第27話:光
リンゴーン…リンゴーン…
白い教会の鐘が鳴る
教会の中では、王国の成婚の義が行われていた。
花嫁は、もちろんクルシスランドの王女…プリム。
相手は、隣国の王子…以前ランドと戦った名前を忘れた王子。
両国の王様、王妃は涙ぐみながら式を見守っていた。
「あーあ…プリムさん結婚しちゃったね」
ソフィアは呟いた。
「しょうがないよ。向こうとコッチは、身分が違うんだから…」
パメラも固唾を離さず見守っていた。
リンゴーン…リンゴーン
また鐘が鳴る。
「では双方、誓いのキスを…」
2人の間にいた神父は、2人を見合わせる形で立たせた。
「ちょっと待って!そこまでやらないと駄目なの!?」
急に、プリムが声を上げた。
「プリムさん!そこは女らしくブチューとやっちゃいなさいよ!」
ソフィアが叫ぶ。
「絶対に嫌!無理!精神的に!」
何故か嫌がるプリム。教会内にざわめきが起こる。
「あーあ…可哀想ね名前忘れた王子も…演劇なのに、フリもしてくれないなんて」
パメラは呟いた。その時――
「ま…待てー!」
教会の扉が開きランドが現れた。
「その式、ちょ…っと待ってくれないか?」
かなりの棒読みをするランド。
「ランドー!来てくれたのね!」
プリムは歓喜の声を上げた。
「ああ…愛しれお前の後ろのだかれね」
ランドの横でソルとルルが一生懸命にランドに文字を教えていた。
「ああ…愛するお前の為だからな!」
「ランドー!」
プリムはランドに向かって走り出した――のだが…
「はい止まってー!」
ソフィアがプリムの足をかけると、プリムは勢い良く転んだ。
「もう良いでしょ?夢見たんだから、早くあの王子と成婚の義をやっちゃいなよ」
「お前はまた邪魔するのか!ちくしょー!」
王子がキレて獣人化する。
「そうか!こうゆう意味だったのか!」
ランドは自分が言った意味が分から無かったが、王子が獣人化したことで何か面白い事なのかと勘違いをする。
「違うの…違うのに…何でいつもこうなるの?」
半泣きになりながらも、プリムは呟いた。
壇上では、獣人化したランドと獣人化した王子…獣人化していたソフィアが暴れている。
「プリム様、お気の毒です」
パメラがプリムの肩を叩いた。
「あんた達!いい加減にしなさいよ!」
プリムは立ち上がり獣人化を始めた。
「次の一撃で、最後の決着がつくな…俺が勝ったら国を滅ぼす。お前が勝ったら…まぁ好きにしろ…どの道、俺は肉体が砕けてもまた再生するだろうがな」
くっくっくっ…と笑うキッシュ。
「なあ最後に1つだけ聞いてもいいか?何で肉体が砕けるって分かってて魂を宿したんだ?」
少し考えキッシュが答える。
「さぁな…俺はお前が羨ましかったんだと思う…ただそれだけだ」
キッシュは目を閉じそしてランドを睨むと、戦闘態勢を取る。ランドはもっとキッシュと話していたかったが、それも無理だと感じとるとキッシュを睨み返した。
「またな!ランド!」
一瞬だがキッシュが笑った様に見えた。
「ああ!もう二度と会いたくないけどな!」
ランドはキッシュに飛びかかる…最後の最後の一撃を残った腕に込める。
キッシュもまた、最後の一撃を腕に込めてランドに拳を突き出した。
互いに交差することも無くぶつかり合う拳…
「ランド…本当に強くなったよな…」
キッシュの腕が崩れて行く。ランドの拳は、キッシュの体を突き破る。
「キッシュ…ありがとう」
ランドの手の中に僅かな感触が残った。キッシュの魂…黒龍と緑龍の魂が。
ランドはため息をつき空を見上げた。
「さてと…次こそは、体が朽ち果てようともコイツを逃がさないようにしなきゃな」
ランドは手の中でキラキラと光る魂を見つめそして口に運ぶ。
「ちょっと待ちなさいよ!」
不意をつかれたか、激戦で血の臭いで鼻をやられたのか、ランドは飛んできた石を避ける事が出来ず魂を落としてしまった。
「ちょっと!また、魂を体に封じ込めようとしたわね!しかも、私達がいない間に!」
ランドは石が飛んできた方向を睨んだ。プリムが仁王立ちをしてコチラを睨んでいた。
後ろには、ソフィアとパメラの姿も見える。
「ランド!そんなボロボロで魂なんか宿したらもう2度と生き返れないじゃない!」
ズカズカと近寄ってくると、足下に落ちていた魂を拾い上げた。ランドは取り返そうと足を一歩踏み入れたのだが、体は言うことを聞かず片足が崩れ落ちた。地面に派手に転ぶランド。プリムは少し怒った表情で見下ろしていた。
「ランドの気持ち…解ってるんだよ…でもね、私の気持ちは解って無いんだよランドは」
ソフィアとパメラが近づいてきた。ランドの姿を見て驚きを隠せない様だった。
「この魂…私が宿す!」
「馬鹿やめろっ!ドラゴンの魂なんか宿せる訳が無いだろっ!」
ランドは起き上がろうと片手で地面を押したのだが、残った腕も音も無く崩れ落ちた。それでもランドは、首だけでもプリムを見上げた。
「ううん。宿せるわ!宿してランドの体を再生する!」
「プリムさん!やめてっ!」
ソフィアもプリムを止めようとするのだが、プリムは魂を口に運んでいく。
「やめろ!人間よ!」
急に頭の中に声が響いた。深く静かで荒々しい声が…
「人間よ!お前に魂を宿すのは無理だ!魂を離せ!」
声に耐えられなくなり、プリムは魂を手から落としてしまった。
ザクッザクッザクッ…
草原の草を噛み締めて、何かが近づいてくる。プリムはその姿を見て目をこする。
「ソフィア?」
思わず声に出し聞いてしまっていた。その姿は、真っ白な毛並みで赤い瞳の狼だった。
「お城の地下で会った狼だ」
パメラがポツリと呟いた。
「人間達よ…この国と未来を救いたいなら、その魂から離れよ」
パメラの頭の中にも狼の言葉が響いた。
「ドラゴンの魂は、悪魔の魂とも言われている。その魂を宿すと、魂に体を乗っ取られてしまうぞ」
「知らないわよ!そんな事!体なんて乗っ取られても良いわ!ランドさえ治せればそんな事はどうでも良いの!」
プリムが叫ぶのだが、狼は無視する。
「治癒術を使う少女と、聖なる狼の娘か…恐らく2人の力を使ってでもランドを治すのは無理か」
狼の歩みは止めずに近づいてくる。
「オジサン誰?何で私達の事を知ってるの?」
ソフィアは聞いた。何が何だか分からない状況が掴めない現状。
狼はランドの元まで近づいてくるとランドを見下ろした。
「クルシス…我が最愛の妻よ。人間を愛し人間に魂を宿した。私も今、そっちに行くよ」
「妻?って事は…アナタはランドとソフィアのお父様?」
狼の表情が一瞬綻んだ気がした。
「嘘…だってパパは昔、猟師に撃たれて死んだって」
ソフィアは愕然と狼を見つめていた。
「私は死なないさ…私も聖なる狼の一族だからね。私の一族は、“不死の力”が宿っているんだよ」
狼は魂に近づいて行った。
「それなのに、私はクルシスやロクサスを助ける事が出来なかった…そして、ランドとソフィアもね…でも今、やっと私が家族を守る事が出来るかもしれないよ」
そう言うと、狼は魂を2つ口にくわえた。
「私の中で、この魂を浄化しようじゃないか…ただ、私はこの魂を宿したままではいずれ魂に心を奪われてしまう」
せっかく会えた父に何も言えず抱きつく事も許されずランドの心は悔しさで一杯だった。今の状況は、ランドでさえも理解出来ている。
「悪いが人間よ…いや、プリム王女よ。私に力を貸してくれないか?」
急に名前を呼ばれ驚くプリム
「私の魂を体に宿して欲しいんだが」その言葉に敏感に反応を示したのは、プリムでは無くソフィアだった。
「絶対にダメ!やめて!パパお願い!お兄ちゃんにクルシスお母さんの魂が入ってるのはしょうがないけど、プリムさんまで巻き込まないで!」
「ソフィア…?」
意外な人物(?)からの意外な発言に、少し嬉しさを感じたのだが…
「そんな事をしたら、プリムさんのエサに毒を混ぜたり、毎日の様に嫌がらせをしたり出来なくなっちゃうよ!」
その気持ちは、三秒で崩れた。
「もし、私がランドのお父様の魂を入れてランドが助かるのなら…今までの生活が元通りになるのなら私、喜んでアナタの魂を受け入れます!」
「ありがとう…王女プリムよ」
ロンゾは口にくわえていた魂を一気に飲み込んだ。体の中で、2つの魂がぶつかり合い、過剰反応を起こす。
「王女プリムよ…私の体に手を置いてくれ」
プリムは言われるがまま、ロンゾの背中に手を置いた。ロンゾの背中は、意外にも綺麗な白い毛並みで、とても暖かかった。
「何か、バタバタしてしまったな。ランド…ソフィア…大きくなったな」
ロンゾは呟くと、段々と姿が消えてくる。それと同時に、プリムは目を閉じた。プリムの中にランドとソフィアに対する情と不思議な力が入ってきた。
「パパぁ〜…」
ソフィアが情けない声を出したのが聞こえてきた。
プリムは静かに目を開けると、目の前にいた狼は消えていた。
「スゴい…ずっとずっと先にある花の香りまで嗅ぎ分けられる!視力は少しだけ落ちちゃったかもしれないけど…」
「パパ…何でプリムさんなんかに…」
落ち込むソフィア。
「ゴメンね!ちょっとだけ良いかな?」
今まで静かだったパメラが喋る。
「驚いたり嘆いたりするのは良いんだけど、ランド死にそうなんだけど…」
プリムとソフィアの視線の先には必死に治癒術をかけるパメラと、自己回復を狙うランドがいた。
「あっ!お兄ちゃん!忘れてた!ゴメンね!」
獣人化を解き狼の姿になると、ランドの元へ駆け寄った。
プリムは静かに目を閉じた。自分の中にある魂をそっと触れた。
再び目を開けると、何かが違う感じがした。自分の手足を見てみると、ソフィアと同じ綺麗な毛並みの手足。完全な狼の形では無く、ランドと同じ狼人間みたいな姿。
プリムもランドに駆け寄った。1歩踏み出しただけで、体に羽根が生えた様に軽くなり周りの景色が一瞬で過ぎていく。
「スゴい!ランドと同じ速さで動ける!最高!恐いもの無しね!」
はしゃぐプリム。その足下では1つの命が消えようとしていた。
「っていうか!早く手伝ってよ!」
少しイライラした感じにソフィアは叫んだ。
「あっゴメンゴメン…で、私って具体的に何をしたら良いの?傷を治す能力なんて無いし…」
「パパの能力は、不死の力ってのは知らなかったけど、相手の力を最大限まで引き出す事が出来るのよ!それで、クルシスお母さんもその力を使って有名になったの!」
「へぇ〜…」
それは驚きだった。この魂に、そんなにも力が込められていたとは…。
プリムは足下に転がっている何が何だか分からない物体の上に手を置いた。身体中から、何かが抜けていく気がする…
「お願い!ランド治って!」
手と物体の間に光が生まれ、その光はクルシスランドを包みこんだ。