第25話:大事なのは勇気?希望?愛?そんな事より食欲です。
「それで?何がどうなったって?」
ルナは腕組みをしながら、2人仲良く正座をするプリムとランドを見下ろしていた。外は日が落ちて真っ暗になっている。
「えっと……ランドが、町中で『お前を殺す』みたいな事を叫んじゃって、お城の鋭兵が飛んで来ちゃって、そしたらランドが『お前らは、キッシュの差し金か!』とか言っちゃって、獣人化始めちゃって…アッチに逃げたりコッチに逃げたり…」
チクタクと時計の針が進む音が聞こえる。
「何か、俺が悪いみたいに聞こえるんだけど…」
横目でプリムを見る。
「100%ランドが悪いんだからね!」
「プリムだって、兵士を何人か殴り飛ばしてただろ!」
「だって!私が捕まったら一生お城で監禁状態になっちゃうじゃん!」
「はいはい!もう、誰が悪いとか誰がしたとか良いじゃない!結局は、ランドが一番悪いんだから」
母の言葉が胸に刺さる。
「話し合いは解決したようね!さぁ、明日は早いんだし晩御飯でも食べましょ!パメラちゃんも待ってるわ」
パンパンと手を叩き2人を立ち上がらせる。
「母さん…解決方法みたいな事は聞かなくて良かったのか?」
「えっ?うん大丈夫よ。ランドなら、きっと何をしたって解決出来ると信じてるから…だって、クルシスの血を引いてるんだもん」
それだけ言うと、母はさっさと部屋を出ていった。とにもかくにも、明日は本当の本当に最終決戦!出来るなら避けて通りたかった道。だからと言って…
「お兄ちゃん!一緒にお風呂に入ろっ!」
静まり返った部屋に元気良くソフィアが飛び込んで来た。
「ソフィア…そうだなたまには一緒に――」
「ダメよ!」
いつの間にかパメラも部屋に入っていた。夜遅くに帰ってきた2人が心配だったようだ。色んな意味で…
プリムとパメラが同時に叫んだ。
「この性悪狼は何て事を言うのよ!」
プリムが怒る
「お兄さんは疲れてるから、私と入りましょ?ねっ?」
パメラも同様に、感情を隠しながら話す
「別に俺は疲れて無いけどな」
「だから駄目だって言ってるでしょ!」
2人は再度叫んだ。
「ん〜…じゃあ、みんなで入るか!」
ランドのいきなりの提案に、場が固まった。1人を除いて…
「えーお兄ちゃん!いいじゃん放っておけば!人間臭くなっちゃうよ!」
「ソフィア!ダメだろ?いくら、パメラとプリムから変な匂いがするからってそんなことを言ったら」
「変な匂い!!」
2人は互いに、体臭を嗅ぎだした。変な匂いはしないのだが…
「プリム様!もしかして、香水をつけていませんか?」
パメラの言葉に一同はプリムに視線を投げた。
「分かんない…多分、王女様やってた時(記憶が無い時)に、普通につけてたかもしれない」
「やっぱり!道理で私も臭いと思った!匂いが移ったんだ…」
ソフィアも自分の体の臭いを嗅ぎ嘆いた。
「やっぱり、みんなで入った方が良いな!」ランドは言うと、パメラとプリムの手を掴み引きづりだした。
「お兄ちゃん!いいよ〜2人だけでいいじゃん!」
ソフィアの願望も虚しく空を切る。ランドは、無視しながら2人を外に連れ出した。
「一国の王女様をこんな目に合わすなんて、世界中を探してもランドしか居ないわね…」
「コレだから、野生児は…」
パメラとプリムは呟いた。
「おーい!2人ともー!そんな端っこじゃ、取れるもんも取れないぜ」
遠くでランドが叫ぶ声が聞こえた。
「絶対にわざとじゃないって言いきれると思うけど…」
「もしかして、毎回毎回こんな目に合わされてるんですか?」
2人の雑談会は続く。
「まぁね」
「良く我慢出来ますね?」
「まぁね…3年と言う月日で何かが変わると思ってたんだけど…結局、ランドはランドなんだね」
プリムの足元を何かが通り抜けた。プリムは驚きその場で倒れた。冷たい水が、全身に濡れ渡る。
ここは、クルシスの森の湖だった。ロクサス兄さんが殺された場所であり、ランドが人間を信用すると決めた場所でもある。そんな、湖でランド達は水浴びをしていた。
「プリム様!大丈夫ですか?」
パメラは手を伸ばし、プリムを起こした。
「ありがとうパメラ。にしても、今のは何なのかしら…」
助け起こされ全身びしょ濡れのプリムは呟くと、後ろでソフィアがはしゃぐのが聞こえた。
「お兄ちゃん!蛇!蛇がいっぱい水中にいるよ!」
「よし!ソフィア!全部捕まえるぞ!蛇はウマイからな!」
そんな2人の会話を聞いて血の気が引くのを感じた。
「パ…パメラ、そろそろ上がろっか?」
「そ…そうですね」
2人は、一刻も早くこの場からにげるかの様に、岸辺を目指して歩き出した。
「プリム!何処に行くんだ?獲物が沢山いるぞ!一緒に取ろうぜ?」
もうすでに、片手に数匹の蛇を持ったランドがプリムの肩を掴んだ。
「急に気分が悪くなってさ。先に上がってるねランド」
「気分が悪いだって!?蛇を喰えば良くなるかもなっ!」
どうしてそうなるかがわからないが、ランドは慌ててソフィアの所まで走っていった。
「今のうちに、家まで逃げましょ!」
パメラは頷くと、一気に走り出した。2人で岸辺に上がると、何故かソフィアも一緒に水から上がる。
「あれ?ソフィア…どうしたの?」
逃げるのがバレたのかと思い、内心ドキドキしながらパメラは聞いてみた。
「ん?別に…」
不機嫌そうな態度とは裏腹に、ソフィアは意外にも笑顔であった。
「よっこいしょー!」
ランドが叫ぶと同時に、湖の水が空を飛ぶ。
蛇も一緒に…
「どっこいしょー!」
再度ランドが叫ぶと、空中の水が散開する。もちろん蛇も…
ソフィアは飛び上がると、一点めがけて空中に散開する蛇を蹴り飛ばす。
「ランドは悪気は無いのよね」
水と一緒に、頭の上から蛇が落ちてくる。
「悪気があると言えば、あっちの白い奴なのよね!」
遂にぶちキレたプリムは、怒りのあまり足元に溜まった蛇をわしづかみすると、ソフィアに投げ返した。ヌルヌルにゅるにゅるした感触だけが手の中に残る。
「プリムさん!何するんですか!せっかくお兄ちゃんが捕まえた蛇を!」
「ウルサイわよ!何が捕まえたよ!さっきから、私の居る場所を狙って蹴り飛ばしてるのがミエミエなのよ!」
確かに、プリムの足元には異様な位の蛇が沢山ウネっていた。
「2人ともケンカしてないで、せっかくの獲物なんだから食べろよ」
口の先から、蛇のシッポがウネウネと動かすのを全く気にしないで口をモゴモゴさせながら、頭の無い蛇をプリムに渡そうとするランド。頭の無い蛇は、意外にも微かに動いていた。
「最悪…カエルシチューより最悪だわ」
パメラは呟いた。
「ランドが手渡しのは受け取れないけど…もし…その…あの」
顔を赤らめてうつ向くプリムを見たソフィアは、まだ空中に散開していた蛇を腕一杯に掴むと、プリムめがけて投げ飛ばす。
「ちょっと!何すんのよ!」
「何すんのはコッチの台詞です!何、どさくさに紛れてお兄ちゃんから、獲物を取ろうとしてるのよ!」
「ランドから獲物を取る?」
パメラは聞き返したが、誰も聞いてなかった。
「ねえランド。ランドから、獲物を取るって何の事?」
「んー…何か人間は、口から口に食べ物を運ぶ作業が好きみたいなんだよな」
最後の蛇を飲み込みランドが話す。
「それってまさか…」
急にパメラの顔が赤くなった。
「パメラも好きなのか?」
とランドは、新しく蛇を捕まえて頭を食いちぎる。パメラの頭の中で、ランドとキスをする自分が浮かんできた。
「ちょっとそこ!何をしてんのよ!パメラ!ランドから離れなさいよ!」
パメラは見てしまった。プリムの背後に、鬼神の幻影を
「私は、べ…別にランドと…その…キスをしようなんて…」
「何をしようって!?パーメーラー!」
プリムの頭に大量の蛇が降ってきた。
「よし!鬼は倒したわ!お兄ちゃーん!私に蛇をちょうだい!」
地面に降り立ちランドの元へ駆け寄ろうとするのだが、蛇の固まりの中から手が伸びソフィアの足を掴んだ。
「ランドは渡さないわよー!」
「地獄から蘇ったのね!暗黒王女めっ!」
2人はまたギャーギャーと騒ぎだした。
「よし!蛇も食ったし、パメラ帰ろっか」
何匹食べたのか分からないが、いつの間にかランドは満腹と言った感じにお腹を叩いた。
「あの2人は置いて行くの?」
パメラは心配そうに聞いた。
「うん。何で?」
一方、ランドはこれといって心配は無いようだ。
多分、本当にこの男には食う事と寝る事しか考える事は無いんだなと、パメラは実感した。