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お酒が入っている時ってどうしても気が大きくなってしまうけど、軽く口約束とかしちゃうと後で大変だよね?

「えっすごいですね! コノモさんって勇者さんと同じ名前なんですね」

 ナノハはすごく楽しそうに食事をしながら俺と会話をしている。


 この格好で俺が元勇者だと名乗ったらどうだろうか。

 1.冗談だとうけとられる。

 2.嘘つきだと思われる。

 3.勇者だと信じてもらえる。

 4.偽名だと思われる。

 5.頭が大変な方だと思われる。


 まず3はないだろう。

 どの選択肢になったとしてもいいことはない。

 ならいっそう偽名を使うということも考えたが、村人Bっていうのもダメなきがする。

 まぁどうせ近くの街までの付き合いだ。

 旅は道ずれ、世は情けというではないか。

 少しくらい助けてあげてもいいだろう。


 それがカッコイイ勇者じゃなくてもいいと言うのだから。

 ナノハは近くの村の薬屋の娘だった。

 村の近くで薬草の素になるポムラ草が採れなくなり遠出をしたところ盗賊たちに捕まり、隙を見つけて逃げてたところを俺と遭遇したということだった。


「本当に私運が良かったです」

 そう満面の笑みでいうナノハに、運が良ければ盗賊には捕まらないと思うと思ったが言うのはやめておいた。


 それからナノハから助けて頂いたお礼がしたいので、明日うちの村によってくださいと言われてしまった。できれば断って先を急ぎたいのだがそうも言えない空気だ。


 どうしてもこういう風に美人に押されると弱ってしまう。

 今まで女性経験がないことも理由の一つだろうが、まぁ街への到着が1日おくれたところでたいして問題にはならないだろう。

 好意には甘えておくのがいい。


 なんて思っていた日がありました。


 どうしてこうなったのだろう。

 俺の手に握られているアウトレットの鉄の剣。

 装備は布の服と木の盾。

 そして目の前にいるブラックベア10頭の群れ。


 ブラックベアは勇者の完全装備の頃なら1人でもなんとか3頭くらいなら余裕で討伐できるレベルだ。

 それが今目の前に10頭。

 勇者学で学んだことが急にフラッシュバックする。

「勇者よ。世の中にはモテない男の気持をもてあそぶハニートラップと言う高度で巧みな女性を使った罠がある。ワシも最近までに金貨1000枚以上はつぎ込んでいたが、飲み屋のミサキちゃんを指名し続けたのに結局は寿退社してしまった。いいか。女性に優しくされても勘違いしてはダメじゃぞ。女性が必要なのはお主ではなくお主のお金や地位や名誉や武力だからな」


 そう言っていた先生の目に涙が浮かんでいたのを俺は見なかったことにした。

 しかしこれがきっとハニートラップというやつなのだろう。


 あの日、ナノハと一緒に食事をした翌日ナノハの村モロヌ村についた途端盛大な歓迎を受けた。

 ナノハは祖母との2人暮らしで、帰ってこないナノハを心配して村人たちが探しに行く話まででていた時に俺とナノハが帰ってきた。


 2人の感動の再会には俺も少し目に涙が浮かんでしまった。

 そしてその後は飲めや歌えやの大宴会。

 村中をあげてのお祭り騒ぎだった。


 こんな田舎の村にどうしてこんなにあるのかというくらいの肉に酒。

 それこそ何かヤバイことでも裏でやっているのでは?

 なんて思ってしまう程の勢い。

 そして、酒がまわりほどよく気持ちよくなった頃、ナノハの祖母から、困りごとがあると相談を受けた。

 酒の勢いもあり、まぁたいしたことはないだろうということで何でも言ってみなさい。

 なんて話をしたところまでは覚えている。


 その後、なぜかウォックを村の若い人たちから勧められ勝負をしたあたりから記憶がない。

 そして今日の朝、頭痛と吐き気の中ナノハの祖母が『畜音の玉手箱』という魔道具を持って俺のところへやってきた。


 二日酔いでいまいち意識がはっきりしない中、

「それでコノモさん、ブラックベアの討伐はいついかれますか?」

 と聞いてきた。


 完全に寝耳に水だ。

 そこでだされたのが畜音の玉手箱だった。

 この魔道具は交渉ごとの時によく使われるもので、この世界で交渉の証拠としてもよく使われる。

 ここからは前日の酩酊状態の俺とおばあさんとの会話だ。


「コノモさん、なんでも非常に強いとお聞きしたんですが」


「いやーそんなことなよヒック。全然たいしたことないから」


「その素晴らしい力をぜひ、この村に貸して頂けませんか?」


「えっなにするのヒック。俺頑張っちゃうよヒック。人の役に立てるならヒック」


「ブラックベアを討伐して欲しいのです」


「楽勝! 楽勝! ヒック。」


「それで、一応冒険者として契約をしてもらいたいんですが大丈夫でしょうか?」


「冒険者として? なんでまた」


「こういうのは報酬をお支払いするときにしっかりしておいた方がいいかと思いまして」


「なんだそんこと? いいよ。いいよ。やろう」


 そこで俺は書類をろくに見ずに冒険者としてクエストを受けることとなった。

 成果報酬金貨1枚、任務失敗時の違約金金貨10枚。

 違約金が支払えない場合村の一員となり労働力として働くことなどが事細かに書いてあった。


 完全に違法契約だ。

 でもそれを確認せずにサインした場合サインした者の責任となる。

 しかも、自分でサインをしたと音を記録されている以上言い訳もなにもできない。


 その上、逃げられないように任務の達成日が翌日になっていた。

 これでは近くの街に不当だと訴えることもできない。


 ……完全に詰んだ。

 そして俺はたった一人でブラックベア10頭討伐クエストに望むことになった。

 そこには負けられない戦いがあった。

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