公園
~魔法学校卒業試験まで残り50日~
「なんだこれ……」
あの日、あの山で遭難してから俺の日常が、いや、この世界が変わってしまったのか?
それとも元々こういう世界で、俺がこの世界のことを忘れているだけなのか……?
どちらにしろ、もう脳内での情報処理が追いつかなかった。
「おい、凌太……! なんなんだよこれは!!」
凌太はポカーンとした表情をしたが、正気に戻ったのか、顔を左右に振り、俺にこう応えた。
「……今日はもう休め。まだ登校するのは早かったな」
たしかにそうだったかもしれない。
「あ、あぁ……そうさせてもらう…………」
あとで担任の先生に伝えておくからと、俺の事を見送りしてくれた。
「あら、おかえり。どうしたの?」
家に帰り自分の部屋に向かう途中、母と出会した。
「なんだかまだ、体調が良くなかったみたい……」
「ちゃんと休みなさい」
凌太にも母にも言われたとおり、今日は大人しくしておこう。
そして俺はベットに潜り、俺の周りの出来事を整理してみた。
「……………………………………………………。」
ダメだ。
わかんねぇ。
くそっ、こうなったら身体の鈍りのリバビリついでに、身辺調査だ。
今、この日常で、この世界での変化を調べに行こう。
そして俺は、制服の格好のまま外に出た。
──と、近くの公園に来たものの、なにを調べたものか……。
「さぁてと、なにをしようかな!」
とりあえず、声に出して言ってみた。
「………………。」
そりゃあ返事はないよな。
「おっさんうるさい!」
「……えっ?」
俺は驚いた。
何に驚いたかと言うと、そのセリフに見合わない幼女のような声にだ。
「おい聞いてんのかおっさん!」
「どこから声が……?」
「上だよばーか」
その幼女のような声の出処は、俺が座っていたベンチの後ろにある木の上からだった。
「おわっ!?」
そして上からなにか落ちてきた。
────パンツ……?
かわいいうさぎさんの描かれた幼児用のパンツだった。
しかも、生暖かい。
「脱ぎたて!?」
俺が言ったそのセリフとともに、またなにか落ちてきた。
──ドサッ。
「ふん、おっさん朝からうるさいんだよ」
なんとその正体は、俺の妹よりも少し小さいくらいの女の子だった。
小学生4年生、いや5年生くらいだろうか。
「──つか、さっきからおっさんおっさんって失礼な。俺はお兄さんだ。まだ18だぞ」
そう、俺が初日の出を見に行こうとしたのにはもう1つ理由がある。
それは、俺の誕生日が12月31日の大晦日だからだ。自分の最後の誕生日を初日の出で迎えたかったのだ。
そんなことはさておき、この幼女、さっきから口が悪いな。
「おっさんはおっさん。みーんな男の人はおっさん!」
「お嬢ちゃんや、お口が悪くてよ? 少しは俺の事を見習ったらどうだ?」
「おっさんのなにを見習えっていうのよおっさん」
くっ、こいつ生意気だな。
よし、俺がこの幼女の教育をしてやろう。
「お嬢ちゃんお嬢ちゃん。俺はお嬢ちゃんの味方だよ。仲良くなった証に飴玉をあげよう」
ふっふっふっ、大抵の小学生はお菓子に釣られたら素直になるものだ。
そしてポケットから3つ、飴玉を出した。
「さぁ、好きな味をお選び」
「わぁ!!」
幼女は山の財宝を見るかのように目をキラキラと輝かせた。
用意したのは、いちごミルク味とソーダ味、そしてなぜか納豆味。
納豆味はとても言葉では表現できないようなすごい味がするから俺は嫌いだ。妹のお気に入りの味だが、なぜかポケットに入っていた。妹が入れたのか?
「んとね、納豆味がいい!」
なんと!
納豆味を選ぶとは!
こいつ、妹と同じ匂いがするな。
納豆味の飴玉をあげると、早速袋を開けて、その飴玉を口に放り込んだ。
「お、おいしいか……?」
恐る恐る聞いてみる。
ぺろぺろ──
しばらく幼女の口の中の音だけに耳を澄ませ、飴玉が溶けきったのを確認してからもう一度聞いてみた。
「お、おいしいか……?」
すると幼女は満面の笑みでこう応えた。
「うん! ありがとうおっちゃん! おっちゃんいい人!」
おっちゃん!?
ま、まぁ、おっさんよりいいか……。
「私の名前はキム・サムスン。キムって呼べばいいわ」
「おぃおぃおぃおぃ、ちょっとまて。なんだそのふざけた名前は!」
「ちょっと、キム・サムスンさんに失礼じゃない? 」
「それじゃあ本当の名前を教えてくれ」
「ま、まぁ……おっちゃんになら……いいけど……//////」
どうして照れてるんだこいつは!
あぁもう、可愛すぎる!
最初、口の悪い生意気なクソガキだと思っていたが、よくよくみると可愛いじゃねぇか……/////
いやん、俺も照れてきちゃった//////
「コホンっ……」
幼女は小さく可愛く咳払いをしてから言った。
あっ、可愛い。
「私の名前はゆい。好きなように呼ぶといいわ」
ゆい……かぁ。
「いい名前だな」
そのセリフは自然と心の奥底からでた言葉だ。
どういう意味でつけられたかは知らないが、響きがよく、その幼女にピッタリな名前だと思った。
「俺の名前はかずと。俺の事も好きなように呼んでくれ。よろしくな、ゆい。」
「よろしく、おっちゃん!」
「誰がおっちゃんだっ!」
幼女の脇に手を入れ、たかいたかいをしながら、その場で何回かグルグルと回った。
こうして俺は、新たに幼女……否、少女のゆいを仲間にした。
あれ…………?
俺はなんのために公園に来たんだっけ……?
まぁいい。
今日はこの幼女……じゃなかった。少女と遊んで親密度を上げて帰るか!
そうして俺は、その日1日を、何の目的で公園に来たのかを忘れ、そして時間も忘れて少女と遊ぶのであった。
「ゆいー、時間よー!」
公園に現れたのは、おそらくゆいちゃんのお母さんだろう。
「はっ、もうこんな時間……!」
ゆいちゃんのお母さんらしき人の言葉で、俺は今の時間を把握した。
気づいたらもう、辺りはオレンジ色の夕日に染まっていて、遊具の影が長く伸びていた。
「ママー! このおっちゃんと友達になったの!」
どうやらお母さんらしい。
幼女ゆいちゃん……少女ゆいちゃんはお母さんに俺のことを紹介してくれた。
「ゆいと遊んでくれてありがとうございました。また、ウチの子をよろしくお願いします……」
「いえいえ、こちらこそです!」
お互い軽く会釈をして、幼女とそのお母さんに別れを告げた。
「またねー! おっちゃん!」
「おぅ!」
そして俺は家に帰って、なにを忘れたかということを思い出すより、幼女のことを思い出しながら眠りについたのだった。