帰還
──ピーッ…ピーッ…ピーッ…ピーッ…
機械音だろうか。
頭に響く音がずっと聞こえる。
「──て!」
女の子のような声が聞こえる。
「──おきてよ、ほら!」
ん、んー……
「おにいちゃん朝だよ!!」
……おにいちゃん…………?
あ、そういえば俺には妹がいたな。
「みさき……か?」
「やっと目が覚めたんだね!!」
こいつの名前は未紗季。
来年から中学生になるピカピカの1年生だ。
俺の妹はすごいアニメオタクで1日最低でもアニメを1クール分見ているそうだ。
「このままずっと目を覚まさないんじゃないかって心配したよぉぉぉ」
みさきは心配と涙で顔をグシャグシャにしていた。
可愛いくてモテるやつなのに、こんな顔をクラスメイトがみたらドン引くだろうな。
周りを一見してみると、先程から頭に響いてた音の正体はモニター心電図のようだ。
そして俺は、どうやら病院のベッドにいたらしい。
俺はあの時、助かったのか……?
「もー、心配したんだよ!!? おにいちゃん、気を失ってから1週間経ってもなかなか目を覚まさなかったんだから!」
俺……1週間も気を失ってたのか…………?
「でもよかったぁ……。 もう少し病院でリハビリしたら卒業式までの高校生活を送れるね!」
そっか。
俺は思い出作りにと山に登って初日の出を見に行こうとしたけど、遭難したんだ。でも、寒かったこと以外は覚えてないな……。
「卒業認定試験、頑張ってね!」
──そつぎょうにんていしけん…………?
俺はもう進路も決まっていて、あとは卒業するだけじゃなかったっけ?
アイツ、アニメの見すぎか?
そしてそれから、たった数日で退院できた。
身体が少し重たいな。
たった数日寝たきりになっただけで、これほどまでに身体が鈍るなんて。
そんなことを思いながら見覚えのある道を歩いて家に帰った。
「ただいまー」
………………。
返事がない。
ただの屍のようだ。
──じゃなかった。
誰もいなかったようだ。
俺の部屋は2階の奥にある。
妹の部屋同じように奥にあるが、俺の部屋の反対側にあり、2人の部屋の間にある廊下の真ん中に階段がある。
たった1週間ちょっと帰ってこなかっただけなのに、とても懐かしいように思える。
しばらくは白銀の景色しか見ていなかったからだろうか。
自分の部屋なのに、恐る恐るに入ってみると──。
「………………。」
ここにも誰もいなかった。
俺は、そのままベッドへと倒れ込み、眠りについた。
まだ身体の重さを感じていたせいか、病院から家まで歩いてきただけでとても疲れた。
明日は月曜日だっけ……。
明日からまた、高校生最後のスクールライフを送るとしよう。