第6話:婆さんの入れ歯は電池で動きます
「気配を消したのに何でよ!」
今日もいつもの様に、朝起きてからランドの顔に落書きをしようとしたのだが、敢えなく失敗をした。
「今日は、良いところまで行ったんだけどな──ペンの蓋を開ける音、さぁ書くぞって時の意気込みが、仇となったな」
ランドはお茶をすすりながら、答えた。
「保険をかけて水性にすれば良かった!」
半泣きになりながらも、必至で顔を拭くパメラ。これで0勝4敗0分となる。
「パメラちゃん無理なんだから、もう辞めたら?」
母も、毎日顔に落書きをされる娘を見て諦めていた。
「絶対に、ランドの顔に花の楽園パラダイスを書いてやるわ!」
とランドにビシっと指さした。だが、ランドはもう居ない───。
「何で気づかないんだろう──いつも、居なくなることに───」
「それが気配を消すと言うことよ」
母はお茶をすすりながら言った。
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魂学の授業が始まると、急に全員静かになる。前ふりも無く始まるランドの話を、1秒1個も聞き逃さない為だ。
「えーっと──俺が、毎日通うBARがあるんだけど、その店が急に潰れる事になったんだよな。理由は、王女プリムが毎日の様に通ってるのが城の方にバレて、教育上良くないと言う事だったんだ。俺は、そんな城の横暴さに腹を立てて直接抗議を申し立てに行ったんだ。城につくと門番に追い返されそうになったけど、何とか城内に潜入して王様の所に行ったんだ。そしたら、何故か隣国の王子がやって来てて何故か戦うハメになったんだよな───今、思っても何でだろ」
ランドは頭を悩ませた。本当に、理由が思いつかないから。
「王子は、カボチャパンツを穿いてて熊の魂を持ってた。でも、カボチャパンツの方が印象強くってカボチャ人間って名付けたんだよ」
今までシリアスな話ばっかりだったので、急に軽い感じの話をされクラスで笑いが起きた。
「襲ってくる物なら容赦はしないんだけど、プリムが殺したらダメだ!って言うから殺さないように頑張ったんだ。でも、魂を持った奴を気絶させるって言うのは殺すより難しいんだよ」
一番前の席の生徒が、どう言う事?と言う顔をした。
「つまり、相手は魂で強化されてる訳だろ?こっちも、魂を使わなきゃ殺られる訳だし、逆に魂を使うと全ての能力を強化される訳だから、かなり手加減しないと駄目だし、手加減と言っても相手は熊だから力が強いし──色々と気を使う戦いだったな」
ランドは疲れた様に笑った。
「んで、俺の強い意思が伝わってBARの取り壊しって話が無くなったんだよ」
話が終わり時計を見ると、まだほんの数十分しか動いていなかった。
「それから、3日後くらいに兄さん達が、出稼ぎにアクアランドに行ったんだ。でも、そこで誘拐されちゃって俺は助けに行くことにしたんだ。その誘拐した奴らは、カマキリ人間の兄貴達でみんな魂を持ってたんだよな。カブト虫、クワガタ虫、ヘラクレスオオカブトってさ──昆虫兄弟だったんだよ。虫だけに無視出来なくて…」
教室の空気が一気に冷える。まだ、初夏なのに──この教室だけは真冬と化した。
「俺はその時に死にかけたな──兄さん達を、解放する代わりに奴らに殺されそうになった。この治癒能力も追いつかないくらいに痛めつけられ…そしたら、奴らは母さんを殺すと言って俺を連れてクルシスランドまで空を飛んだんだよ!」
生徒達には理解が出来なかった。自分が殺されそうになった話なのに、ランドの目はキラキラと光っていた。
「空を飛ぶって良いよな!あれで死にかけて無かったら最高だったんだけど──で、クルシスランドに着いて奴らが母さんを殺そうとしたんだ。そしたら、何て言うのかな…過去の映像が俺の中で被ったんだよ。怒りと恨みが俺の中で沸き上がって──力の暴走って言うの?魂が制御出来なくなったんだ。恨みや憎しみ、悲しみが混ざっちゃって、俺が俺で無い感じになった。俺は、奴らを食い殺した──何もかも、頭の中は殺してやる!しか思いつかなかった」
いつの間にか、殺気を放っていたのか皆怯える様に話を聞いていた。
周りで聞いてる先生達も、かなりの警戒心でランドを睨む。
一番被害にあってたのは、いつも隣で聞いてる理事長だった。心臓が止まりかけ、口から入れ歯が飛び出しそうになっている。
「──っと、ごめんごめん」
ひょうきんな面で、軽く謝罪をする。
「まぁとにかく、その暴走で力を使い果たしたのか、腹に穴を開けたまま戦ったのがいけなかったのか──俺の意識は、2〜3ヶ月無くなっちゃったんだ」
ここで言葉を止めて時計を見やった。後数分で、終了の鐘が鳴る。
ランドは頭を下げて礼をした。それが、授業の終わりを告げる合図なのだ。
「婆さん──あのさぁ、ここまで話すと後は魂を使った戦いみたいのしてないんだけど───大丈夫かな」
ランドの心配は、このペースで進めば確実に半年が経つ前に話のネタは尽きる。それだけは、防ぎたい所だがどうしようも無い。「大丈夫じゃろう。明日からは、治癒術学もやってもらうからのう──ひっひっ」
婆さんは不気味に笑う。口からはみ出た入れ歯がカタカタと音を立てていた。それは、どういう原理で動いてるのかは分からないが、婆さんの入れ歯は常に音を立てていた。
「まあ、治療術学はワシの助手と言う形でやってもらうからの心配することは無いだ」
別に治療術学の心配はしてないのだが、心配しない程度に頑張ろうとは思った。
このまま、クルシスランドに帰らないでココで授業をするのも構わないと言う気にもなっていたが──事件は次の日に起こった。




