第4話 決戦、神技の果てへ
2025/5/25~再編集して投稿しなおしています!
もしよろしければ最後まで見て行ってね!
──その時だった。
ズゥゥゥン……!!
「……!?」
真斗の足元が震えた。
いや、大地全体が、何かの“存在”に呼応するかのように──鼓動を打ち始めた。
「この感覚……おかしい」
真斗が顔を上げた。
そして、その瞳には“明確な恐怖”が宿っていた。
「これはなんだ……?」
「我の全力を見せよう…」
オルフェンが立ち上がる。ボロボロの体を起こし、空を見上げながら言葉を続ける。
「この地、“最果ての大森林”の奥深くに……我々、祝福されし者の始祖が眠るとされている。
それは我らの“原初”にして、“王”の中の王…… 祖獣」
「《祖獣》……?」
「お前との戦いで、我が身の力が極限まで引き出された……その揺らぎが、やつを刺激してしまったのだ」
その瞬間──
空間が、裂けた。
“空が黒く割れ”、その亀裂から、**“黄金の眼を持つ巨大な獣の影”**が、こちらを覗いていた。
「アレが……《祖獣》?」
ズオオオオオオオ……
その存在が吠えた瞬間、真斗とアルの視界が一瞬ホワイトアウトする。
「ぅぐっ……!」
「真斗様、気をつけてください!!」
脳内に、直接語りかけてくるような意識が響いた。
《代行者ヨ、証明セヨ──神ノ力ヲ継グ資格ガアリヤナシヤ》
「な、に……これ……!? 直接、頭に……っ」
「これは……次元を超えた“神域の声”……真斗様、試されているのです!」
オルフェンが再び姿を変え始める。
「お前には……まだ、やるべきことがあるらしいな。ならば、俺も立とう。今度は“試練の騎士”として──お前の資格を見極める」
オルフェンの胸元から淡く輝く紋様が浮かび上がる。
それはまるで古代の神語を記したかのような神聖なルーンであり、呼応するように彼の全身へと次々に広がっていった。
「……我が魂よ、いま再び、狩りの誓いを果たす時──」
風が逆巻き、地が微かに震え始める。
一瞬、空間が“張り詰めた”かのような静寂を迎えた後──
爆風のごとく魔力の奔流がオルフェンの体から吹き上がった!
彼の毛並みは白銀に染まり、赤紫に燃えたぎる焔が四肢にまとわりつく。
その巨体はさらに引き締まり、筋繊維が隆起し、背には漆黒の魔焔で象られた“幻の翼”が浮かび上がる。
目が開かれると、そこに宿るのは理性を超えた“王の眼”。
その双眸には、人間では耐え得ぬ圧倒的な存在感と神意が灯っていた。
「──我、顕現」
オルフェンが一歩踏み出すたび、地面が低く唸る。
神と獣が融合したその姿は、まさに“祝福されし者”の究極体。
戦うための肉体、護るための魂、そして……己が誇りを宿す《証》。
「さあ、来い……代行者よ。その力、神に届くか試してみせろ」
「おいおい、いい加減にしろよまだ変身するのかよ、ったく。最終ラウンド…開幕か……!」
真斗は刀を握りしめ、ゆっくりと構えを取る。
そして、画面越しの視聴者たちに宣言した。
「次は……神をも唸らせる戦い、見せてやるよ!」
地を割る咆哮の余韻が、まだ森を震わせていた。
再び立ち上がった真斗の足元から、白い気が奔流のように舞い上がる。その姿はもはや“人間”のそれではなく、まさしく“神の代行者”と呼ぶにふさわしい威容だった。
対する古代ノ人狼|──いや、今やその名を明かされた【狼獣王オルフェン】もまた、全身を赤紫の炎で包み、まるで災厄そのもののように佇んでいる。
「まさかこの時代に、ここまでの“神意”を宿した戦士に出会えるとはな……」
オルフェンの声には、獣らしからぬ陶酔すら滲んでいた。
「その目……戦いを愉しんでやがるな。だったら、こっちも遠慮しねぇ!」
真斗が構え直すと同時に、アルの声がインカムのように脳内へ響く。
『真斗様!視聴者数、現在三万人突破!信仰ポイントも爆上がりですっ!』
『よし、なら“最終決戦用BGM”を流してくれ』
『了解しました、配信者スタイル全開で行きましょう!』
そして、空気が震えた。
静寂を破るように、世界が“爆ぜた”。
「────うおおおおおおおおッ!!!」
真斗が放った一歩は、まるで雷の如く。
地を砕き、空を裂き、爆音と共に大気を切り裂いて加速する。
その速度は、もはや人の目で追えぬ。
周囲の木々が風圧でしなる中、オルフェンの姿が迫るよりも早く、真斗の刀がその懐へと突き刺さる──はずだった。
「……遅い」
ズギンッ!!
金属同士がぶつかるような鋭い音。
オルフェンの右爪が、まるで未来を見透かしたかのように、真斗の刀を受け止めていた。
次の瞬間──
轟音と共に衝撃波が炸裂。
森を包んでいた木々が根ごと吹き飛び、地面がえぐれ、重力すら歪むような揺れが広がる。
視界は土煙に染まり、耳に響くのは風を切り裂く轟音と魔力のうねりだけ。
「ぐ……っ、この硬さ……本気で化け物かよ……!」
真斗は歯を食いしばり、刀を握る手にさらに力を込めた。
「……は、っ、化け物かよ、マジで」
重い呼吸の隙間に、真斗は思わず呟いた。
全力強化《極・天ノ無縫》に、《白女神開放》を重ねた状態でさえ──まるで歯が立たない。
何度刀を振るっても、オルフェンの肉体は斬り裂けない。まるで神造兵器にでも挑んでいるかのようだった。
「人間よ、お前の力は確かに尋常ではない。だが──まだ、届かん」
オルフェンの声が、低く、威圧するように響く。
真斗の脚が震える。恐怖ではない。それは、本能的な“警告”だった。
(コイツは……地球で何度も死線を越えてきたけど、こんな相手は初めてだ)
(異世界に来てから、最初のバトルでコレかよ……どう見てもラスボスだろ、設定ミスってるって)
(まだ俺、“俺TUEEE”フェーズすら迎えてねぇんだけど!?)
そんなことを考えながらも真斗は、静かに刀を構え直した。
「だったら──こっちも、全部出し切らねぇとな」
――ピキィ……ッ!
空間が歪む。
真斗の足元から奔る雷光は、音を裂き、空へと突き上がる。
空に刻まれた魔法陣が、幾重にも展開され、蒼白い稲妻が空を引き裂いた。
「創造魔法──」
その声は、天地に告げる“神令”のように響く。
「天雷斬零光剣──!」
刹那。
真斗の刀が変貌した。
刃は雷光と風と煌光を宿し、三層の光輪が螺旋を描きながら融合する。
刀身は純白の雷を纏い、刃先が空気を焼き、大地すら跳ね上がらせた。
「全部まとめて──ぶち抜く!!」
雷轟と共に真斗が跳んだ。
振り下ろされるその一撃は、もはや剣技ではない。
“斬光”そのものだった。
「──ッッ!!」
オルフェンの瞳が細められる。
直後、世界が白に染まった。
──ゴオオオオオオオオッッッ!!!
炸裂。
天と地を裂く雷撃が、一直線にオルフェンを貫いた。
数十メートルの大地が抉れ、雷光が跳ね、木々が爆砕し、空すら軋んだ。
視界すべてが白の閃光に包まれ、音が消えた世界の中、ただただその“威力”だけが現実だった。
遠く離れたアオゲニストの観測塔では、魔力計測器が警報を鳴らし、神域の視聴者すら息を呑む。
『あれは……神をも穿つ雷か!?』
『彼はもう“代行者”ではない……!』
『異世界配信、恐るべし……!!』
──静寂が戻る。
焦げた大地の中央、真斗は蒼雷を纏ったまま、立っていた。
右手に握る“アマツノゼロ”はまだ白く輝いていたが──
「……まだ、倒れてねぇか」
煙の向こう。
そこには、倒れているはずのオルフェンが、四肢を地につけて、唸っていた。
「……フン……見事な一撃だった」
だが、その声と共に、彼の身体から再び黄金の気配が立ち上がる。
「速さも力も──この我には届かぬ!」
毛並みが波打ち、空気を裂き、オルフェンの姿がかき消えた。
「──ッ!」
真斗が振り向いたその一瞬前には、すでに背後を取られていた。
ガッ!!!
拳が疾風の如くうなりを上げる。
反射的に刀をかざす真斗。
だが──
ボギィン!!
「──がッ!」
真斗の“アマツノゼロ”が、砕けた。
真っ二つに折れた刃が飛び散り、空中で閃光の残滓となる。
「くっそ──ッ!!」
次の瞬間、腹部に拳が炸裂した。
内臓を揺らす衝撃とともに、真斗の体が宙を舞い──森の奥へと叩き飛ばされる。
地面を数十メートルにわたり転がった。
土が跳ね、木々が折れ、空気が止まる。
「真斗様──!!」
アルの叫びが、遠く響く。
コメント欄は騒然としていた。
『うそだろ!?折れたぞ!?』
『刀が……まさか、あれが限界突破の限界か!?』
『立て、マジで立ってくれ……!!』
だが──
──彼は、立ち上がっていた。
血まみれの顔で、よろめきながらも、目を逸らすことなく。
その瞳は、まだ光を失っていなかった。
「……まだだよ。まだ、配信は続いてんだろ……?」
血まみれの指で、真斗は折れた刀の柄を握り直す。
呼吸は荒く、意識は霞みがち。それでも、その瞳だけは──燃えていた。
「映える“最後の一撃”ってのはな……こういう時のためにあるんだよ」
彼は空を仰ぐ。
既に夜空には二つの月が重なり、幻想的な蒼い光が辺りを包んでいた。
──もう一度、やるしかない。
この命を賭してでも、“配信者”として魅せる。それが、自分に課された使命だ。
「創造魔法──限界超越、再展開」
指先から走る魔力の奔流。
地面に、空に、三重の魔法陣が再び浮かび上がる。
が、これは初回とは違う。
すでに一度“発動している”技を、再び創るという異例中の異例。
真斗の肉体にも、精神にも、とてつもない負荷がかかる。
『っ……待って、真斗様!アマツノゼロをもう一度……!?それはっ……!』
アルの叫びにも、彼はただ、笑って応える。
「いいんだ。俺が選んだ、“映す生き様”だからな」
そして、手を振り上げる。
「創造魔法──」
「《天雷斬光剣・第二原門──起動ッ!!」
その瞬間、世界が光で塗り潰された。
蒼雷が大地を裂き、金風が空を舞い、白光が真斗を神の使徒のように包み込む。
初撃の“ゼロ”を超える斬撃を、この手で創り上げるために──
『……第二のゼロだと……!?』
『己の創造を、己の限界で上書きする気か……!』
『まさか、そこまでして“映え”を求めるとは……!』
稲妻の中、真斗が刀を振り上げた。
その刃は、初撃よりも太く、重く、禍々しさすら帯びていた。
だが、純粋だった。まるで“視聴者に届けたい”という情熱だけが、その刃を形作っているかのように。
オルフェンの目が鋭くなる。
「それが、貴様の──“真のゼロ”か」
「そうだ。この一撃で……終わらせるッ!!」
一歩、踏み込む。
その衝撃だけで、地面が盛り上がり、周囲の木々が吹き飛ぶ。
「──アマツノゼロ・第二閃、開放ッッ!!!」
刹那、蒼白の光が空を貫いた。
振り下ろされたその斬撃は、まさに“ゼロ”──始まりであり、終わり。
すべてを斬り裂く意志が、刃となり、大気を削り、世界を切断するかのような一撃。
『な、なんだこの威力……!?』
『もう演出とかじゃねぇ!!これが本物の“最終技”か!!』
『画面が、光に焼かれる……!!』
オルフェンは拳を構える。
「ならば、俺もすべてを以って応じよう! 激焔爪爆破陣ッ!!」
咆哮と共にオルフェンの全魔力が解放され、巨大な獣の爪の幻影が虚空を裂いた。
そして──衝突。
斬光と烈火がぶつかり合い、世界が震える。
爆音。閃光。光柱。音のない衝撃波。
何もかもが融合し、ただの一瞬に、すべてが燃え尽きた。
──そして。
静寂が訪れた時。
そこに、立っていたのは──真斗ただ一人。
全身から煙を上げ、満身創痍の姿で──
だが、その背に宿った刃の残光だけが、静かに瞬いていた。
「……終わった……な」
その呟きを、カメラが逃さなかった。
『うおおおおおおおおおお!!!』
『まじで終わった……伝説回……』
『第二のゼロ……これはもう、神域配信史に残るやつだろ』
地面には、崩れ落ちたオルフェンがいた。
だが、その口角は、うっすらと笑っていた。
「……アレを創り、放ち……なお生きているとはな……。
人間よ。貴様……本当に、“ただ者”ではないな……」
真斗も、肩で息をしながら、力なく笑った。
「お前に……そう言ってもらえるなら……もう、いいよ」
そして、配信は静かに幕を閉じる。
だが──この戦いの記録は、神域に、そして後に地球へと届き、
“天ノ風 真斗”という名前を、配信界の伝説に刻みつけることとなる。
空が、ようやく静けさを取り戻しはじめていた。
焦げた大地、ひび割れた樹木、辺りに立ち込める魔力の残滓が、さっきまでの激闘の痕跡を物語っている。
真斗はその中心に、肩で息をしながら立っていた。
もう刀は構えていない。ただ、風に揺れるままに、黙って目の前の“相手”を見据えていた。
オルフェンは膝をつき、ボロボロになった肉体から蒸気のように魔力を散らしていたが、まだ……その眼には光が残っていた。
「……はぁ……はぁ……これで……ようやく……動けねぇ……」
真斗が崩れるように片膝をつき、地面に手をつく。
だが、その顔には苦悶ではなく、確かな“達成感”があった。
「マジで、最初から最後まで……規格外だな、お前……」
「……それは……互い様だ……“天ノ風 真斗”……」
オルフェンが、かすかに笑う。
その口元から、また血が零れたが、口調にはどこか、清々しさが宿っていた。
「異世界に来て、初めてだ……。この体で、全力を振るえる相手に出会えたのは……」
真斗はゆっくりと目を閉じた。
(ああ……そうか)
(地球で色んな奴と戦った。ゲームでも、トレーニングでも、本気で挑んだ瞬間はあったけど──)
(本気で“命懸け”でぶつかって、なおこんな風に笑える相手……初めてかもな)
風が、傷ついた両者の間を優しく通り抜ける。
その風の中に、小さく誰かの声が混じった。
「真斗様っ!」
駆けてきたのはアルだった。
彼女はすぐに真斗の傍に膝をつき、両手でその顔を包み込むように見つめた。
「大丈夫ですか!? 回復魔法を──!」
「……あぁ、頼む。正直、限界だ」
「わかりました!」
アルが両手を合わせて詠唱を始めると、やわらかな光が真斗の身体を包み込んでいく。
その間にも、オルフェンは、フラつく足でなんとか立ち上がっていた。
「……これほどの力。これほどの意志。お前は、本物だ」
「……それは、褒め言葉と受け取っていいんだよな?」
「もちろんだ、真斗。……いや、“配信者”よ」
「お前までその呼び方するのかよ……」
「映えただろう?」
「──ああ、世界に刻まれるほどにな」
そう言って二人は、微笑んだ。
アルがオルフェンにも回復魔法をかけはじめ、光が彼の巨体をゆっくりと癒していく。
「……なあ、オルフェン」
「なんだ」
「もし、良ければ──仲間にならないか? 正直、強すぎるお前を放っておくのはもったいない。戦力としても、何より……一緒にいて面白そうだ」
「……ふっ。冗談かと思ったが……」
オルフェンは空を見上げ、静かに言った。
「この数百年……誰とも語らず、誰とも笑わず、ただ“強さ”だけを追い求めてきた……。それが、今、変わった気がする。お前と戦って、心から“楽しい”と思えた」
「……じゃあ」
「その“旅”に、付き合わせてもらうとしよう。貴様が、俺とまた“再戦”する覚悟があるならば、だがな」
「フッ、何度でもやってやるよ」
二人の間に、確かに何かが結ばれた瞬間だった。
アルがにこっと微笑みながら手を合わせた。
「では、お二人。正式に契約を交わしましょう! 例の“仲間の誓い”です!」
「おぉ、そういえばそんなのもあったな」
真斗は立ち上がり、オルフェンの額に手をかざす。
「我、魂ノ根底より、深き絆の誓いを──今ここに、汝に、命ず」
「受け取ったぞ、真斗」
その瞬間、白く柔らかな光がオルフェンを包み、真斗の視界にオルフェンの名前とステータスが表示された。
「うぉ……これで、ようやく姿を他の人にも見せられるってことか?」
「はいっ!もうこれからは、街の人々にもオルフェン様が見えますよ!」
「それは……ありがたい。毎度“透明な狼”扱いされるのは困るからな」
三人は、静かに笑い合った。
そして──
「……さて。全部終わったよな?」
「はい。回復も、契約も、完了です」
「じゃあ──飯、食わねぇ?」
真斗の腹が、タイミングよく鳴った。
オルフェンが爆笑する。
「やはり貴様、人間だな」
「そうだよ。俺、異世界配信者だもん。戦った後は腹が減る。それも含めて“映える”ってことだ」
「……なら、我も食うぞ。共に、な」
真斗は《マイハウス》を召喚した。
「家で、ちゃんと座って飯食おうぜ。配信、まとめるのはその後にしよう」
三人は、ほのかに煙る戦場を後に、静かに歩き出した。
──そしてこのあと、
彼らは《家での初めての異世界グルメ配信》へと突入していくのだった。
最後まで読んで下さりありがとうございます。
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