第2話:婆さんの入れ歯は黄金?
ランドは、真っ暗な世界を1人で歩いていた。
ここは、地獄なのかな?ランドはふと思っていた。
そう…生きる為に、沢山の人を殺し続けてきた。そんな奴は地獄に落ちて当然だった。
しかし、もう何年もこの暗い世界をさ迷い続けている…。
ランドの想像する地獄とは違っていた。もっと、赤い鬼とか青い鬼とか一杯居て鞭とか持ってて、色んな想像をしてたのに…ここでは、ただ暗くて何も無い広い部屋を歩かせている感じだった。
ランドは、疲れたのかその場に座り出した。
ため息をつき上を見ると、遥か彼方に小さい光が浮いていた。その光にランドは手を伸ばす。
すると光はランドの近くまで降りてきた。それは、暖かな青い光だった。
その光を見ていると、なんだか優しい気持ちになってくる。
「母さん…」
ランドは呟いた。すると、その光の中から声が聞こえた気がした。
ランドは全気力を振り絞り叫んだ。
「もう嫌だ!ここから出してくれ!この世界から俺を出してくれ!」
すると、急にランドの体に異変が起きた。
頭痛・目眩・吐き気が起こり、ランドは光を持ちながら意識を失っていった。
次に目を覚ました時、そこは光のある世界だった。光だけでは無い…天井も家具も何でもある。
「ここは…?」
ランドは手を伸ばし辺りを探った。
「家に帰って……何!?」
ランドは自分の手を見た。手だけでは無い、体も足も全て揃っていた。
「どうして…?俺は生きてるのか?」
上半身だけ体を起こすと、いつもと変わらない体をしていた。
ランドは、キッシュとの戦いの後に緑龍と黒龍の魂を強引に体に宿し、肉体が耐えきれなくなり、ボロボロにくちたハズだったのに…それなのに、今は何とも無かった様に体は元通りになっている。
「これは夢なのかな?それとも地獄…あの暗い部屋よりかはマシかな」
苦笑いしながら呟いた。
本当にマシだった。光も何も無く、ずっとさ迷い続けてきた。入り口も出口も無く、歩いても歩かなくても何も無い世界。
時には、犬のウ※コらしい臭いがした…そんな世界だった。
ランドは回りを見渡した。ここは、自分の家で無い事は確かだった。壁はボロボロな壁でドアには白い紙が何枚も張られている。ランドの足を枕にして寝ている女もいる。
プリム?いや違う…だれだろう。
ランドはそっと女の肩を叩いた。それでも、起きる気配を感じない女に対してランドは声をかけてみた。
「なぁ、おーい!起きろー!朝だぞー!」
女は声に反応を示すと、うっすらと目を開けた。ランドは手を振り挨拶をする。
まだ半分寝惚けているのか、1度ランドの顔を見て今自分が居る部屋をぐるりと見回してから、急に目を覚ましたかの様にハッと起き出した。
「あっ!おはよう?良く寝れた?」
良く分からない質問をする女。とにかく、寝過ぎていたのはランドも感じていた。
「ああ…うん。大丈夫だよ!良く寝れたから」
ランドは笑顔で答えると、布団から起き上がろうとしたが、女は何かに気づいたのか必死にランドを布団から出さない様にした。
ランドは不思議に思い、自分の体の回りを見るといつも着ている服を着ていなかった。服だけでは無い、ズボンもパンツも何も履いていない。
自分の服は何処に行ったのだろうか…脇で顔を赤くしている女に問いただしてみると、女は部屋の隅にある小さな机を指さした。その小さな机の上には、ランドの服が綺麗に畳んで置いてある。
ランドは、女が下を向いてる隙を見て素早く布団から抜け出すと、自分の服を目に止まらぬスピードで着始めた。
それはもし、ここにストップウォッチがあったらギネスに載っていたかもしれないくらいの早さだった。
女はとりあえず、ランドの服を持ってこようと立ち上がり顔を上げると、既に対面にランドは座っていた。
「えっ?アレ?……えっ?」
女は狐につまれた顔をしていた。無理も無い…。ランドは普段の人間の姿でいても、高速で動ける術を身に付けていた。
だけれども、そんな事を知らない第3者からしたら、何が何だか分からないのは当たり前だった。
「助けてくれてありがとう!」
ランドは頭を下げて女に礼を言う。
「俺の名は、ランド!何でここに居るのか分かんないし、何で生きてるのかも分からないんだ」
貴方は、砂場に居たんですよ!なんて言える訳も無かった。それにしても、何で生きてる?と言われてもパメラ自身も分からない訳なのだが…。
「えっと…貴方は、ヒドイ怪我で運ばれて来たのよ。私はパメラよろしくね」
パメラは、挨拶代わりに握手を求めた。ランドも手を差し出し答える。
「あっ!今、婆ちゃんを呼んでくるから待ってて!」
そうパメラは言うと、部屋のドアを開けて誰かを呼びに走っていった。
しばらくすると、パメラがまた部屋へと入ってきた。その後ろから、ヨボヨボの婆さんが付いて入ってくる。
「おやおや、すっかり元気になったようですな」
婆さんは、ランドに近づくと隣に座りだした。
「おうっ!ありがとな、お陰で元気になったよ」
ランドは婆さんの方に体の向きを変えると、頭を下げた。
「いいんじゃよ。それよりも、お前さんに聞きたい事が2〜3あるんじゃが」
「いいぜ!何でも聞いてくれよ」
別に隠す様な事は無いわけなのだが、婆さんは頷くと話だした。
「お前さんは、何で砂場から出てきたんじゃ?」
砂場?ランドは、ふと思った。砂場から出てきた?と言われても、覚えが無い。
「さぁー…それは分かんないな」
「じゃあ、体にあった小さなヒビはなんじゃ?」
ヒビ?そう言われてランドは自分の体を隅々まで見ると、確かに肩や腕に小さなヒビが入っていた。
「ああ…多分、俺がこの前戦った時の傷なんだよな。魂を体に宿したから、肉体が耐えきれなくなって砕けたんだよ」
ランドが、あまりに凄い事をさらっと言うので、婆さんは少し心臓が止まりそうになった。
魂を宿し肉体が砕ける。
「魂と肉体が拒絶反応を示したのか…と言うことは、お前さんはいくつ魂を宿したんじゃ?」
指を立てて数え始める。
「母さんと兄さんと緑龍と黒龍だから…4つかな」
「4つじゃと!?普通の人は、4つも入れたら生きてられんぞ!」
驚きのあまりか、入れ歯がランド目がけて発射されるが、婆さんの左手は素早い動きで入れ歯を口の中に戻す。
「そうなんだよな…俺も何で生きてるのか分かんないだよ」
ランドは大笑いしながら答える。周りの人が聞いたら、それは笑える事では無いのだが。
「ほう…では、お前のお母さんかお兄さんは優秀な治療術師では無かったか?」
ランドは考え込んだ。治療術師では無いが、母さんは傷を癒す力を持っている。
「うん。母さんが、力を持ってたよ!」
「ほほう!それは素晴らしい能力じゃな!もう1度見せて欲しいんじゃが」
それまで脇で2人の会話を聞いていたパメラであったが、彼女もまたランドの治療術を見てみたかった。
ランドは少し考え、心よく頷くと目を閉じた。自分の体の中にある魂…母さんと兄さんの魂だけを探り入れ発動させなければ。4つも発動させてしまえば、何が何だか分からない化け物になってしまう。
ランドは、意識を集中させ自分の体の中に意識を持っていく。暗い暗い闇の中で、光が見えた。青い光と赤い光──母さんと兄さんの魂。ランドは闇の中で辺りを見回した。飛龍達の魂が感じられない…俺はあの時、確かに体に宿したハズだった。だから、俺はプリム達と離れ1人でくちて行く事を決めたのだが──その魂がランドの中に宿っていなかった。
今は考える事よりも、命を助けてくれたこの人達に俺の力を見せなければ。ランドは、青と赤の光を触れる。
目を閉じたまま動かないランドに、婆さんは寝ているのかと思い、手を叩いたり振ってみたりしてみるが反応が無い。
パメラも気になりランドの顔を覗き込んだりしていた。──が、その時だった。ランドの腕からは、金色の毛が生えて来ると顔が伸びて狼の顔になる。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
パメラは一気に部屋の隅にまで避難する。婆さんは、口から入れ歯が落ちそうになっていた。
「ん?どうしたんだ?」
ランドはキョトンとした顔でパメラを見た。
「えっ?何?ランドなの?」
そこには、全身金色の毛をし髪の毛だけは、ランドの髪の狼人間が立っていた。
「大丈夫か?悪いな驚かせてしまって。先に言えば良かったな」
魂を宿したとさっき言っていたハズだった。魂の力を使うのは当たり前なのだが、まさか狼に変身するとは思わなかった。
パメラは、ランドを傷つけてしまった事に後悔をした。
「ごめんなさい。その─叫んじゃって」
「良いよ別に。最近、周りの人間が狼の姿になっても驚かないから、普通に獣人化しちまったな。こっちこそ悪かった。立てるか?」
ランドは笑顔で返すと、パメラの元へ行き手を差しのべる。
「あ──ありがとう」
パメラは、手を差し出すと急に痛覚を覚えた。
さっき、部屋の隅に逃げる際に切ったのであろうか──右手がパックリと割れて血が出ていた。
「ごめんなさい!ちょっと待って」
ランドの綺麗な金色の毛が赤く染まる事を気を付け左手を差し出そうとしたが、ランドはガシッと右手首を掴んだ。
「大丈夫だよ」
ランドの瞳が青くなっていく。パメラの右手に暖かい優しい光が覆る。
傷は、ドンドンと塞がって行った。
「おおー素晴らしい!」
いつの間にか、パメラの横に立ち傷が癒えるのを見ていた婆さんは、歓喜の声を上げた。
傷が完全に癒えると、ランドはパメラを立ち上げてから一息ついた。
「その毛並、その能力、もしやお前さんのお母さんとは、聖なる狼クルシス様で無いですか?」
意外な所から母の名前が出て来たので、ランドは逆に驚いた。
「婆さん!母さんの事を知ってるのか?」
「やはりのぉ、お前さんのお母さんにワシは昔、命を助けられたんじゃよ」
婆さんは、拝む様にランドに手を合わせた。