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第3話:そして話は次元の彼方へ…

コトン──

ランドは、飲みかけのお茶をテーブルの上に置いた。

今は一旦落ち着き、3人でテーブルを囲み座っている。

「ランド殿、その話受けて貰えぬかの」

"話"と言うのは、婆さんが理事長を勤める治療術の学校の特別講師を勤める事だった。

「でも──俺、獣人化しないと治療術っての使えないし」

流石に、ランドには無理があった。人前で獣人化することにより、怖がられたりする訳なのだが─現にさっきパメラに怖がられたばっかりだったのだから。

「大丈夫じゃて!治療術の他にも、魂学などあるから心配することは無いハズじゃ」

婆さんは、いきり立ち答える。こんなに良い人材をみすみす手放したくないのだ。

「アンタ達に世話になったし、何か礼はしたいのは山々なんだけど──」

あまりに気の乗らない話だった。物心つくまでは、狼と生活をしており、それからはずっと人里を離れた所でのほほんと生活をしていた為か、字はマトモに書けないし人に何かを教える等まるで出来ない事だった。

「パメラも何か言っておくれよ!」

婆さんは、孫のパメラに応援を出した。パメラは一旦考え込み答えを出した。

「って言うか──無理だと思うよ。だって、ウチ女子校でしょ?先生も女だし、そこにウチらと同じ年代の男を送り込んだらきっとスゴい事になるよ」

治療術とは、実際には女性が使う技術らしく生徒も講師もみな女性なのだ。

「そうじゃ!ランド殿!ピッチピチの若いおなごが沢山おるで」

「いや──でも俺、女とか興味無いし」

ランドの発言で、辺りの空気は凍りついた。

「えっ?ランドって──もしかしてホ〇?」

ホ〇と言う言葉は知っていたのか、ランドは慌てて手を振り否定する。

「違う違う!俺─ほら、野生で育ったから人間の女が好きとか嫌いとか、綺麗とか可愛いとか──良く分からないんだよ」

そう言う意味だったのか、パメラは安堵の息をついた。

「それはそうと─頼むんじゃ!ずっととは言わない!半年…半年で良いんで、ウチの学校に来て欲しいんじゃ!」

婆さんの必死な説得により、ランドは渋々頷いた。学校なんて、生まれてこの方行った事が無く、マトモに教える事が出来ない教師がここに誕生した。

「あと俺──半年もの間、住む場所が無いんだけど」

それは、重大な問題だったがすぐに解決した。

「ここに、住めば良いんじゃよ」

かんぱつ入れずにパメラが叫んだ。

「婆ちゃん!待ってよ!私が居るじゃん!」

それは、同じ年頃の男性が半年も同じ屋根の下で暮らす等──流石に、パメラは無理があった。

もしそれが、同じ年代の普通の人だったら問題は無かったが──ランドは治療術にたけ以外にも容姿は格好良く、砂と血と犬のフンを取り除いた姿を見た時、胸の奥が少し熱くなったのを感じた。そのせいもあり、少し抵抗を感じるのであった。

「パメラ!お客さんに対して失礼じゃろが!」

「うん──でも──」

「でも何じゃ?ランド殿が泊まると不都合な事があるのか?」

それは無い、むしろ半年では無くずっとこの家にとどまって欲しかった。

「無い─けど──その──私は大丈夫だけど、ほら他の人達が何て言うか──」

「男手があると助かるわー!」

買い物から帰って来た母は、手を合わせて喜んだ。

「息子が1人増えるのか、しかもこんな逞しそうな若者とは!」

工事現場で働く父は、嬉しそうにランドの肩を叩いた。

「わーい!遊び相手が出来た!」

無邪気に笑う弟。

「よし、みんな賛成と言う事で良いかの」

婆さんは、一段落着いたとばかりに息をついた。

「がっはっはっはっは!いやー、俺と酒を飲み交す奴が居て助かるぜ!」

父は、筋肉がモリモリの太い腕をランドの首に巻き付かせた。

「俺──父さんに会った事が無いんだ。父さんと眠った事も、父さんと風呂に入った事も、父さんと酒を飲み交した事も無いんだ。だから、何か──嬉しいな」

腕が首にフィットして、少し苦しそうにしていたが、それでも少し幸せそうなランドがいた。

「お父さんが居ないの?」

パメラは、不思議そうにランドに聞いた。悪気は無かった訳なのだが。

「えっ──ああ、猟師に殺されたんだ」

「何よそれ!殺人事件じゃ──」

パメラは言葉を止めた。もし、それが人間だった場合だ。ランドは特別な環境で育った。ランドの言う"父さん"とは、亡き母の旦那さん──つまり、狼なのだから。

急に、周りの空気が冷たくなるのを感じたパメラは、起死回生に話題を振る。

「でも──ほら、新しい家族にはお父さんが居たでしょ?」

ランドはパメラを見て笑った。パメラは、ランドの笑顔を見てホッとした。

「良かったじゃ無い、お父さんが居たんでしょ」

「ああ──俺が殺した。俺が、今の家族の所に来る前に俺が今の母さんの旦那を殺したんだ」

辺りの空気が重くなった。それこそ殺人事件だ。

「何で…殺したの?」

パメラは聞いてはいけないと思ったが、聞かずにはいられなかった。

「アイツは、猟師だったんだ。俺の目の前でクルシス母さんとロクサス兄さんを殺した…だから、俺はアイツを殺したんだ」

周りの人は何も言わなかった。と言うより、言えなかった。

聖なる狼を殺した猟師──いや、ランドの母と父を殺した猟師は、今の家族の父親だったのだから。

パメラは衝撃的な事実をつきつけられ、落胆した。同い歳なのに、過酷な運命と戦っていたランド。人を殺したからどうと言うわけでは無い。

「ごめんなさい…」

少しでも、ランドを悪者と思った自分に腹が立った。

「いや──大丈夫だよ。俺は気にしてないから」

いつの間に腕から抜けたのか、ランドはパメラの頭をポンと叩いた。

「別に、それが誰であろうと俺は誰も恨んで無いんだよ──それに、母さんが言ってたんだ!恨みはどこかで止めなければ永遠に続くってね!俺は確かに母さんの旦那を殺したけど、母さんの旦那だって俺の家族を殺したんだ。だから、それでもう良いんだよ」

「ランドは本当に気持ちの整理がついてるの?」

別に彼を追い込もうとしている訳では無いが、言いたい事、聞きたい事をズバズバ言ってしまうのは彼女の性分なのかもしれない。

「ああ!それに、俺は母さんと兄さんの魂を宿した訳だし──ほら、想いが残ってるみたいな感じだし」

ランド本人は本当に気にしてない様子だった。細かい事は気にしないタイプなのか──パメラはふと思った。

「ほらほら、もうその辺でええじゃろ?今日は色々あって疲れたじゃろ?明日は早い事だし、今日はゆっくりと眠りなさいな」

気がつけば、外は太陽が沈み静かな夜になっていた。婆さんが不気味に笑うのが少し怖い。

「そうね…明日は早い事だし寝なきゃ──って、明日は早いって何よ!」

パメラはもう1度、婆さんの言葉を頭の中で繰り返した。確かに今、明日は早いと言っていた。

「何って──明日から、ウチの学校の臨時講師をやってもらうんじゃよ?さっきも言ったじゃろ」

とにかく、夜の婆さんは不気味だと言うことをランドは覚えた。

「確かに言ったけど──いきなり明日から始めるの?」

「そうじゃよ。ランド殿は、半年しか教える事が出来ないんじゃよ?出来るだけ早く教えてあげたいんじゃ!」

婆さんの口の中で、入れ歯がカタカタと音を立てている。

「だからって─明日からはランドだって大変でしょ?」

いきなり話を振られ、戸惑う表情を見せるランドだったが、すぐに気を持ち直すと

「そんな事は無い」と言う素振りを見せた。

本当に大丈夫か聞きたかったが、さっきの分析曰く大丈夫だろと勝手に決めつけた。とにかく、明日は1日大変な日になりそうだ。

なにしろ、男性と全く接点が無い女子の群れに男性を送り込むのだから───。明日からは、講師として教卓につく訳だが──先が思いやられる感じがするが、それは明日にならないと分からないわけで──今日は、明日に向け眠ることにした。

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