第24話:もう少しで最終話に突入します!番外編もヨロシク!
「あっそうなんだ…良かった」
プリムは安堵のため息と共に、飲みかけのクリームソーダを机に置いた。
BARには、いつもの顔ぶれが集まっていた。それに加え今日は、ランドとパメラが加わっている。
「んじゃあ、パメラはランドをこの国まで連れてくるって事で一緒に居た訳ね」
親に紹介するとか、そう言う訳では無かった事が判明して心が落ち着いた。
「そう言えば、プリム様は領主の息子とご婚約されたと聞いたのですが?」
プリムには、
「別にかしこまらなくて良いよ」と言われたので同じ席に座りクリームソーダを飲んでいたパメラだが、言葉使いだけはキチンとしながら聞いてみた。
「ご婚約って…周りから見たらそうゆう風にみえちゃうのかな」
少し照れ臭そうにプリムは答えた。
「やっぱりご婚約をしていたのですね!――って事は、ランドとの関係はどうなるんですか?」
やはり、一番気になる所。婚約をしていながらも、ランドとの間はどう説明するのか…
「えっ?ランド?そっか知らないんだね」
プリムが笑って答える。
「ランドって、一応領主の息子なのよ」
頭の中に雷が落ちる音が聞こえた。それは、今まで2人の間に座り耳を傾けていたルナも同様だった。
「あれ?ルナお母様も、初めて聞いたんですか?」
プリムは、白目を向き泡を吐きながら虫の息のルナに聞いた。
「ランドが領主の息子…」
微かな声でパメラは呟いた。
「ちなみに、その後の調べでソフィアも領主の娘って判明したのよ。本人は知らないみたいだけどね」
「ソフィアが…!!」
「領主の娘…!!」
パメラに続きルナが叫んだ。
「あの2人って、血の繋がりが無い兄妹だと思ってたのに不思議よね」
プリムは、部屋の片隅に倒れている物体2つを見た。
「んっ?ちょっと待って下さい!ソフィアって狼ですよね?」
少し考えてからパメラは聞いた。領主の娘が狼なんて聞いた事が無い。
「えっと…ちょっとややっこしいんだけど、ランドの魂とソフィアが兄妹で、ランドとソフィアの魂が兄妹なのよ」
確かにややっこしい話だった。つまりは、ランドとソフィアは血は繋がって無いのだが本当の兄妹だと言う事だ。
「事の成り行きが、領主の(以下省略)さんが、まだ領主になる前に、ランドを山に捨てたのよ。残った娘だけでも、匿う様に近くの村に預けていたのね。丁度その頃に、キッシュ達がソフィアを誘拐して人間の村に捨てた訳。そして、その村でソフィアは育ちランドは山で育った。でも、内戦が広がりその村が襲われソフィアは人間の魂を受け継いだ。ランドも狼の魂を受け継いだ訳」
「待って…そうすると、ソフィアがお兄ちゃんって呼ぶ理由が解らないわね。ソフィアの方が年上じゃないの?計算が合わないし」
「そこもややっこしいんですけど、確かにソフィア自体はランドより先に産まれてるけど、ランドの魂がソフィアより年上だから、ソフィアはランドの事を兄呼ばわりしてるんじゃ無いかな?だってあの子、私と同じくらいだし」
何か分かった様な分からない様な、そんな気分に陥った。
「きっと複雑なのよね」
ルナはしみじみと思った。
「ところでルナお母様…さっきから普通に会話してますけど、龍の背中から落ちて良く無事でしたね?」
話は進まずに、更なる疑問が浮かんできた。
「えっ?ああその事ね!その辺の事は、そのうち番外編ルナの冒険?(仮)を出すからそれを見てね!」
「番外編って…狼シリーズはいつ終わるんですかね」
パメラがため息をついた。本当にいつ終わるのか…作者も分からない。
そのうち、最終話ですか?で、〇いいえ・●はい しそうで恐い所。
中途半端にはしたくないだろうけども、パケット通信料が気になる…。
「でも、次の作品をもう考えてるとか…また狼シリーズらしいけど」
ワイワイと騒ぐ3人とは別に、やっと回復をしたランドとソフィアは体を起こした。
「ソフィア大丈夫か?」
ランドはソフィアに聞いてみた。
「うん。お兄ちゃんよりかは平気みたいだけど…どうしたの?この傷?」
ランドの体に指を差した部分が、少し治りが遅かった。
「ん?ああ…大丈夫だよ。気にするなって」
サッと手で傷を隠す。
「大丈夫だよ…」
ぽつりと呟いた。微かに聞こえたランドの呟きが少し気になったが、ソフィアは聞こえないフリをする。
「マスター!私達にも、何か頂戴」
ソフィアがパタパタとカウンターまで走る。ランドは手を退けて傷を見た。
やはり気になるこの傷…戦う度に増えていき、傷を治す事も出来ない――このヒビが
「俺の体…大丈夫だよな。最後までもってくれるよな」
拳を握ぎる。
異変に気づきだしたのは、かなり前の狐先生と一緒に戦ったあの時であった。最初は、ただの傷であろうと思っていたのに、癒す事が段々と出来なくなっていた。
いつ砕けてもおかしくない体…その事は、みんなに伏せていた。もう心配はかけたくない…そう思ったからである。
「お――お兄ちゃん…プリムさんが呼んでるよ」
何やら、脅えた感じでソフィアが呼びに来ていた。
「お兄ちゃん…パメラさんの所で、1週間もお世話になったんだって?」
プリムが、満面の笑顔で手招きをしていた。ただ、変わってる事は怒りマークが1つ付いてるということ…
ランドは変な寒気がした。前にも感じた事のある寒気…獣人化をして逃げようと思えば逃げれたであろうが、どうやらそれも叶わなそうだ。
ああ…前にもこんな事があったな…父さん、母さん、僕もそっちへ逝きます…ランドは天を仰いだ。
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「ねえランド…ちょっとだけ話せるかな?」
プリムがランドの隣に座った。向こうでは、お祭り騒ぎになっていた。
死の恐怖を見たランドは、遠くに席を陣取ると騒ぐルナ達をボケッと見ていた。そんな時だった。プリムが話しかけてきたのは…
「またキッシュと戦うんでしょ?って言うことは、また同じ方法で倒せるなら倒しちゃう感じなの?」
それは、もう嫌だ!ランドに会えなかった時間はとてつもなく長かった。
また同じ方法で倒す場合、また同じ奇跡が起こるとは限らない…
「どうにかキッシュを倒す方法を考えましょ?3年前と同じ倒しかたをするのは許さないからね」
プリムの目は本気であったと同時に、少しだけ涙がうっすらと貯まっていた。
「ああ…2度とあんな真似をしたくないさ。あのやり方だと、俺の体が砕けたらまた体から逃げてしまうからな」
「もう、2度と私の前から消えるなんて事をしないで――お願い」
ガシッと腕を掴む。それだけプリムが寂しい思いをしたのかが、ヒシヒシと伝わってくる気がした。
「俺、良い事を思いついたんだけど」
とっさに何かを思いついたランド。プリムは、その考えを聞く態勢をとる。
「まず、穴を掘るんだよ」
「うんうん」
「キッシュを落とす」
「うん!却下!」
プリムは笑顔で答える。
「違うぞ!まだあるからなっ!穴に落ちたキッシュに上から石を沢山落として埋める」
「だから、却下って言ってるでしょ?」
「ソフィアも埋める」
「何で?」
「何となく」
「じゃあ却下ね」
プリムのこめかみに、怒りマークが出てくる。
「不幸の手紙を出す!」
「ランド、字が書けないでしょ?」
「変な噂を流す!」
「へぇ〜…一応聞くけど、どんな?」
「キッシュは、悪人です!とかかな」
我ながら良い考えと言った感じに胸を張る。
「他に何か無いの?」
「2Pの十字キーを上とA・B押しっぱなしにして、動きを止めるとか?」
「ロック●ン2の裏技!?しかも、古いし!」
「じゃあ、プリムは何か思いついたのかよ」
あまりの却下率に、ランドは少々逆ギレっぽく質問を返した。
「私の考えは、キッシュの魂を私に宿すってのはどうかな?」
今まで笑顔だったプリムは、急に真面目な顔をする。
「ダメだ!却下だ!」
「じゃあ他に良い方法があるの?」
「みんなの元気を少し分けてもらって、その塊をキッシュにぶつける!」
「駄目よ!少し分けてくれって頼んでるのにも関わらず、足らないとか文句ばっかり言って、しかもアレ結構元気を吸いとってるのよ?そんな人の真似なんて絶対に駄目よ!著作権的に!」
ドンッと机を殴る。
「じゃあ、どうしろって言うんだよ!俺がアイツの魂を食って、今度は抜けない様にソフィアとパメラと俺で肉体の崩壊を止めれば大丈夫じゃないのか?」
「だから!何でいつも自分を犠牲にするのよ!ランドが犠牲にならなくていいじゃない!私が――」
「ダメだって言ってんだろ!」
熱くなりランドは勢い良く立ち上がる。その際に、机が揺れグラスが割れた。
「ダメだダメだって!私だって役に立ちたいのよ!いつもいつも…助けられてばっかりで!」
「当たり前だ!プリムは俺が守るって決めたんだ!だから絶対にダメだ!」
プリムも立ち上がりランドに食いかかる。
「私がランドに守られる?馬っ鹿じゃないの!私は常に自分の身は自分で守って来たのよ?今さらアナタなんかに助けられる訳無いわよ!」
「俺はいつだってプリムを守ろうと――」
「してないじゃないっ!守ろうとしてくれるなら、何で私の前から居なくなるのよ!いつだって、私を守ろうとして死にかけたり死んじゃったり…そんなの、守るって言わないわよ!」
プリムは顔を伏せた。2人の怒鳴り声が聞こえたのか、周りは無言で2人を見つめていた。
「でも――」
「でも…何よ!そうするしか無いとか、そうしなければならないとか――そんなの理由なんかにならないわよ!どうしてランドは、自分を傷つけようとするのよ!私を守るのなら、もっと他に良い方法を真面目に考えてよ!」
机をガンッと殴ると、外に走って行ってしまった。机は2度の衝撃で、ヒビが入り音を立てて崩れ落ちた。
「昼ドラね」
ルナが呟いた。
「昼ドラ?」
ソフィアが聞き返した。
「そうよ…まだソフィアちゃんには早い話よ」
ルナはソフィアの頭を軽く撫でた。
「っていうか!ランドって本当に、女心が読めない人なのね!」
顔を真っ赤にさせて完全に酔っ払いのオッサンの如くパメラが叫んだ。
「お兄ちゃんに女心が読める訳無いわ」
「ランドに女心が読める訳無いわよ」
ルナとソフィアが同時に呟いた。
「とにかくランド!早くプリムちゃんを追い掛けなさいよ!走って走って!」
ルナはランドに近づくと、首ねっこを掴みランドを外まで引きづり出した。
「とにかく!ランド!プリムちゃんと喧嘩しないで、ちゃんと話し合って来なさい!分かった?」
分かった?と言われても、ランドには分からず何が何だか分からない訳であるのだが…。とりあえず頷くと、渋々プリムの匂いを追って走り出した。
「あの顔は、絶対に分かったって言う顔じゃ無いわね。また喧嘩するのが目に見えてるけど…」
ルナは、やれやれと言った感じにため息をつくとBARの中へ入っていった。
「もう信じられないっ!何で私の気持ちを分かってくれないのよ!――ってランドにそれは無理な話かぁ」
怒っていると言うよりかは、やや諦めていると言う感情に近い感じになっていた。
「ランドって、何で自分を犠牲にしたがるのかしら!無邪気なのか素直すぎるのか――3年前だって、たまたま上手く行ったからって今回も上手く行くとは限らないじゃない!分かってんの!ランド!」
こう言ったパターンは読めたのか、後ろを振り向き叫んだ。プリムの真後ろにいたのは、1匹の茶色い猪だった。
「何で町中に猪がいんのよ!出てきなさいよランド!」
彼が追いついて来てるのは既に知っていたのだが、一行に出てくる気配は無かった。
「私を猪に集中させて後に立ってるんでしょ?」
プリムは振り向くと、今まで目の前にいた猪が泡を吐きながら倒れていた。
「残念!正解はその後ろでした」
背後からランドの声がした。
「意味が分からないのよ!毎回毎回!」
プリムは振り向かずに叫んだ。
「誉めても何も出ないぜ?」
「誉めて無いからね全く!」
少しイライラしながらプリムは言う。
「ランド…お願いだから、もうどこにも行かないって約束して…」
振り返らず話す。
「……」
しかし、ランドは何も答えない。
「もう耐えられないの!何年も何年もランドの居ない生活が!!」
「プリム…」
「だから、また犠牲になるとかヤメて――お願い!」
プリムは振り返る。後ろには、少し寂しげな表情をしたランドが立っていた。
「また犠牲になろうなんて思って無いと思うさ。ただ、コレを見てくれ」
ランドはいきなり服を脱ぎだした。プリムはとっさの事で目をそらしたがまたランドを見る。
ランドの体には無数の傷跡があった。
「そんな傷跡…すぐ治したら良いじゃない」
しかし、ランドは首を横に振った。プリムは、意味が分からずに傷跡を良く見てみる。
それは、傷跡では無く小さなヒビが入っていた。
「何これ?」
嫌な予感がした。
「肉体の崩壊だよ」
聞きたく無かった言葉。ランドは奇跡的に助かった訳では無く、奇跡的に肉体の崩壊を抑えられていたのだった。
「何で――何でよ!」
意味が分からなかった。ランドの体の中には、キッシュの魂は入っていない筈なのに、ランドの体は限界を越え崩壊が進んでいた。
「もしかしてランド――」
ランドは小さく頷いた。
「ああ。プリムの予想通りだよ。あの猪は、今日の晩御飯だ」
「今日は石狩鍋ね――って違うわよ!ランドは、自分が助からないって分かっててまた同じことを繰り返そうと?」
「石狩鍋って猪だっけ?」
「多分ね――って!その話じゃ無くて!ランドは、体がもたないって事なの?」
しばらく考えてから頷いた。
「何を考えてたの?」
大体予想は出来たが、一応聞いてみた。
「石狩鍋って――」
「もういいわよ!石狩鍋が猪だろうが鹿だろうが!そんなのは置いといて!」
自分から言い出した事なのに、なぜこんなに石狩鍋にこだわるのか…。
「残された道は、キッシュの魂をまた食べてランドの体に封じるしか手は残されていないの?」
そんな事をすれば、またランドに会えなくなる。2度と…
ランドは少し考えてから、首を横に振った。
「キッシュの魂の力を使う」
「魂の力?」
「グリムドラゴンの"超再生"の力を使って、俺の体の崩壊を防ぐ」
「それは上手く行くの?」
ランドは首を傾げた。そんな事、やったことがある訳ないのに確信がある訳無い。
「魂は2つが限界だ。しかも、狼とドラゴンの魂を体に入れる訳だろ?上手くドラゴンの力だけ発動するかな」
ランドは大笑いを始めた。
「だから、何でいつも笑える状況にいんのよアナタは!」
「だって笑わなきゃ損だぜ?俺は野生の狼だ!何処で生きようが、何処で死のうがそれは自然が決める事!俺はキッシュを倒し生きてやる!2度とあんな世界なんか行かないからなっ!」
ランドはくるりと回れ右をすると遠くの空に向かって叫んだ。
「待っていろキッシュ!お前は俺がぶっ殺す!そして、2度と生き返らせないからなっ!」