第3話 どう考えても初見でラスボスなんだが?
2025/5/25~再編集して投稿しなおしています!
もしよろしければ最後まで見て行ってね!
──息を潜める、森の中。
焼け焦げた地面、斬られた樹木、漂う魔力の残滓。
そこは、数分前まで戦闘が繰り広げられていた“戦場”だった。
だが――敵はまだ倒れていなかった。
「……来ます、真斗様!」
「えっ??」
アルの声が緊迫感を帯びる。
木々の奥、揺れる草影の中から、重く低い唸りが響いた。
ガキィン……ッ!
鋭い爪が岩を砕きながら飛び出す。
全身に傷を負いながらも、人狼はなおも立ち上がっていた。
その眼光に宿る意思は――「狩る」意志。
「マジかよ……まだ動けんのか」
真斗がわずかに息を吐き、日本刀の柄を握り直す。
第1戦では決定打を与えたつもりだった。
けれど、それは“始まり”に過ぎなかった。
「アル、再起動頼む。《ワールドキャプチャ》、オンだ」
「はいっ! カメラ再展開、配信再開します!視聴者数……既に1万突破です!」
画面上には、地球と神域のコメントが次々と流れていく。
『これ続きあったの!?ボス第2形態!?』
『立った……立ったぞあの狼!!』
『マナトの刀がまた見れる!』
『さっきのラストで終わりじゃないのかよ!?』
{ふむ……これは“獣の執念”だ。まだ“心”が折れていない証}
{さあ、再び刃を交わせ。これぞ真なる試練なり}
「アル、音声切るなよ。これ、世界中に“今”を届けるんだ」
真斗の足元に、淡く魔力が走る。
「第2ラウンド──行くぞ」
両手で刀を構え、風を断つ。
「極・天ノ無縫」
空気が裂けるような感覚。
肉体が熱を帯び、五感が一気に鋭くなる。時間すら遅く感じる、異常な集中状態。
感覚の領域を超えた“加速”が、真斗の身体を包む。
そして――
「来い、《わんちゃん》……!」
互いに視線が交錯した次の瞬間、爆音とともに、再び激突が始まった。
次の瞬間、真斗の体から発せられる気配が一変した。
神気のようなものが全身を包み、足元の大地すら震える。
その場にいたアルが思わず小さく息を呑むほどだった。
「これは……五倍強化、ですね。今の真斗様なら、かなりいけます!」
「よし、なら初手は──試し斬りだッ!!」
真斗が地を蹴った瞬間、空気が破裂するような音が響いた。
通常の五感では捉えきれない速度で真斗が地を蹴る。
一閃──
ガギィィンッ!!
「……っ、硬ッ!?」
鋭く放たれた斬撃は確かに命中した。だが次の瞬間、刀の刃が鈍い反響音と共に弾かれる。
刃先を防いでいたのは、人狼の身体をうっすら包む淡青の魔力結界。まるで透明な鎧のように、その巨体を覆っていた。
『えっ、斬れない!?』
『防御魔法!?急に強化されてる!』
『まって、第二形態補正きた?』
『アルさん解説はよ!!』
「は、はいっ!あれは……“祝福の障壁祝福の障壁”です!選ばれし存在だけに発現する、魔力自動防御結界!王種級の魔物にしか発動しません!」
「つまり……今のコイツ、“本気”ってことかよ……!」
真斗の脳裏に走るのは、興奮と焦燥の入り混じった感情。
“本気の敵”──それは同時に、自分の“本気”を試す相手でもある。
刀を握り直すと、真斗は再び踏み込む。
その身体からは明らかに、先ほどまでとは異なる気配が溢れていた。
「てめぇの“鎧”……ぶち抜いてやるよ」
次の瞬間、真斗は刀に自らの魔力を全力で注ぎ込み、極限まで刀身を輝かせる。
斬撃と同時に、創造魔法|による補助を発動。
さらに付与された魔法は、空間に震えを走らせる特殊効果──振動斬|。
「斬れ……!」
放たれた一閃は、ただの斬撃ではない。
それは──
対象に触れた瞬間、“内部から震わせ”、構造そのものを崩壊させる“破壊の波動”を纏った、概念破壊の一撃。
ズバアアアアアッ!!
斬撃が古代ノ人狼の肩口から腰までを深々と裂き、濃い黒紫の血が空へと噴き出す。
『通ったああああああ!!』
『うわぁ!めっちゃ斬れてる!』
『属性貫通きたコレ!!』
『なんか今のエフェクト、音もズンって響いたんだが!?』
『この一撃、映画じゃん……!』
「アル、視聴者反応は!?」
「はいっ!接続数、3万人突破!!」
「っしゃ……!」
その瞬間だった。
――グォォオオオオオオ……ッ!!
空間が軋むような咆哮が、森全体を貫いた。
「ぐあっ……!? 音じゃ、ねぇ……!」
耳を塞いでも意味がない。
これは“音”ではない。魔力で直接精神を叩きつけてくる“衝撃波”だ。
真斗の身体がわずかに揺らぎ、体勢が崩れる。
その刹那――敵が、視界から“消えた”。
「……!? 上か──いや、右!!」
反射で身体をひねる。構えた刀を盾のように構え――
ガアァァァン!!!
咆哮からの瞬間加速。
巨体とは思えない踏み込みからのタックルが直撃し、真斗の身体が宙を舞う。
「ッ、がっ……!!」
地面を転がり、数メートル吹き飛ばされながらも、咄嗟に受け身を取り、片膝で着地。
「──速さまで上がってる……!」
進化した敵のスペックに、真斗は奥歯を噛み締める。
第2ラウンドは、すでに“命のやり取り”へと突入していた。
「っはぁ……今の、一撃で肋骨いったかも……」
「真斗様!無理しないでください!」
「大丈夫だ……けど、こいつ……今までとスケールが違いすぎる」
コメント欄には不安と興奮が入り交じっていた。
『回復スキル持ってないの!?』
『防御手段を!!』
『逃げてもいいのに!』
『これが異世界バトルか……!』
だが真斗は、笑った。
「──最高だな、これ」
その瞳には、不安も痛みもなく。
ただ、“画面の向こうの誰か”に届けたいという、純粋な熱意だけが燃えていた。
「見てろよ……俺が、この異世界で一番のストリーマーになるって決めたんだ!」
「真斗様……!」
空中に浮かぶカメラが、彼の姿をしっかりと映していた。
「アル。後であの突進シーン、スローでリプレイしてな?」
「はいっ!神アングル編集で参りますっ!」
そして、真斗は、もう一度立ち上がる。
その姿を、世界中の“視聴者”が見つめていた。
「アル、チャット反応どうだ?」
「“立ち上がったぁぁぁあ!”“神配信確定!”“これが異世界配信者の本気か…”ってコメントで溢れてます!」
「フッ……悪くない」
真斗は再び刀を構え、肩で息をしながらも、確かな意志を瞳に宿していた。
赤紫の焔が、獣のように揺らめいていた。
その中心に立つ巨躯の影──牙を剥いたまま、ゆっくりとその名を告げる。
「……我が名は、オルフェン。古より《最果て》を統べし、古代ノ人狼|なり」
声には誇りと闘志が満ちていた。
それは、己を偽らず、正面から“敵”に名乗る戦士としての礼。
真斗の目がわずかに細められる。
「そうか。だったらこっちも名乗らねぇとな……天ノ風 真斗|。配信者で、時々、戦士だ」
一瞬の静寂。
そして、獣が笑った。
「フッ……ようやく互いに“名”を預けたな。ここからが、本当の闘争だ」
赤紫の焔が再び燃え上がる。
「さあ、真斗。貴様の刃がどれほどの信念を宿すのか──この牙で試してやろう!」
「望むところだ、オルフェン!」
──戦場の空気が、再び引き裂かれた。
次の瞬間、互いの視界から相手の姿が掻き消える。
そして──
ガキィィィン!!
空中で激突する剣閃と爪撃。
数十メートル上空での高速バトルが展開され、風が唸り、雲すら裂かれていく。
『上空戦入ったー!』
『もう見えないって!』
『カメラついてってる!マジで追えてるの!?』
『画面酔いしそうなのに目が離せない!』
「アル!追跡カメラ、マルチアングルで切り替えろ!」
「了解っ!マジックアイでズーム補正、斜め上45度からカットイン!」
その間にも、斬撃と爪が何度も交錯する。
──だが、押されていた。
「くそっ、オルフェン……今まで以上に動きがキレてやがる!」
「そうとも。我が紅焉獣化|は今こそ完全解放された。真なる姿と力を見せよう!」
咆哮とともに、オルフェンの背から〈焔〉のようにゆらめく双翼が展開された。
その瞬間、翼の羽先から閃光のごとく解き放たれたのは──
紅牙爆弾。
爆ぜるごとに地面が抉れ、赤黒い火柱が次々と立ち昇る。
まるで怒れる神獣の咆哮を実弾に変えたかのような破壊の連弾だった。
「クソッ、弾幕タイプかよ!」
空を翔けながら日本刀で切り払い、あるいは旋回して回避しつつも、一発、二発と被弾する真斗。
防御スキルがない現状、全てが致命傷に繋がる。
「アル!何か切り札はあるか!?」
「あります!でも……それを使うには、神気を一時的にすべて刀に注ぎ込む“捨て身の攻撃”になります!」
「捨て身……か。いいじゃねぇか。命張らずにバズるなんて、面白くねぇ」
刀を構える真斗の気配が、さらに研ぎ澄まされる。
地上の草木が一斉に風でなぎ倒された。
「俺の信仰、見せてやる──!」
「創造魔法……付与強化、発動!」
刀身がさらに白く輝き始める。
神意の波動が全方位に広がり、まるで世界がそれに呼応するかのように空気が澄み切っていく。
「視聴者の皆!今から俺は、全力の一撃を打つ!信仰ポイント、くれ!!」
『いけぇぇええ!』
『神様お願い!バフってあげて!』
『信仰捧げる!光れ!光れ真斗!!』
コメント欄が一斉に祈りで染まったその瞬間──
真斗の呼吸が整うと同時に、彼の背から白銀の光があふれ出した。
音もなく膨れ上がる魔力。その輝きは周囲の風すら変質させ、草木が一斉に震える。
「──《極・天ノ無縫》、第二段階」
その言葉と共に、空間が裂けた。
白銀の光翼が真斗の背から展開される。だが、先程までのものとは桁違いだった。羽ばたきもせぬその翼は、まるで神域そのものを背負うような荘厳さを放ち、辺り一帯に神気を解き放つ。
「……さっきの一撃だけじゃ、届かなかった。なら──次は、届かせるだけだ」
地を蹴る真斗の身体は、重力すら逸脱したように空を駆けた。
彼の手に握られた刀が、第二段階の解放に応じて変化する。
刀身は蒼く、白く、そして黄金にきらめき、周囲の空気をすべて巻き込むかのような波動を生み出していた。
「創造魔法|──“閃斬の極致”、完成形ッ!!」
剣が走る。風が止む。時間が軋む。
「いくぞ、オルフェン……!」
振り抜かれるは、光の断絶──。
「神速閃斬!!」
閃光と共に真斗が消えた。
それはもはや斬撃ではない。視覚の限界を越えた、存在の“否定”。
音速すら置き去りにして突進するその一閃に、オルフェンの目が僅かに揺らぐ。
「──ッ、来るか!!」
次の瞬間、閃光が走った。
ズバアアアァッ!!!
焔の翼が切り裂かれる。血が空を染め、爆風が炸裂。
真斗はその刹那を逃さず、空中での姿勢を強引に反転し、背後からオルフェンを押し倒すように急降下した。
「終わらせるッ!!」
ドゴオォォォォン!!
地面に激突する衝撃は、森を一帯ごと薙ぎ払うほどの凄絶さだった。
爆煙と土砂が舞い上がり、天地が再び沈黙する。
──そして、ただ一人、白銀の翼をまとった男が、揺らめく光の中に立っていた。
その手に握られた刀──白銀の煌めきを残したまま、真斗は静かに構えを解いた。
地響きを残した一撃の余波がようやく収まる頃。
対峙していたオルフェンは、ゆっくりと膝をついた。
赤紫の焔はすでに消え、獣の気迫も収まりきっている。
荒く息を吐きながら、彼は、しかし確かな声で言った。
「……見事だ、真斗。我、これにて敗北を認めよう」
そして、誇り高き猛獣のように──
堂々と右腕を掲げ、降参の意を示した。
「お前こそ、我が見た“人の中で最強”の一人……誇りに思う」
真斗はその姿を見下ろすでも、驕るでもなく。
そっと刀を納め、小さく息を吐いた。
「ありがとな……オルフェン。お前が相手だったから、限界の先に届いた」
静寂を破ったのは、画面の向こうから届いた、嵐のような反応だった。
『勝ったぁぁあああああ!!』
『まじかよ!決着ついた……ついたあああ!』
『このバトル、異世界配信史に残るだろ……』
『神と戦って勝つ主人公、好きすぎる』
『オルフェン、ただのボスじゃない。仲間になってほしいレベル……』
配信画面には、地球と神域、ふたつの世界からの喝采が波のように押し寄せていた。
アルは肩で息をしながら、両手で目元をぬぐい、涙と笑顔を浮かべて叫んだ。
「真斗様っ……っ、本当に、おめでとうございますっ!!」
その声に、真斗は振り返り──ふっと、少年のような笑顔を浮かべる。
そして、高く掲げた刀を空へと向けた。
夕焼けに染まる空をバックに、彼はひとこと、宣言する。
「次はもっとすげぇ景色を見せてやる。異世界だろうが神域だろうが──」
「俺の配信は止まらねぇ」
「届けてやるよ。全世界に、“この世界の全部”をな!」
その言葉に、風がそっと吹いた。
まるで新たな旅の始まりを祝福するかのように──。
「だからこそ、ここで死力を尽くそうではないか…」
「なっ!?」
最後まで読んで下さりありがとうございます。
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