第2話 異世界配信はじめました
2025/5/25~再編集して投稿しなおしています!
もしよろしければ最後まで見て行ってね!
――三日後。
んー……なんだこの柔らかくて、あったかい感触は……。
後頭部にふにっ、と沈み込む弾力。手を伸ばして確かめると、もちもち感触。
マシュマロ?高級座布団?いや違う、これは……。
「ふにっ、もにゅ……ん、最高……」
寝ぼけまなこを開けた俺の視界に飛び込んできたのは――二つの柔らかな丘。
「……って、おい!? なんだこの距離感!!」
視線を上げれば、そこには俺のことをじっと見つめてる――金色の髪に青の瞳、美の化身みたいな顔立ちをした、女神アルの姿。
「お目覚めになりましたか、真斗様♪」
ええ、わかりました。この感触はアルの太もも。つまり俺、膝枕されてたってワケか……!
しかも太ももに手を当てたまましっかり揉んでいたのは俺の手の方。やっちまった……。
「お、おう……おはよう、アル」
「ふふっ……真斗様も“男の子”ですね♪」
「ち、違う!これは生理現象だ!不可抗力だって!!」
そもそも!三日間も美少女に膝枕されながら寝てて、何も反応がない方がおかしいだろ!?と自分で自分にツッコミつつ、なんとか話を切り替えることにした。
「それより! 俺、最後に光に包まれてからの記憶がねぇんだけど、何があったんだ?」
「はい、真斗様が新たなスキルを受け取った影響で、魔力と精神力が限界に達し、三日間昏睡なさっていたのです」
「三日も……!? いやそりゃ腹も減るわけだ!」
起きた瞬間から感じていた謎の空腹感の正体がようやく判明。俺、そんなに寝てたのか……。
「ところでアル、俺のスキルってどんなものなんだ? ゲームっぽくステータス画面とか見れたりする?」
「はいっ!能力の確認は私にお任せください♪」
アルはパチンと指を鳴らし、何やら神々しい光を纏って唱えた。
『神のみぞ知る叡智の書・鑑定神眼』
すると彼女の目の前に、まるでゲームのウィンドウみたいな魔法のステータス画面が出現した。うおっ、マジで出た!
「私から見えていますが、真斗様ご自身には視えませんので読み上げますね」
「マジかよ、もはや神様用UIか……」
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【ステータス】
名前:天ノ風 真斗
年齢:21歳
種族:人間(?)
称号:〈神の代行者〉〈女神に愛されし者〉
スキル:
・極・天ノ無縫
・創造魔法
・召喚魔法:家
・完璧主義ノ料理
「……え、なにこの称号。“女神に愛されし者”?アル、これどういうこと?」
「はい、真斗様がとても素敵だったので、つい……♡」
「ついってなんだ、ついって!」
それにしても、スキルのネーミングがいちいち厨二病っぽい。極・天ノ無縫て。
なんだこの必殺技みたいな名前は……とツッコみつつ、ひとつひとつ確認していく。
「HPとかMP的な数値は無いのか?」
「申し訳ありません……そこまでは視認できない仕様でして……」
「いや、気にすんなって。それでも十分すごいスキルだし、お前のサポートには感謝してるよ」
「……ありがとうございます♪」
ふわっと微笑むアル。その笑顔、ずるい。
「じゃあ、スキルの内容を詳しく教えてくれ」
「はい、以下の通りですっ!」
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【極・天ノ無縫】
使用者の身体能力・魔力出力・感覚知覚・反応速度など、あらゆる基礎能力を一時的に強化する“自己覚醒型スキル”。
成長に応じて強化倍率が上昇し、現段階では最大“五倍”まで強化可能。
将来的に“進化段階”が存在するという記録もあるが、発動条件や効果の詳細は未確認。
【創造魔法】
魔法・物質・アイテムなど、万物を創り出せる究極魔法。生物創造は禁止されており、生命倫理による制限がある。創造には強大な魔力量と精神力が必要とされ、使用者の意志と想像力に依存する。
【召喚魔法:家】
現在の住居を収納・召喚可能な空間魔法。住居には生活支援・魔力管理・自動防衛などの独自スキルを搭載。展開場所に応じて外観・内装が変化し、移動や隠蔽機能も備える。
【完璧主義ノ料理】
素材を瞬時に分析し、最適な調理法と味の構成を導き出す“料理特化スキル”。使用者の技量に関わらず、完璧な料理を自動補正で再現できる。味の保証付きで、状態異常耐性や一時的強化効果を付与することもある。
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「いや、俺……いきなりやれること多すぎね?」
「これは真斗様がこの世界で活動するために最適化された構成です!私が厳選してお贈りしました♪」
「うん、なんていうか……動画投稿とサバイバルが同時に出来るってことか」
「おっしゃる通りです!」
「この世界、やっぱゲームっぽくてゲームじゃないんだな……ちゃんと“現実”なんだ」
生身で生きる異世界。だがその中で、配信という特技を活かせる道が用意されているのは、俺にとって最高のご褒美かもしれない。
「アル、ありがとうな。お前のおかげで、この世界でも頑張れそうだ」
「ふふっ……こちらこそ。真斗様の活躍を楽しみにしてます
「さて、スキルの中に〈完璧主義ノ料理〉ってのがあるけど……まさかこれ、飯も全部俺が作る系か?」
「はいっ! 料理に関しては真斗様が圧倒的適性を持っているようです!」
「う、うん。それは嬉しいけどさ……まず材料がないと始まらないだろ?」
「では、冷蔵庫を確認してみましょう!」
二人でキッチンへと移動し、意気揚々と冷蔵庫の扉を開け――
「空っぽじゃねぇか!!」
まぁ、当然っちゃ当然だ。こっち来る前もろくに買い物してなかったし、基本コンビニ弁当生活だったしな。
「アル、これって……今いる場所って、街とか近くにあったりするのか?」
「この家のある場所は、【最果ての大森林】と呼ばれる地域です。どの国にも属していない、非常に広大で未開の森ですね」
「うん、知ってた。ってことは、街まで行くのはだいぶ遠いってことか」
「はい……」
「仕方ない。だったら素材を調達するしかねぇな。狩りだ狩り!」
「実はこの世界、魔物の一部はとても美味しい食材になるんです!」
「マジかよ!? じゃあそれ狩って、料理して、それを動画で紹介して――バズる未来が見える!!」
「ふふっ、それが配信者魂ですね♪」
少し浮かれつつも、現実的なことも考える。
「ただなぁ……肉だけじゃ料理にならねぇんだよな。野菜や調味料とかは……」
「創造魔法を活用すれば、無機物である野菜や調味料などは作成可能ですよ♪」
「まじで!? てかお前、今、俺の心読んだだろ!」
「あいたっ!」
恒例のデコピンがアルの額に決まる。ぷくーっと頬を膨らませて抗議するアルだったが、すぐににっこり微笑む。
「精神力の消費があるので、使いすぎにはご注意くださいね♪」
「了解。つまり……いわゆる“MP”みたいなもんか?」
「似てはいますが、実はちょっと違うんです。精神力は、内なる意志や魂の力……言うなれば“生命の芯”みたいなエネルギーでして」
アルは両手で小さな光球を作りながら、丁寧に続ける。
「魔力のように短時間で回復したり、ポーションで回復したりはできません。しっかり休んだり、感情的に癒されたり……そういう“精神的な回復”が必要なんです」
「……つまり、無理するとぶっ倒れるってことか」
「はい!精神がすり減って空っぽになると、意識が飛んだり、最悪……心が折れちゃうこともあります」
「うわ、シャレになんねぇ……」
覚えたてのスキルを連打して無双したい気持ちをぐっとこらえ、俺は慎重に一歩を踏み出す。
「よし、まずは装備整えて狩りに出かけるか。服は……この辺でいいか」
クローゼットを開けて、動きやすそうなジャージに着替える。元の世界でも外出=これだったから、まぁ慣れ親しんでるスタイルだ。
「じゃあ、出発前に一つ……この家って、このまま置いてって大丈夫か?」
「それは問題です! ですので、家を指輪に収納しましょう!」
「なにそれすごい!」
アルの指示通りに唱える。
「召喚反転 魔法 〈家〉 収納!」
家全体が青白い光に包まれ、みるみるうちに縮んでいき……最後は親指サイズの指輪となって、俺の手に収まった。
「おお……マジでRPGアイテムじゃん……!」
「注意点として、設置場所は考えてくださいね。設置した場所は地形に影響を与えますので……」
「わかったわかった、今後は自然保護意識も持って行動するわ」
さぁ、いよいよ異世界探索の始まりだ。
俺たちは、最果ての大森林の奥へ――静かに足を踏み出した。
最果ての大森林。見渡す限り、緑、緑、緑。
だが、妙に静かすぎる――鳥の声も、虫の羽音もほとんどない。
「……なんか、不自然に静かじゃないか?」
「そうですね……この沈黙、何かが潜んでいる予感がします」
その言葉が終わるよりも早く、俺の背筋に走る寒気。
「真斗様っ……!魔物の気配がします!」
「きたか!」
すぐに気配のする方向を確認する。木々の間、まるで霧のような空気の揺らぎが視える――その奥から、何かが、ゆっくりと歩いてきた。
姿を現したのは、漆黒と赤紫の毛並みを纏う巨大な獣。
「こ、これは……ただの狼じゃないな……」
低く唸る声。土を踏みしめる足音。そして――木立の向こうから、巨大な影が現れる。
「ええ、ただの獣ではありません。私の鑑定によれば――」
アルがすっと指先を掲げ、瞳に淡い光が宿る。
「これは、真王種に分類される個体。さらに、二足歩行型……つまり、人狼です」
「マジかよ……よりによって、レアモンスターが最初の相手って……どんな運だよ」
背中にじっとりと汗が滲む。だが、それ以上に、胸が騒いでいた。
「ですが――」
アルの声が少し強くなる。
「この個体は、ただのウェアウルフではありません」
アルの目が魔力の輝きを増し、解析のルーンが空間に浮かび上がる。
「……“世界に祝福されし魔物”です」
「……は?」
「世界の意志に選ばれた存在。進化の限界を超え、力と意思を持った特異種です。分類としては、古代ノ人狼の派生と考えられます」
まるで空気が変わったかのような錯覚。
目の前の魔物から放たれる気配は、ただの脅威ではない。
存在そのものが、この世界の“選択”だと語っていた。
「いきなりラスボス級……この異世界、容赦ねぇな」
真斗は小さく息を吐き、腰の武器に手をかけた。
その視線の先には、祝福を受けし古の魔獣が、獰猛な笑みを浮かべていた――。
瞳は紅く光り、口元は獰猛な笑みを刻んでいる。
まるで、“狩る覚悟はあるのか”と問うように。
真斗は無意識に息を飲み、肩を強張らせた――が、次の瞬間。
「……なぁ、チュートリアルは?」
ぽつりと漏れたのは、緊張を吹き飛ばすような自嘲混じりのツッコミだった。
「初戦からこれって、難易度バグってんだろ……!」
だが同時に、心のどこかでゾクっとした。
――これを乗り越えれば、間違いなく“掴める”。
映像としての衝撃、展開の濃度、すべてが視聴者の心を揺さぶるレベルになる。
「よし……アル、カメラ回せ! 撮るぞ! これが異世界配信だ!」
「はいっ!」
アルが懐からネックレス型の魔法道具を取り出す。中央には光る青い宝石が嵌っていた。
「これが【世界撮影】です! 真斗様が撮影と念じれば、自動で視点録画されます! さらに空中カメラの召喚も可能!」
「神アイテムじゃねぇか……! 撮影!」
意識を集中させると、視界の端に小さな撮影アイコンと録画タイム表示が現れた。まるでHUD付きのFPSのようだ。
「カメラ追加!」
念じた瞬間、手のひらサイズの羽根付きカメラが出現。リモートで操作できるらしい。
「アル、空撮頼む! 角度は上からの斜め構図で! 背景に俺と魔物をしっかり入れてくれ!」
「了解ですっ!」
空中に浮かぶカメラが、まるでドローンのように回り込み、ベストアングルを取る。完璧だ。
「さて――派手にいくか」
両手を合わせて唱える。
「創造魔法――武器生成!」
空間に魔力が満ち、音もなく柄が出現、続いて刃がスルスルと伸びていく。やがて、神々しいまでに輝く日本刀が完成する。
「ぉぉ……すげぇ……!」
「ただの刀ではありません! これは――“神鉄”製の、未知の強度と斬撃力を持った創造武器です!」
アルの目が輝いている。創造の女神が自分の力で生まれた武器を見て、こんなに嬉しそうとは。
「行くぞ、アル! 俺の初陣、しっかり記録しろよ!」
「はいっ、真斗様! すべてをお見せください!」
そして、俺は──ゆっくりと、一歩を踏み出した。
空気が震えた。
草木がざわめき、風が一瞬、逃げるように引いていく。
目前に立ちはだかるのは、古代の魔獣──。
その瞳に宿るのは、明確な殺意と、どこか“知性”すら垣間見える怒りだった。
(異世界に来て……初めての“本物の戦い”か)
何人ものプレイヤーとして戦ってきた地球での記憶。
だが、それは“シミュレーション”の枠を出なかった。
これは違う──。
俺の命が、本気で狙われている。
「……だったら、俺も“現実”で戦うだけだ」
足元に魔力を集中。背中を駆け上がるように、熱が流れる。
「極・天ノ無縫──解放ッ!!」
一瞬、世界が揺れた。
肉体に奔る魔力が骨まで焼くように暴れ出す。筋肉がきしみ、血管が脈打ち、神経がむき出しの刃になる。
視界が開ける。空気の流れすら感じ取れるほど、五感が増幅していく。
──これが、“異世界”での俺の最初のスキル。
だがその重みも、代償も、構わない。
「行くぞ──!」
一歩。地を砕く踏み込み。
日本刀を抜き放ち、目にも留まらぬ速度で接近する。
もまた咆哮し、地を蹴った。
すれ違い様、鋭い爪が肩をかすめる。だが俺はそれすら意識の外。
刀を真横に振るい──
ガキィンッ!!
硬い。
骨格そのものが常識外れだ。普通の獣じゃない。いや、“魔物”ですら収まりきらない。
「ちっ、やっぱりただの相手じゃねぇ……!」
すぐさま体勢を崩さず、反動を利用して一回転──
次の瞬間、刀が唸るようにうなり、胴体へ水平斬撃!
ズシャァッ!!
今度は血飛沫が散る。が、まだ浅い。重たい手応えはあるが、致命傷には至っていない。
「ウゥオオオオォッ!!」
人狼が吠える。傷を物ともせず、飛びかかってきた。
──冷静に見ろ。空気の流れ。筋肉の動き。重心の傾き。
《極・天ノ無縫》の効果が、すべてを“視える”世界に変える。
「──来いよ、わんちゃん!!」
俺は、いま──この異世界で、“命のぶつかり合い”の中にいた。
刃を握る手が汗ばみ、呼吸は浅くなる。
それでも──視線だけは、逸らさない。
「アル、準備は?」
「……はいっ、いつでも!」
相手はまだ立っている。
斬撃は効いていたが、致命には至っていない。
むしろ──怒っていた。
「ぐるぅ……ヴゥゥアアアアアアアァッッ!!」
血を噴きながら、さらに速度を上げてこちらへ突っ込んでくる。
(早い──!)
極・天ノ無縫がなければ、今の動きは見えもしなかっただろう。
「アル、今だ!──“目”を塞げ!!」
「はいっ! 閃光魔法!!」
キィィィィィン!!
空中を舞う《キャプチャフロート》が魔力を収束し、次の瞬間──
夜空に匹敵するほどの強烈な閃光が炸裂した。
「ガァッ……!!」
人狼の動きが、一瞬止まる。
──チャンスは一度きり。
俺は膝を沈ませ、魔力を脚部に集中。
地を蹴る。跳ぶ。
視界がブレるほどの加速。
「これで──終わりにするッ!!」
叫びと共に、刀を大きく振りかぶる。
狙うは胸元の魔核──この世界の魔物の心臓ともいえる部位。
「喰らえええぇぇぇぇぇぇッッ!!」
バシュウウウウッ!!!!
音が一瞬遅れて届く。
空気を裂く斬撃が放たれ、敵の胸を一文字に切り裂いた。
重たい手応えと共に、人狼の巨体が吹き飛ばされ──
背後の大木をなぎ倒しながら、土煙を上げて崩れ落ちた。
──静寂。
俺の耳には、自分の鼓動だけが残っていた。
「……はぁっ、はぁっ……っつ……!」
肩で息をしながら、倒れた相手をじっと見据える。
動かない。
やがて、全身から魔素が抜けるように揺らぎ──
その巨体は、静かに崩れた。
「…………勝った」
呟くように、言葉が漏れる。
それは、誰に向けたものでもない。
ただ、自分自身が“生きている”ことを確認するための、言葉だった。
異世界での、初めての戦い。
俺は確かに、それを──生き延びた。
「真斗様……! いまの一撃、完璧でしたっ!」
アルの声が震えていた。
興奮と安堵が混ざったような瞳で、こちらを見上げている。
「……ありがとな、アル。お前のサポートがなきゃ、あいつの牙で終わってたかもな」
真斗は息を整えながら、ふと視線を上に向けた。
空中を浮遊している《キャプチャフロート》──そのレンズが、ゆっくりと赤く点滅している。
「……撮れてたな」
小さく呟いたその言葉に、アルがこくりと頷く。
「もちろんです! 最高のアングルで、魔法支援と連携もばっちり映ってました!」
「そうか……じゃあさ」
一歩、振り返る真斗の目には、静かな炎が灯っていた。
「この戦い、編集して──最初の動画にしようぜ。誰が見てなくてもいい。俺たちの“始まり”を、ちゃんと刻もう」
「はいっ!」
──異世界、初の命懸けバトル。
敵は、ただの魔物じゃない。命も覚悟も賭けてくる、リアルな“脅威”。
けれど、それを乗り越えて、生きて、映して、伝えた。
今はまだ、再生数も登録者も“ゼロ”かもしれない。
だけど──
《異世界生活者のチャンネル “マナト / 異界Vlog”》は、ここに生まれた。
世界のどこかで誰かがこの動画を見る日を信じて。
すべては、ここから始まる──
配信、開始。
最後まで読んで下さりありがとうございます。
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