第5話 ようこそ我が家へ。そして、異世界うま飯計画
2025/5/25~再編集して投稿しなおしています!
もしよろしければ最後まで見て行ってね!
「じゃあ……召喚するぞ。召喚魔法、〈家〉──!」
真斗がそう詠唱すると、空間が微かに歪み、地面に魔方陣が広がっていく。
次の瞬間、光の柱と共に一軒家が“ドンッ”という音を立てて現れた。
異世界の大森林の中に、突如として現れた“ごく普通の日本の家”。
この場違いすぎる光景に、オルフェンは口をぽかんと開けたまま、固まっていた。
「おいおい……これが“家”なのか?もはや砦か何かだと思ったぞ……」
「見た目は普通の一軒家だよ。日本じゃね、これくらいが平均的なサイズなんだ」
「……に、日本?」
オルフェンの耳には初めて聞く単語が引っかかったらしいが、それ以上は追及しなかった。
ただただ、異様な“建物”をじろじろと眺めている。
「まぁ、細かい話は後だ。まずは中に入ろうぜ」
家の玄関が“ガチャリ”と開くと、真斗は靴を脱ぎ、上がる。
それを見て、アルは完璧な所作で後に続いた。さすが神。学習速度が異常に早い。
「……ふむ?これは何だ?」
「靴を脱ぐって文化だよ。床を汚さないためにな」
「なるほど……」
オルフェンは身体が大きいせいで、玄関に立っただけでも“みしっ”と音がするほどだった。
中に入ると、リビングの天井に頭がぎりぎり触れる。
「すまん、どうやらお前さんのこの家は、私にはやや狭いな……」
「ま、まぁそれは俺も予想してた。悪いな、異世界サイズじゃないんだ」
真斗がリビングのソファに座ると、ふぅっとひと息吐いた。
やっと落ち着ける、という表情だった。
「さて……まずはだ」
「まずは?」
「飯だ。とにかく、腹が減った」
真斗は立ち上がり、キッチンに向かう。
「俺、三日何も食ってないんだぞ……もう胃が限界を超えて異世界に旅立ちそうだった」
「えぇっ、三日も!?」
アルが驚いたように目を見開く。
オルフェンは「よくぞ耐えたな……」と感心していた。
「なんでアルが驚いてんだよ…まぁいいや。よし、とりあえず……食材を創るか」
真斗は両手を組み、詠唱を始めた。
「創造魔法、食材生成。高級牛肉、新鮮な野菜、赤ワイン!」
ピカァァッ!
魔法陣が広がり、キッチンの一角に“ドスン!”と巨大な塊肉が現れた。
その横では、カラフルな野菜が山のように転がり、最後に“ドガァァン!”と人間の胴体より大きなワイン樽が“庭”に転がった。
「……おい、どうなってんだ!? 肉が……山だぞ!?」
「すみません……これは想定外でした……」
「いや、これは……単位の指定し忘れだな。完全に俺のミスだ……っ!」
真斗は膝をつき、顔を覆う。
「うぅ……でもまぁ、ストックが出来たってことで。保管、頼めるか?アル」
「はい!では私の魔力で、空間収納をご提供いたしますっ!」
アルが微笑みながら手を翳すと、真斗の頭上に青い楕円形のポータルが開いた。
その中に、使わない分の肉や野菜がすいこまれていく。
「すげぇ……これ便利すぎるな……」
「収納魔法は神界でも人気のスキルですからね!」
オルフェンはそれを見て、「文明の極み……!」と感動していた。
「さてと──それじゃあ、料理するか」
真斗は冷蔵庫から調味料を取り出し、フライパンを火にかける。
「よし、こっからは……完璧主義ノ料理の出番だ!」
次の瞬間、真斗の瞳が“キラリ”と光った。
脳内に、膨大なレシピ情報が一瞬で流れ込んでくる。
「……焼くだけ? それが最も……美味いと?」
思わず呟く。
高級食材というのは、奇を衒うよりも素材を活かすのが王道らしい。
「よし、じゃあ……ステーキでいこう」
コンロに火をつけ、牛脂を敷く。
「お前ら、焼き加減の希望は?」
「焼き加減?」
「ミディアムとかレアとか──火の通し具合の話だ」
「私は何でも!真斗様の料理が食べられるなら♡」
「私は……レアだ。血の滴る肉こそ、肉の本懐」
「……あいよ。了解」
真斗は肉の厚みを均等に切り分け、焼き始める。
ジュー……ッという音と共に、香ばしい香りが部屋中に広がっていく。
その匂いに釣られて、オルフェンの尻尾がピコピコと動いていた。
「……我慢できん。早く食わせろ……!」
「もうちょい待て! 盛り付けまでが料理だっ!」
真斗はスキルの補助を受けながら、驚異的なスピードでサラダを仕上げ、テーブルに並べていく。
「よし! できたぞ! 手を合わせて──いただきます!」
「いただきますっ♡」
「……いただきます」
初めての異世界の“ごはん回”。
真斗は、自分の作った料理を見て、ふっと笑う。
「なぁ、アル。さっきの戦い、動画として編集したいな。配信用に残しておきたい」
「はいっ!素材はしっかり保存されていますので、いつでも編集可能ですよ!」
「よし、それは後でゆっくり頼む。今は……まず、腹だろ」
真斗がぽんと自分の腹を叩く。
「せっかく異世界に来たんだ。ただ戦うだけじゃなく──“うまい飯”も届けてやらないとな、配信者として」
オルフェンがふっと笑った。
「その意気だ、真斗。戦いのあとの肉は、格別だからな」
アルも微笑みながらうなずく。
「では、ご飯の準備に取り掛かりましょう!」
──こうして、異世界初の“グルメ配信”が静かに幕を開けるのだった。
「……うまっ!」
真斗は、自分の焼いたステーキを口に入れて、思わず声を漏らした。
舌の上でとろける脂の甘味。肉の繊維が断たれるたび、凝縮された旨味が広がっていく。
「これ、ヤバいな……俺って天才だったか?」
「さすがです、真斗様……♡」
アルは口元をにっこりと緩め、フォークで一口大に切った肉を、うっとりとした表情で頬張る。
「……これは、反則だ」
オルフェンも言葉少なに皿を見つめていた。
かつて大森林を駆け、何百年も強者との戦いに明け暮れていた彼が、まさかこんな形で心を折られそうになるとは思っていなかったのだろう。
「肉を……焼いただけ、なのに。これほど味が変わるのか……?」
「味付けも大事だが、調理法と仕上げの加減だな。火力、厚み、タイミング……ぜんぶスキルに任せたけど」
「スキルに、か……」
オルフェンがしみじみと呟いたあと、口元を拭って視線を上げる。
「なあ、真斗。あんたはこの世界に来て、何を目指してる?」
「ん?」
真斗はフォークをくるくると回しながら、答えた。
「“映える”こと、だな。できるだけ多くの人に“面白い”って思ってもらえる存在になる。元の世界でやってたことの延長線だけど」
「ふむ、理解できそうでできない……が、何か強い願いは感じる」
「そうか? でも、見てくれる人が笑ったり、驚いたりしてくれるのって、いいだろ?」
「……悪くはないな。戦い以外の道も、楽しみ方があるというわけか」
「うん。だからさ──この間の戦い、ちゃんと編集して“動画”にして残しておこうと思ってるんだ」
「“動画”?」
「記録だよ。視覚と聴覚で振り返れる。あとで他の奴に見せることもできるし、何度でも再生して楽しめる」
「それは……便利そうだな」
「でしょ? この世界、娯楽ってあんまり無さそうだし。戦うばっかじゃつまんねぇから、俺が色々持ち込もうと思ってんだ」
「それって……“布教”ってことですか?」
アルが顔を輝かせながら聞いてくる。
「んーまぁ、“楽しみを広げたい”って感じかな。料理とか、遊びとか、映像とか──この世界にあるものと融合させて、新しい何かができたらって」
「なるほど……私も、神として協力させてもらいますっ!」
「私もだ。……こういうの、悪くない。あんたと一緒に飯を食って、こうして語るのも」
オルフェンは照れたように少し視線を逸らした。
その姿が妙に犬っぽくて、真斗は思わず笑ってしまう。
「はは、意外と可愛いとこあるな、お前」
「う、うるさい……!」
そして、少しの静寂が流れた後。
「なあ真斗、質問いいか?」
「ああ、なんでも」
「この“編集”ってやつ……誰がやるんだ?」
「え、俺」
「全部ひとりで?」
「……うん、まぁ」
「なら、私も手伝う! 今回の戦闘、カメラアングル全部記録してあるし、テキストでセリフも書き出せるようにしてます!」
「マジか、すげぇなアル。実況も付けたいし、字幕も入れてくれたら神!」
「任せてください!」
オルフェンがもぐもぐしながら聞いてくる。
「それは、誰が見るんだ?」
「今は“神域”にだけ繋がってる配信だな。けど、いずれは異世界の人間たちにも見せたいと思ってる」
「見せる手段があれば、だがな?」
「それも考えてる。たとえば“動画水晶”とか“聖石スクリーン”みたいなメディアツールを作って──映像を届ける術を広めるんだ」
「それ、創れるのか?」
「創造魔法次第だな」
「ワクワクしてきたな。……我が何百年も彷徨っていた世界に、こんな道があったとはな」
その言葉に、真斗も微笑む。
「異世界×配信=無限大ってことよ」
「その数式、まったく理解できんが──“面白そう”って気持ちだけは、分かる」
「うん。だったら、それで十分さ」
そして、三人はしばらく静かに食事を続けた。
テーブルに並ぶ肉の香り、さくさくのサラダ、ワインの芳醇な香り。
戦いを越えた者たちの、穏やかな時間。
「……なあ、これ毎週やろうぜ。料理して、語って、笑って。それをまとめて動画にして……“週刊・異世界ごはん”って番組にしよう」
「面白そうですね!」
「出演者にしてくれるなら、俺も協力する」
「じゃ、決まりだな!」
そうして、真斗たちの“異世界発グルメ配信プロジェクト”がゆっくりと始動したのであった。
食事を終え、食卓に温かい余韻が残るリビングには、満足気な笑顔が広がっていた。
「ふぅ……これが“まともな飯”ってやつか……」
真斗が手を頭の後ろに組みながら、椅子の背もたれに体重を預ける。テーブルの上には、食べ尽くされた皿の数々と、幸せの余韻が残る空気が漂っていた。
「真斗、本当に……すごかった。料理って、こんなに心が温かくなるんだな」
「おかわりまでしておいて今さら何言ってんだよ」
「いや、心の方な。胃袋だけじゃなくて、なんというかこう……“豊かになる”ってやつだ」
オルフェンが腕を組みながら、どこか照れくさそうに目を逸らす。その横で、アルが頬を緩ませて微笑んでいた。
「人が作ったものを、人と一緒に食べるという行為……それこそが、この世界の文化の核心なのかもしれませんねっ」
「うん、たぶん俺たちが届けられるものって、まさにこういうところなんだよな」
真斗は、食べ終えた皿をひとつひとつ片づけながら、ふと思う。
──この世界の人たちは、どれだけの“楽しみ”を知っているんだろう?
「なぁ、アル。この世界の娯楽って、どんなもんがあるんだ?」
「そうですね……伝統芸能、音楽、武術の演舞、あとはお祭りや演劇などもありますが、やはり“貴族や王族”が楽しむものと、“庶民”が味わえるものには大きな格差があるようです」
「ふむ……となると、“万人が楽しめる娯楽”ってわけじゃないか」
「はい、ですので、真斗様の“動画配信”のような文化は、全く新しい体験として受け入れられる可能性が高いと思います!」
「なるほどな……つまり、“俺のやってること”って、めちゃくちゃニーズがあるんじゃね?」
「間違いありませんっ!」
ドンッ、と拳をテーブルに置いて真斗は立ち上がった。
「じゃあ決まりだ。今後の方針──この世界の“美味いもの”と“面白いもの”、それを“俺の視点”で紹介していくって路線でいこう!」
「旅をしながら、だな」
「そう。いろんな街、村、集落を回ってさ。料理だけじゃない、“暮らし”や“文化”、それから“風景”も届ける」
「異世界バラエティってことか?」
「そうそう、“異世界まるごと発信プロジェクト”ってな!」
「略称ダサっ!」
オルフェンが笑いながらツッコむと、真斗も肩をすくめて笑い返す。
「でも……それって、とても素敵なことです」
アルが真っ直ぐに真斗を見つめる。
「この世界を造った者として、私は……人々に世界の“喜び”を届けられる旅に、心から賛成します」
「……アル」
その純粋な言葉に、真斗は少し照れたように笑った。
「じゃあまずは……さっきオルフェンが言ってた街、“アオゲニスト”だな。そこが最初の目的地ってことで」
「そうだな。食材の買い出しもできるし、街の料理文化も気になる」
「配信の編集作業は、道中の宿でやればいいな。神域のライブは閉じてるけど、録画映像は残ってるんだろ?」
「もちろんです!真斗様の“英雄戦”はしっかりキャプチャ済みですっ!」
「じゃあ俺が編集して、動画を投稿していこう。きっと誰かが、どこかで見てくれる」
そう口にした直後、真斗はふと手を止めた。
「……って、何に投稿するんだ? というか、どうやって?」
アルがぴょこっと顔を上げる。
「地球側の動画プラットフォームには《転送インターフェース》で問題なく投稿可能です! 映像データを圧縮・変換して、私の神域回線を通せば即時アップロードできますから!」
「なるほど、地球はそっちでカバーできるわけか。でも、神域って……そもそも“ネット”ってあるのか?」
「神域では“ネット”という概念ではなく、《記録視認の大環》という広域の情報網が存在します。神々や高位存在たちはそれを通じて知識や映像を共有しているんです」
「なんかすげぇなそれ……神域YouTubeか?」
「はい、“神環映写盤”という媒体に、信仰ポイントを媒介にして映像が流れます」
「じゃあ、そっちには“信仰ポイントで視聴”ってことか……!」
「投稿も簡単ですよ!真斗様の《世界撮影》から《神域転送》を実行すれば、自動で変換されて拡散されていきます!」
「よし、なら編集が終わったら──地球と神域、両方にぶっ放してやるか」
そう言って、真斗は笑った。
「この世界のことを、いろんなヤツらに見せてやる。強さも、景色も、メシもうまいってこともな!」
「ふふっ、いいですね。“神様と旅する異世界グルメ探訪”なんてタイトルもアリかもしれません」
「それ採用」
三人は顔を見合わせ、笑った。
ゆるやかに夜が深まり、窓の外には双子の太陽が沈みつつあった。
その光は、まるで新たな旅路の始まりを祝福しているかのように、静かに輝いていた。
──そして、世界を知る旅が、今始まろうとしていた。
最後まで読んで下さりありがとうございます。
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