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異世界転移しても動画配信者だった件  作者: ハヤアルト
異世界転移の始まり
10/11

第9話 異世界、映像が繋ぐ都市と神域

※本作では異世界「神域」と、元の世界「地球」それぞれの視聴者コメントを区別するため、以下の形式で表記しています。


- 『地球のコメント』…地球の動画配信プラットフォームでの視聴者の反応

- {神域のコメント}…神域における神族・精霊・転生者などの視聴者による反応


配信活動は両世界に同時発信中!それぞれのリアクションもお楽しみください!

──朝の光が俺の城の編集室に差し込む頃、空中に浮かぶ魔導ウィンドウには複数の映像が整然と並んでいた。


「ふわぁ……ようやく、三本分、編集完了ですっ!」


アルマノルティアが目元を擦りながら、満足げにホログラムを操作する。

その映像には、これまでの旅のハイライトが収められていた――アオゲニストの街を歩く真斗、展望台からの絶景、神域でのグルメ挑戦、そしてほんの少しだけ映る冒険の痕跡。


「テロップ挿入、BGM調整、エンディングの署名魔法……全部入れました! これで、どこに投稿しても恥ずかしくない完成度です!」


「ふぅ……そっか。これが、“この世界”での初投稿ってわけか」


真斗は背伸びをしながら、魔導端末の画面を確認した。

画面上には3つのサムネイルが並び、それぞれに〈異世界初体験〉〈神域で食べてみた〉〈アオゲニスト街歩き〉の文字が浮かんでいる。


「いや、地球でも動画は上げたことあったけどさ……まさか“神域”と“異世界”で初投稿する日が来るとはな」


「この一瞬が、歴史の始まりになるかもしれませんよ、真斗様っ!」


アルが両手を胸元で組み、目を輝かせて言う。


「世界を繋ぐ配信……録画は〈ヴィジョンクリスタ〉、ライブは《街頭スクリーン》。

これが“配信で繋がる神域時代”の第一歩、ですね!」


「よし……じゃあ、いよいよアップするか」


真斗は指を伸ばし、アップロード魔法陣の中心に手を置く。

サムネイルがゆっくりと光を帯び、魔導エネルギーの波紋が部屋全体に広がる。


「配信対象、三箇所:地球、神域、異世界各都市の《ヴィジョンクリスタ》端末……接続、完了しました!」


「……いくぞ、俺たちの初投稿――」


「――いってらっしゃい、“チャンネル・真斗”!」


そして、光と共に、世界を跨ぐ“第一の配信”が始まる。


──昼前


石畳を踏みしめながら、真斗とアルは、街の中心区に向かって歩いていた。


「ギルドってのは、街の中心にあるって言ってたな?」


「はい。情報の交差点みたいな場所で、冒険者登録や報酬精算、そして今回のような文化申請まで全部ここで扱っています」


都市アオゲニストの中でも、情報ギルドの建物はひときわ目立っていた。

円柱状の構造に、魔法で刻まれた蒼銀の文様が螺旋を描いており、上層にはクリスタルのような球体が浮遊している。


まるで、「知の灯台」そのものだ。


通りを歩く住民たちの視線が、ちらちらと真斗たちに向けられていた。

昨日の《街頭スクリーン》設置以降、街中では「配信者」の存在が噂になっているらしい。


「ねぇ、あの人が……?」


「配信の……真斗様って……」


子供たちが好奇の目で見つめ、大人たちも目をそらさずに見守っていた。


「けっこう見られてるな……」


「当然ですっ。昨日、初めて《ヴィジョンクリスタ》で再生された動画はもう市民たちの話題になってますから!」


「って言っても、まだ再生数ゼロだったろ?」


「それでも、“何かが始まった”って感じさせることが、大事なんですよ」


真斗はため息をひとつつきつつ、口元にわずかに笑みを浮かべた。


──注目されてる。

この都市に、俺の“やること”が確かに届き始めている。


目的地が近づくにつれて、建物の構造がより鮮明になってきた。

ギルドの正面には、青銅の門と魔力センサー付きの受付ゲート。脇の柱には《公認文化申請中》と記された新しいプレートが光っていた。


「じゃあ……ここからが“本番”ってわけだな」


真斗が小さく呟くと、アルは少しだけ緊張した表情で頷いた。


「神域に繋がる配信。その土台を、今日ここに敷きましょう」


そしてふたりは、情報ギルドの重厚な扉の前に立った。

真斗はゆっくりと扉に手をかけ、深呼吸してから開いた――。


「……こっちで合ってるのか?」


「はい。《真斗配信局・支部》はこのギルド内に新設されました。

今日は正式な配信運用ルールをお渡しし、今後の文化的運用をお願いする形です」


中に入ると、魔導端末や水晶記録機器がずらりと並び、魔導官たちが忙しなく動いていた。

その中央に立つのは、白髪に淡金のローブを纏ったギルド運営官――レキルド。


「……お待ちしておりました、真斗様。そしてアルマノルティア様」


「こっちこそ。今日はちょっと“重要な提案”を持ってきた」


真斗が懐から取り出したのは、一冊の分厚い魔導書式の巻物。


アルがそっと開き、内容を読み上げる。



■使用媒体

•《視影水晶》:ライブ配信・録画映像の個人視聴専用端末

•《街頭スクリーン》:都市部に設置されたライブ共有専用映像媒体

→ 両者は神域から授けられた《祝福媒体》であり、映像視聴は“信仰行為”と見なされる。



■遵守ルール

•映像の改ざん/妨害/誹謗中傷/捏造は禁止

•配信映像は《神々》の加護下にあり、悪意ある介入行為は即時、神罰対象となる

•視聴者は、以下を尊守することが求められる:

・共に喜怒哀楽を共有し、民の心を燃やすこと

・視聴行為をもってこの世界の“活気”に貢献すること



■神域備考

•「娯楽」は、信仰を灯す最も柔らかな炎である

•神と民、人と都市とを繋ぐもの――それは、理屈ではなく“感動”である



「……これは、ただの広報活動じゃない」


レキルドは目を細めた。


「“映像を通して神と繋がる”という発想自体が、この世界では革命的です」


「革命でも信仰でもいい。俺はただ、この世界が“面白く”なるのを見たいだけだよ」


真斗の言葉に、静かに頷くアル。


「この規定、ギルドとして受理される場合は、都市規模での配布・運用が可能になります」


「もちろんだ。もう《街頭スクリーン》も設置済み、《視影水晶》の配布も完了してる。

あとは運用を正式に“ルール化”して、広めるだけだ」


レキルドは深々と一礼する。


「……本日をもって、《映像による神域配信》をアオゲニスト都市法に準拠した文化活動として正式に承認します」


──その瞬間、情報ギルド全体に微かな光が灯った。

神と人との新たな契約。それはまさしく“文明再興”の一歩だった。


「ルールは整った。次は、世界の魅力を伝える番だな」


「はいっ。ここからが本番です、真斗様!」


──神域発、映像による文化再構築。

異世界初の“メディア革命”が、ここから本格的に始動する。


──時刻は午後。陽光を反射して輝く2つの太陽が、アオゲニストの街全体を暖かく包み込んでいる。


中央広場の東側、今日初めて運用される街頭スクリーンの前に、自然と人が集まり始めていた。


ギルドの役員の方が今回のルールについての説明や配られていな市民に視影水晶を配布していた。


広場の子供たちが一人、また一人と立ち止まり、目を丸くしてその巨大な映像を見上げる。


「うわっ……本当に映ってる!」「あれ、昨日この人、森でなんかすごい技使ってたやつだ!」


少し遅れて、買い物帰りの母親たちや、午後の仕事が一段落した職人、休憩中の冒険者たちが集まり出す。やがてスクリーンの前はちょっとした人だかりになっていた。


その傍ら、街の各所では、住民たちがそれぞれ手元に配布された視影水晶を使い始めていた。


「ほら、これが例の水晶だよ。色んな映像が見れるっていう」「おいおい、本当に動いてる……魔導具とは思えない精密さだな」


屋台で焼きたてのパンをかじりながら動画を観る少年。裏通りでこっそり覗き込む若い兵士。店先に並べられた水晶を囲み、映像に夢中になる商人一家。


視影水晶はすでに、街の日常に溶け込み始めていた。


そんな中、一人の中年男性が視影水晶を操作しながら、気怠そうに呟く。


「神罰って、さすがに大げさだろ?」


──その瞬間。


彼の手元の水晶が眩しく白く光を放ち、空中に警告のルーンが浮かび上がる。


《誹謗・侮辱・悪用行為、検知》

《対象へ警告:次回違反時、神罰の執行対象となります》


「っ……!」


その場が一気に静まり返った。

神々が“本当に見ている”ことを、そこにいた全員が理解するには、十分すぎる演出だった。


直後、広場の街頭スクリーンが切り替わり、真斗の顔が映し出される。


『やぁ、皆さん。こちら、真斗です。そっちはよく見えてるかな?テストだから一旦これで終わるけど夜にまた初配信やるからその時にまた会おうね』


テスト放送の映像はここで途切れた。


子供たちが歓声を上げ、大人たちが目を見合わせる。


「……これが、異世界の“新しい文化”ってやつか」


「うん、きっとそうだな」


個々に視影水晶で好きな時間に映像を楽しみ、街頭スクリーンでは皆で“今”を共有する。


それはまさに、「映像が都市と神域をつなぐ」新時代の幕開けだった。


──日が傾き、空が茜に染まる頃。

真斗とアルはアオゲニスト郊外の小高い丘に立っていた。


ここなら街の全景も映せるし、空も広く抜けている。

今夜の“初の街頭ライブ配信”には、これ以上ない舞台だ。


「じゃあ、設営いくか。アル、周囲の結界確認頼む」


「了解っ!魔干渉ノイズなし、視認性OKです! どうぞっ、真斗様!」


真斗は息を整えると、片手を掲げて詠唱する。


「──召喚魔法、発動」


その声と共に、足元から展開される魔法陣。


「来い──《俺の城〈マイハウス〉》!!」


ズガァァァン!! 


光と魔力の渦が巻き起こり、空間が一瞬だけ“反転”する。

まるで空間そのものが折りたたまれ、書き換えられるかのような異質な気配。

数秒後、その場所には見慣れた平屋の建物が静かに現れた。


4LDK、庭・倉庫付き。

地球からまるごと転送されてきた、“俺の家”だ。


「……何度やってもインパクトすげぇな。マジで“城”だわ」


「この演出、初見さんにウケますねっ!」


アルが無邪気に笑うのを横目に、真斗は肩をすくめた。


「狙ってやってねぇけどな……まあ、結果オーライってやつか」


そう言って、一歩、転移したばかりの〈マイハウス〉へと足を踏み入れる。


──そして場面は切り替わる。


真斗の自宅――異世界に転移された、現代の技術と魔導の融合体たる〈マイハウス〉では、今夜の“初ライブ配信”に向けた最終調整が行われていた。

「ライト角度、オッケー。アル、コメントウィンドウの透過率どうなってる?」


「はいっ、視界の端に重ならない程度に調整しました!真斗様の動きが映えるように、明度も15%アップ済みです」


室内には、魔導ライトと反射板を模した転送晶が並び、アルはアシスタントモードで指先からエフェクト調整を行っている。


「……よし、今日はこの都市と繋がる、“配信の夜”だ」


真斗はひとつ息をつくと、カメラ代わりとなる《世界撮影〈ワールドキャプチャ〉》の視点と、冒頭の挨拶文を確認する。


これはただの“録画”じゃない――配信は、この世界と神域を“結ぶ儀式”そのもの。


「本日──異世界配信文化、正式発信開始」


アルの声が少しだけ緊張を帯びていた。


「……映像と、信仰が交差する時代が、今始まるんですね」


「俺たちの“物語”の始まりでもあるな」


真斗の口元に、自然と笑みが浮かぶ。


その頃、街頭スクリーン前にも、再び人々が集まり始めていた。

ゆっくりと、広場の空気が張り詰めていく。


そして、画面に――《ライブ配信まで、残り10秒》のカウントダウンが現れる。


10

9

8…


──いよいよ、この異世界における“初の神域ライブ”が始まろうとしていた。


──3、2、1……

《ライブ開始》


広場の街頭スクリーンが、まばゆい光と共に切り替わる。


静寂が、街を包んだ。


次の瞬間――


『……やあ、皆さん。改めまして、“チャンネル・真斗”へようこそ』


映し出されたのは、柔らかな照明に包まれた、丘の上の真斗。

彼の後ろには、夕暮れに染まるアオゲニストの街全体が広がっている。


その立ち姿は、まるで旅する語り部。けれど、背中に背負うものは、確かに「使命」だった。


『今日は、初めて“この世界”でライブ配信をします』


スクリーンを前に、子供たちが最前列で食い入るように映像を見つめる。

老夫婦が肩を寄せ合って立ち止まり、商人が荷台を止めて見上げる。

冒険者たちのテーブルには視影水晶が置かれ、静かに画面と向き合っていた。


『これは録画じゃない。今この瞬間、俺の言葉は“リアルタイム”で、みんなに届いてる』


『伝えたいことがあるんだ。この世界の素晴らしさを、熱を、景色を、想いを──“そのまま”の形で』


別視点からの空撮映像に切り替わる。

真斗の立つ丘から、風に揺れる草原。街の灯り。空を飛ぶ幻獣の群れ――


アルが操る撮影魔法が、街の美しさを余すところなく映し出す。


『俺は“異世界配信者”っていう、ちょっと変わった職業だ』


『だけど、俺のやってることはシンプルだ。“繋げる”ってことだけだ』


『映像で、都市と都市を繋ぐ。神域と人の暮らしを繋ぐ。そして……この世界と、みんなの“心”を』


沈黙が、広場を支配する。

その“静けさ”こそが、真斗の言葉が、映像が、確かに届いている証だった。


彼は、ほんの一瞬、視線を伏せてから語りかける。


『配信ってのは、ただ楽しいだけじゃない。

誰かの心を照らしたり、世界の見え方を変えたりできる──そう信じてる』


『だから、今日この街から始めたいと思う。ありがとう、アオゲニスト』


真斗が、ゆっくりと頭を下げる。


それを見た子供が拍手をし、隣の子が続き、やがて広場全体が拍手の波に包まれた。


──街全体が、ひとつになっていた。


『……じゃ、また次の旅で会おう。次はもっと、すげぇ景色を見せてやるから』


『またな──』


画面がフェードアウトし、「Thank you for watching」の文字が静かに浮かぶ。


だが、その静けさを破ったのは、どこかから上がった一言だった。


「……俺、ちょっと泣いたわ」


その言葉に、笑いと感嘆と、拍手が再び広がっていく。


視影水晶越しの世界も同じだった。


老魔導士が深く頷き、宿屋の少女が感激で口を押え、家族団らんの中で子供が「また観たい!」とはしゃいでいた。


──誰もが、“映像が世界を繋いだ”ことを、確かに感じていた。


──配信終了後。


アオゲニストの広場には、まだ誰も帰ろうとしない余韻が残っていた。


スクリーンは既に暗転しているが、人々はその場に留まり、まるで“何かを共有した証”を噛みしめているようだった。


真斗とアルは〈マイハウス〉の編集室で、配信のアーカイブが保存されていく様子を確認していた。


「……全部、ちゃんと届いたな」


「はいっ! コメントも反応もすっごく良かったです! 視影水晶側のハートカウント、もう五桁突破してますよ!」


「早っ……まだ一回目だぞ、これ」


「きっと皆さん、飢えてたんですよ。“心が動く映像”ってやつに!」


アルが嬉しそうに腕を伸ばし、椅子でぐるんと一回転する。

そんな姿を見て、真斗は静かに笑った。


「――じゃあ、次はどこ行くか考えねぇとな」


「はいっ! 確か、この先に《星降る遺跡・リュミナライト》って場所がありましたよね?」


アルが身を乗り出しながら、地図ウィンドウを指さす。


「景観も素敵で……しかも、遺跡としての探索もまだ未開拓の箇所が多いって噂で。視聴者もきっと、ロマンを感じてくれるはずです!」


真斗がその名前に反応し、隣に視線を投げる。


すると、アルの奥から低く響く声――


「……我も、かつて立ち寄ったことがある。星々が降る夜の静寂は、今でも記憶に焼きついている」


「オルフェン……お前が語るってことは、相当印象的だったんだな」


「うむ。あそこは、“記録よりも体験が勝る地”だ。映像に映る以上の何かが、確かに残るだろう」


真斗は頷き、口元に笑みを浮かべる。


「なるほど……じゃあ次の旅の目標、決まりだな」


それを聞いて、アルがぱっと明るくなる。


「じゃあ、次のタイトル、“星が降る遺跡を攻略”ってどうでしょう?」


「……悪くないな」


真斗はホログラムに指を伸ばし、配信設定を開く。

その中央に表示されたのは――


《異世界気ままに配信旅》


かしこまりすぎず、けれど思いは込めて。

旅の途中で出会う景色を、声を、心を――


気ままに、だけど真剣に 届ける。


それが、彼の配信スタイルそのものだった。


最後まで読んで下さりありがとうございます。

誤字脱字等があればコメント頂ければ幸いです。

また、応援コメントやいいね等してくだされば非常に嬉しいです!

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