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今までずっと抑圧されていたものが爆発してしまう時があるよね。

 知らない天井だ……


 酔いつぶれた昼過ぎ俺はどこか知らないベットの上で寝かされていた。

 昨日は確か楽しく飲んでいたのまでは覚えていたが。


 どうも記憶があやふやだった。

 俺が寝ていた部屋はベットだけを置いたら他に何もできなくなるような、よく言えば質素な。

 悪く言えば年季が入っている廃屋の一歩手前の部屋だった。

 まだ室内にはベッドがあり、その上には薄く硬いマットがあるだけまだマシといった感じだ。

 十分気持ち良く寝ていたはずなのに首や肩に違和感を覚える。


 今まで王都のふかふかベッドに寝ていただけに今後、こういった寝具関係もお金に余裕ができたらぜひゲットしておきたい。

 勇者の旅の途中もマジックボックスのおかげでそれなりにいい旅ができていた。

 今はその備品もすべて他のメンバーが持っていたため、俺の手元には一つもないが。


 そこへ、数回のノックの後こちらの返事をまたずに扉があけられる。

 そこにはナノハと祖母が何か書かれた紙をヒラヒラとふりながら嬉しそうしていた。


「それでコノモさん、ブラックベアの討伐はいついかれますか?」


 最初俺はいったい何を言われているのかわからなかった。

 そこで見せられたのが、手に持っていた紙、契約書と『畜音の玉手箱』から流れる俺の音声だった。


 完全にはめられたとわかった時にはすでに遅かった。

 おばあさんから木の盾を渡され、

「これがあれば少しは役に立つだろうて。辞めるなら今のうちじゃよ」

 なんて喜々とした顔で言われる。


 ナノハも

「私って本当に運がいい」

 なんて言っていた。

 前日に運が言いと言いだしたのはカモ(俺)を捕まえられたからという意味なのをこの時初めて気が付いた。


 そして村から少し離れた洞窟へ連れていかれる。

 どうやらこの村ではこうやって旅人などを襲って奴隷にするなどによって賃金を得ていたらしい。

 どうりでこんな小さな村にあれだけの食料や酒の備蓄があるはずだ。

 悪事を働いても簡単に取り締まれる分、やり方が昨日の盗賊の方がまだマシな気がしてくる。


 どんな場所にも法律の抜け穴というのはある。

 それを上手く使っている以上悪いわけではないが、それでもこれ以上被害者をだすわけにはいかない。


「とにかくその意気込みだけは買ってやるからの! そろそろ行って来い!」


 そう言って洞窟の方へ押しだされると、ちょうど洞窟の中からブラックベアがでてくる。

 1匹、2匹、3匹……10匹

 完全装備だった勇者の頃、3頭は余裕で倒せる。

 ただそれ以上多いと型が崩れてしまう。


 昔、勇者だった頃の俺はすべてにおいて完璧を求められていた。

 魔物を倒すにしてもまともな戦い方、普段の行動もまっとうな生き方。

 卑怯な手を使うことは勇者として認められなかった。


「民のお金で食べさせて頂いているのだから、民の見本となる行動をしないさい」

 そう言われ続けていた。


 だけど今の俺はどうだろう。

 勇者には似つかない布の服におなさけでもらった木の盾。

 そしてアウトレットの鉄の剣。


 こんな姿を見て誰が勇者だと思うだろうか?

 いや誰も思わない。


 そうなると今まで抑圧されていたものがどんどんでてくる。

 本当の自分はもっとこうなのに。


 一度、前のパーティの時に賢者から卑怯な戦い方はしないように人格を否定されながら注意を受けたことがあった。


 勇者たるもの魔物との戦い方でも正攻法で勝たなければいけない。

 勇者たるもの苦戦しているように見られてはいけない。

 勇者たるもの的に圧勝しなければいけない。

 勇者たるもの民に安心感を与えなければいけない。


 そんなことを正座させられた上で1時間ひたすらお説教を受けた。

 最後の方は、勇者なんて魔王がいなければただの人。

 お前なんていらない存在だ。

 勇者だからって調子にのるなよ。

 などなど、勇者じゃなければ生まれてきた意味がないとひたすら言われ続けた。


 確かに勇者と呼ばれていた頃、俺はひたすら民やまわりからの目を気にし続けた。

 だから、戦い方もスマートでなければいけなかった。


 このブラックベアにしてもそうだ。

 戦いで勝つにしても勝ち方に文句を言われたくなかった。

 だから、毛皮として使える部分が多く残るようにわざと威力の弱いもので、多少の動きにくかったとしても重装備で絶対に怪我をしないようにした。


 勇者が魔物相手に怪我をしたら、民は不安になるから怪我をしないように口が酸っぱくなる程言われていた。

 勇者としての縛りは俺の心と能力まで縛っていった。


 でも今はどうだろうか?

 まわりに俺が勇者だと知っている人間は誰もいない。

 戦い方に文句を言う人間もいない。


 今までなんでこんな効率の悪い戦いをしなければいかないのか。

 そう疑問を思っていたことを今ではすべてできる。

 礼儀や作法を戦闘行為の中でも言われる。


 無駄にカッコよく倒す必要があるだろうか?

 いや、ない!


 無駄に怪我をしないように重装備で防御重視で行く必要があるだろうか。

 いや、ない!


 戦闘中にまわりの目を気にしたり、勝ち方を気にする必要があるだろうか。

 いや、ない!


 そう!俺は自由だ!

 今までのように気遣う必要もない。

 人生で初めて魔物との戦いに心が躍る。

 ブラックベアの醜悪な顔が可愛い小熊に見えてくる。

 お前らまとめて全部俺門出を祝福するパーティの肉にしてやる。



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