お酒はほどほどに。
夜のうちに街を一人でる。
部屋には一応書置きを残してきたので大丈夫だろう。
今回は隠密のように黒の外套を羽織り、その下の装備はミスリルで統一した。
一番強い武器はもうすでに俺の手元を離れ、国の宝物庫にしまわれている。
ミスリルは高価だが一般に出回っている装備の中では最高クラスだ。
それ以外にアダマントでできた装備などもあるが今は俺の手元にはない。
城下町を歩いていると武器屋のおやっさんから声をかけられる。
武器屋のおやっさんは勇者用の剣などもおろしてくれていた王都一番の武器屋だ。
「おぅコノモ! どうしたんだこんな夜更けに」
「おやっさんこそ、こんな時間まで飲んでると怒られますよ」
「ハハハ今日はあいつは実家に帰ってるんだよ。まぁ俺クラスになれば嫁なんか怖くないからよ。いたって飲み歩くけどな」
「あれ? あそこで見てるのって奥さんじゃ……」
「かぁちゃんごめんよ。すぐに帰るから鍵閉めないで」
振り向きざまに高速回転しながら土下座をきめる。
「冗談ですよ」
「ヒィック。だと思ったぜ。俺もちょっと足元にきてるだけだぜ。それでどこに行くんだ?」
おやっさんは何事もなかったかのように話出した。
額についた土を汗をぬぐうかのように払っている。
どうやら家からよく追い出されているらしい。
「魔王が討伐されて辺境の街の警備を王様から言われたので出発するところなんです」
「なんでい! そんなことならお別れ会やるしかないだろ。お前は魔王を倒さなくたって俺たちの勇者であることは変わりないんだから。こんな夜逃げみたいな感じでいくなんて俺が許さないぞ」
そう言うといきなり
「起きろ!勇者様の旅立ちだぞー!」
街中で大声で叫び出した。
本当にやめてもらいたい。
近所迷惑もいいところだしそれに俺なんかのお別れ会なんて誰もやりたいわけがない。
「おやっさん。いいから本当にやめてください」
「いや、ダメだ。とりあえず酒場へ行くぞ。勇者付き合え」
俺はそのまま酒場に連行されていった。
このまま大人しくでていくはずだったのに隙をみて逃げ出そう。
酒場につくとザ肉体労働という感じの筋肉ムキムキの男達が豪快に酒を飲み交わしていた。
おやっさんはそんな酒場の真ん中まで行くと声を張り上げてこういった。
「本日をもって勇者コノモくんが辺境の地の警護にいくことになった。今までは遠くでしか見れなかったが今日くらいは無礼講でお別れ会を開いてやりたいと思うのだがどうだろうか?」
酒場は一瞬静かになるが、酒場のあちこちから、
「いいぞ!」
「やろうぜ!」
「勇者バンザイ!」
などと肯定的な言葉があちこちから投げかけられる。
俺からすればほとんど知らない人ばかりだったが、みんなにとっては俺は勇者だったらしい。
なぜか自然と涙がでてきた。
まったくもって無意味だと思っていた俺の人生に少し光が差す。
俺も必要とされていたんだ。
「お前は俺たちの子供みたいなものなんだから、いつでも帰ってきなさい」
なんて優しい言葉をかけてくれる人もいる。
そして俺たちは朝まで飲み明かした。
かわるがわる人が来て俺に酒をついでくれる。
なんて楽しい時間なんだろう。
途中で可愛い女の子に話しかけられウォックという度数の強いお酒をすすめられた。
「こんな強いお酒飲めるなんて勇者様カッコイイ!」
なんて言われて正直少し調子にのった部分はある。
そこからは……記憶がない。
でも、女の子たちに今日街をでるって話しをして外に連れ出されたのまでは覚えている。
でもそれから……
翌日の昼。俺は無一文でゴミ捨て場に口からでたキラキラにまみれ横になっていた。
ヒドイ頭痛と吐き気がする。
幸いにも肩からかけていたマジックボックスは汚い鞄に見えたのか盗まれてはいなかったが、懐に入れてあった王様からもらった金貨10枚やミスリルの装備、剣などはすべて盗まれていた。
「まじでか。勇者から荷物を盗む人とかいるのか」
もう二度とこの街には戻ってこない。
そう心に誓って俺は王都を後にする。