届けてやるよ」
そして彼の配信は──ついに地球の“現実”をも巻き込み始める。
──最果ての大森林、街へ向かう道すがら。
「……あの前に、一つ提案がある」
突然、オルフェンが立ち止まり、真斗とアルに振り返った。
「ん?どうした急に?」
「真斗よ、今朝の朝食──あれは確かに美味だった。だが、肉というものの真髄……果たして真に美味を引き出していたのか、少々気になるのだ」
「……つまり?」
「我が一族に伝わる“獣火の儀”、要はだな──肉の焼き対決をしたい!」
「いや何だその儀式!?どこのバーベキュー部族だよ!」
「異議は認めん!腹は空いておらぬが、我が魂が焼かれよと叫んでいる!」
「わけわかんねぇよ!」
アルはぴょこっと前に出て、手を叩いた。
「おもしろそうですっ!じゃあ!《料理配信対決》ってことで、《神域》と《地球》にも同時配信しちゃいましょう!」
「おおっ、それは良いな!」
『料理バトルだと!?やるしかない!』
{真斗様の焼き技、再び見れるのか!}
真斗は少しだけ考えた後、ふっと笑った。
「いいだろう。……だが、ただのバトルにしてもつまらない。勝った方が、街での“夜ご飯”を決める。どうだ?」
「望むところよ。今日こそ人間に牙の“焼き”を見せてやろう!」
「それ、完全に言葉の意味ズレてるからな!?」
⸻
【対決開幕!】
真斗とオルフェンが、それぞれ“肉焼き台”を展開。
オルフェンはなぜか魔獣の骨を組んで作った骨格グリルを召喚。
真斗は旅用携帯グリルを収納から出し、手際よくセッティング。
【素材テーマ:牛肉(創造魔法で同一部位生成)】
アルが審判役として真ん中に立ち、カメラを2台浮かせて中継準備完了!
「それではっ!《異世界 肉料理バトル》!レディ──グリルオンっ!!」
『実況アルちゃん最高!』
{異世界の神域コンテンツ、広がりが来てるぞ!?}
『これ地球にあったら飯テロ過ぎるって!』
⸻
【オルフェン流:焔王式 炎燻焼き】
「我が一族に伝わる、焔の魔力を込めた“燻製火”。内からも外からも肉を焼き締める!」
手にした鉤爪から焔を放ち、木材チップと岩塩で燻しながらじっくり焼き上げていく。
スパイスの調合は野生感全開、獣由来の調味料まで駆使する豪快な料理!
「野性の誇りと歴史を刻みし、これぞ我が焼きの真髄!」
{これは……オルフェン様、まさに“炎の牙”!}
『めっちゃ豪快!まるで野生のグルメ動画!!』
⸻
【真斗流:スキル完封・パーフェクトステーキ】
「創造魔法×完璧主義ノ料理──焼き加減、完璧に仕上げる!」
温度を正確に制御、肉を常に中までジューシーに保ちつつ、表面はカリッと。
ハーブバターと香味野菜のオイルで香り付けし、香ばしく深い旨味を引き出す。
「美味しいってのは、五感すべてで楽しませてナンボだ」
『じっくり寄って!この断面ヤバすぎる!』
{あああっ!ジュースが流れてるぅ!肉の奇跡!!}
⸻
【試食&結果】
アルが真剣な表情で両方を味見。
「オルフェン様のは……野性味と魔力の香りが融合した迫力ある仕上がりっ!真斗様のは……優しく、深く、繊細な火加減が心を包むようです!」
ドラムロールが響く(効果音付き)。
「勝者は──っ!真斗様ですっ!!」
「ふ、ふっはは……焼き対決で、これほどに敗北感を味わうとは……!」
「いや、味はマジで拮抗してたぞ……っていうか、こっちは“地球の調理文明”総動員だったし」
『神技ステーキ勝ったーー!』
{我が肉神に祝福を──}
『オルフェンの男気がイイ!またやってくれ!』
オルフェンはぽん、と真斗の肩を叩いた。
「ならば次は、“伝説の魚”とやらでリベンジだな」
「……それな。街についたら釣り具も用意しないとな!」
⸻
バトルが終わり、肉の香りに包まれた満腹の三人。
そしてそのまま、ふたたび道を進み始めた。
「さて、腹も膨れたし……今度こそ、街へ行くぞ!」
最後まで読んで下さりありがとうございます。
誤字脱字等があればコメント頂ければ幸いです。
また、応援コメントやいいね等してくだされば非常に嬉しいです!