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第二の人生の始まり

 辺境の地でのんびりスローライフ。

 聞こえはいいがようは左遷だ。


 部屋に戻り荷物をまとめているとその扉がコンコンとノックされる。


「はい。はい。今でていきますよ……いろんな意味で」


 少し卑屈な気分で扉を開けるとそこに立っていたのは魔法使いのケティだった。

「コノモ! 辺境へ行くって本当か!?」

 かっ顔が近い。

 ケティの顔は絹のようなすべすべの肌をしている。

 近くでみてこれだけきめ細やかな肌をしている人はそういない。

 肩まで伸びた金色の髪も枝毛などもなく頭にはきれいな天使の輪がみえる。

 白い魔法使い用のローブと杖を装備していて身長が150㎝くらいの可愛い女の子だ。


 ただその見た目とは違って性格は……その……なんていうか正直かなりやばい。

 えっ? がさつだとは言ってないよ。

 もちろん、俺がそんなことを言うわけない。

 良くいえばおてんばな女の子だ。


 良く言えばっていいよね。

 悪い印象でもそれをつけると不思議とよく思える。


「あぁ本当だよ。今その準備をしていたところ」


「そうなのか。わかった! 俺もついて行ってやる。コノモ一人じゃ色々心配だからな」

 ケティは薄い胸を張りながら自分の胸をドンと叩く。


「あっそういうの間に合ってるんで。セールスと押し売りは興味がないから」

 そう言ってドアを閉めようとするとドアの隙間に足をねじ込まれ閉められないようにする。


「お客さんそんなこと言わずに、こんな可愛い美女と二人旅なんてそうそうできることないですよ。すごくいい物件だと思うんですよ。これを逃したら次は二度と手に入りませんよ。それに今なら魔法のローブと杖もついてきますから」


 おまけが魔法のローブと杖って、俺にはどのみち使いこなせない。

 ケティは引く気がない。どうしよう。困ったな。

 明ける前に誰が来たのか確認をすればよかった。

 ケティとの思い出がフラシュバックする。


 ケティは魔法使いとして非常に優秀だ。

 王様からも王都始まって以来、歴代1位の魔法使いとして紹介された。

 ただ正直ポンコ……いや、そんな女性を落とすような紹介はやめよう。

 ちょっと森の中で火の魔法を使ってトレントの森を焼き払い、それが原因でトレントたちの暴走を引き起こして近くの村が壊滅的な被害をだしたり、妖精が欲しいと言って駄々をこね、見つからないからといって妖精の森を風魔法ではげ山にしたくらいだ。


 いや、ごめん他にもいっぱいある。

 でも語りだしたら終わらなくなってしまう。


 王様はタンスや壺なんて話をしていたが被害としてはこっちの方がはるかに多い。

 俺たちが隠蔽したり、修理をしたりしなければ王の耳にも入っていただろう。

 ただ、もうパーティは解散になったのだ。

 俺がケティの面倒を見る必要はなくなった。

 後は後任者にお任せしようと思う。


「王様がそれぞれ別の任務を与えるって言ってたからケティも別の場所で任務をすることになるはずだよ。だから君とは一緒にいけない」


「えっ……嘘だ。私はコノモと一緒にいたいの。コノモと一緒じゃなきゃ嫌なの。だってコノモがいなくなったら私が物を壊したときいったい誰が弁償してくれるの?私にはあなたが必要なの!」


「あっうん。それ俺じゃなくてもいいやつだね」


「テヘッ」

 ケティは片目を閉じで小さくを舌をだしながら自分の頭をコツンと叩いている。

 あざとい。


 俺はそのまま無言でドアを閉めた。

 外から


「いやー閉めないで。私を捨てるなんて言わないで」


 とあきらかに誤解をうけそうな声が聞こえてきたが気にしない。

 こっちは早く準備をしないといけない。

 別にいつまでに出ろとは言われてはいないけど、できれば今夜のうちに誰にもばれずに城をでたい。

 今さら城の人たちにあいさつなんか恥ずかしくてできるわけがなかった。


 結局俺は無能だった。

 ちやほやされて勘違いしてたただのお荷物。

 そんな人間がずっと世話になっていていいはずがないのだ。


 ただ、もし叶うなら第2王女のマリーナには少しだけ会いたかった。

 魔王の討伐から帰ったらマリーナと結婚することになっていた。

 討伐の準備が整いそうになっていた時、王様から内密な話だと言われこの結婚の話を言われた。

 魔王と討伐して戻ってきたらこの話が、国内に正式に発表されるはずだった。


 ただ俺は左遷。

 そんな話は一切なかったことになっている。


 きっと今こんな状態で会っでも彼女に迷惑をかけるのはわかっている。

 だけど一時は結婚まで話があったから情が残ってしまっている。


 悔しくないのかと言われれば悔しくないわけじゃない。

 だけど、どうしようもない身分の差というのがある。

 どんなに願ったところで叶わない夢はあるのだ。


 俺なんかと、もともと釣り合うはずがなかった。

 恋愛もまともにしたことのない俺があの美しい王女様と結婚なんて夢を見れただけで十分だ。


 勇者になるために修行をしていた時、賢者マロスから、


「人は生まれもって役割を持って生まれてきている。

 コノモはきっと魔王を倒すために生まれてきたんだ。

 今は辛くてもその力がきっと誰かを幸せにする。

 だから今辛くても頑張りなさい」


 そう言われて頑張ってきた。

 その当時は魔王を倒して王女と結婚してどこかの領地を任せられてなんて思っていた。

 でも結局俺の役目は魔王討伐ではなかった。


 だけど心の中で少し喜んでいる自分もいる。

 俺は魔王を討伐するためだけに生まれてきたわけじゃなかったのだ。

 つまり、それ以外に俺にしかできない役割がきっとある。


 これまで俺は誰かに作られた道をそれないようにまっすぐ歩かさせられていただけだった。

 でもこれからは違う。自分で自分の道を作っていっていいのだ。


 辺境の地で、ある程度制限があるかも知れない。

 だけど自分が決めて、自分の目で見て進むべき道を探してみようと思う。

 だって時間はたっぷりあるのだから。


 勇者の部屋はとてもシンプルな作りだった。

 机とタンス。他に必要なものはマジックボックスの中に収納されている。

 勇者時代に少しためたお金もあるし今回の金貨10枚があれば少しは村についてからもゆっくりできるはずだ。


「さてと……」

 部屋の中を見渡す。

 この狭い部屋で物ごころついた時から生活してきた。

 心残りがないかと言われればないわけじゃない。

 少し寂しい気持ちもあるが、もうここにはいられない。


 俺は部屋に向かってゆっくりと一礼する。

 そして振り返らずに城を後にした。

 ここから俺の第二の人生が始まるのだ。

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