第23話:寝る前は歯を磨こう!
「まさか、またお前と戦う日が来るとはな…」
薄暗い暗闇の中で、ランドは前を見据えて言い放つ。
「あなたとは、2度と戦いたく無かった」
ソフィアは、一旦目を閉じまた開き目の前にいる敵を睨む。
「ここで決着をつけようソフィアマン!」
「あなたを倒して世界を平和にするわ!ウルフ魔王!」
対立していたのは、ランドとソフィアだった。2人は、あまりの暇さに“戦いごっこ”と言う遊びを始めた。
そんな2人をパメラは、ボーっと見つめていた。そして、ポツリと呟いた。
「暇ね…」
確かに暇だった。何もすることも無く、ただひたすらに上からはただひたすら水滴が落ちてくる。
「オイッ!お前!外に出ろ!」
急に牢屋の外から声がした。
「そこの紫の髪をした女だ!」
「私?」
パメラはキョトンとした態度で答えた。まだ、脇では2人はバタバタとしている。
「そうだ!そこの2人は罪人だが、お前は無実と言う事が判明したからな!釈放してやるよ」
男は少しぶっきらぼうに話す。
「私だけ?そんなのは嫌!出るなら2人と一緒じゃなきゃ」とそっぽを向く。
「いいから出ろ!」
と男は、スイッチみたいのを押すと牢屋中に機械音みたいのが響いた。
そして…
ガコンッ!と言う音と一緒にパメラの足元に大きな穴が現れた。
「いやぁぁぁぁぁぁ!また落ちるの?ここって地下じゃ…」
そんな叫びも虚しく、パメラは穴に落ちていった。また機械音が響き、穴が閉じていく。
「あの隊長…」
「なんだ?」
隊長と呼ばれた男は振り向いた。
「ここって、地下牢ですよね?あの女の子は、どこに行くんですか?」
「地上だ」
隊長はまたぶっきらぼうに答えた。
「地上って…どうやって?」
「君は新入りだから分からないだろうが、そんな設定は無視だ!地下牢ってのも、『盗賊と花言葉』らへんでの設定だから、誰も覚えておらんよ」
どこまでも人を馬鹿にしている小説。と言うより作者?
隊長はガッハッハと笑うと真面目な顔に戻る。
「知らないっすよ…絶対にクレームが来る」
そんな部下のぼやきを無視し隊長は牢屋を覗き込んだ。中では、パメラが居なくなった事に気づかないのかバタバタしている。
「よし!あの2人を捕まえて処刑台に連れて行くぞ」
「ええっ!あの2人を捕まえるですか?2人とも魂の保持者ですよ?」
「そうだ!気にするな!そんな設定、きっと忘れてるさ!」
「忘れて無いですよ!って言うか、忘れてたら物語自体終わりじゃ無いですか!」
「ウルサイ!私達の命は作者にかかっている!行くぞ!突撃だ!」
勢いよく牢屋の中に入っていく隊長。その後ろを何人もの兵士が続いて行った。
「大丈夫!きっと大丈夫!読み返せば、あの人達は悪人しか殺してない。だから、僕達は殺されないはず…」
部下の兵士は何度も頭の中で繰り返し前を向いた。金色の狼がギラギラとした目をし、血まみれの隊長を片手で持ち上げている。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!2人とも狼になってるぅぅぅぅぅ!」
先導していた兵士が止まると、後から後から次々と兵士がぶつかっていく。
「ば…ばいじょぶば…ひょちゅへきは!(大丈夫だ突撃だ)」
ボコボコにされてるのか上手く喋る事が出来ない隊長は、それでも部下に命令を下す。
金色の狼――ウルフはニヤリと笑う。
「怖いっす!恐ろしいっす!でも…隊長の仇を取るっす!」
隊長の仇(?)と言わんばかりに、兵士は決死の突撃をする。
バタバタと狭い部屋(一部、壁破損の為広くなっているが)の中は兵士達でごった返す。
「隊長の仇だ!捕まえろ!奴らは、とんでもない速さで動くぞ!」
「隊長代理!捕まえました!」
兵士の1人が叫ぶ。
「そうだ!その調子で捕まえ……捕まえた?」
兵士達が、輪を作るように広がると2人の兵士がランドとソフィアを床に押さえつけていた。
「何だ…ヤケに簡単だったな。よし!連れていけ!」
最初の脅えていた兵士は、隊長代理と言う事で命令を下すとゾロゾロと兵士達は牢屋を出ていった。
「いつの間にか、変身を解いてたのか…まぁいっか!」
隊長代理は、独り言を呟くと牢屋を出ていった。
牢屋に残された隊長も後を追おうと、必死に床をはいずり回る。
だが…
いきなり腹に激痛と強い衝撃を覚えると、そのまま意識を失っていった。
その後から、黒い影がひっそりと牢屋を出ていく。
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プリムは町の入口に下ろされると、広場へと走り出した。
広場は住人達が悔やみながら、周りから見ていた。その中に、BARのマスターも居る。
プリムは人混みをかきわけて広場へと踊り出た。広場の真ん中には、机が並んでおりその机の上にはポツポツと何かが置いてあった。
プリムの鼓動が早くなるのを感じた。そして、そっと近づく。
机の上には、ランドとソフィアの首が並んで置いてあった。
「嘘…」
小さく呟いた。
「嘘じゃありませんよ王女様。あなたの願望通り、罪人を始末しました」
いつの間にか後ろにいたキングスが肩を叩いた。
「嘘よ…願望なんかじゃ無い…私は…」
首を横に振る。鼓動が抑えきれなかった。
「まだ少しだけ記憶が残ってたかな?まあ良いさ…さて王女様、そろそろ始めますか?」
シュルツも揃って後ろに立っていた。
「始めるって何を…?」
聞き返す。
「成婚の儀ですよ」
キングスがニヤリと笑った。
「成婚の儀…?」
「そうです。この素晴らしい背景を背にして、私達――いや、私と成婚の儀を結ぶのですよ」
キングスがシュルツに向かって歩いて行くと、キングスは手を伸ばす。シュルツも同じ様に手を伸ばすとキングスの手を掴んだ――様に見えたのだが、次第に2人の体が合わさっていく。
そして完全に合わさると、中から銀髪の男が現れた。
「キッシュ…」
プリムは呟いた。そして目の前に現れた男を睨む。
「お久しぶりです王女様」
キッシュは軽く会釈をした。
「私がアナタと成婚の儀を…?」
「そうです。私はアナタと成婚の儀を結ぶ事でこの国を――いや、世界を支配する事が出来るのですよ」
全く表情を変えずに言い放つ。目の奥は、暗い闇が広がっている。
「そんな事、言っちゃっていいの?」
「ええ構いませんよ。だってどの道、私がアナタを支配するのですからね」
キッシュは、プリムの顔の前に手をかざした。手の中には小さな炎が灯していた。
「私と成婚の儀を結ぶのです」
炎がドンドンと大きくなっていく。
「私は…キッシュと…成婚の儀を…結す…」
「そうです。結ぶのですよ!」
「結す……べないわっ!」
プリムは顔を伏せて手を振り払った。
「ほぉ…結べないのですか…ならば死んでもらうだけですね」
手だけがドラゴンの手に変わると真っ直ぐにプリムに向かって走る。
そして…
ザシュッと音と共にドラゴンの手がプリムを貫いた。
けほっ…と息と共に血を吐く。周りの人混みが騒ぐのが聞こえた。
「王女、お前は殺さないつもりでいたが仕方が無い」
キッシュが呟くが、プリムは以外にも何も無かったかの様な表情をしている。体を貫いた本人も不思議そうに顔を見合わせた。
そのうち、プリムはニヤリと笑うと体がドンドンと膨れてきた。危険を察知したのかキッシュは、手を抜こうとするがなかなか抜けなかった。
体が膨れたプリムは、最大まで膨れ上がるとそのまま爆発を起こす。
キッシュは後方へ吹き飛んだ。野次馬達も、何がなんだか分からない様子だ。ただ、その野次馬の中で1人大笑いをしている人物が居た。
「あ〜面白い!プリムさんが、プリムさんがあんなに膨れ上がって爆発するなんて!」
それは、腹を抱えて大笑いをするソフィアだった。
「まさか、あそこまで膨れ上がるとは思わなかったよ」
ソフィアの隣に、ランドが頭を掻きながら呟いた。そして片腕に何かを持っている。
先程まで、体を貫かれ爆発までした本人プリムだった。プリムもまた、何がなんだか分からない様子だ。
「えっ?ランド?私?生きてるの?」
少し混乱気味のプリム。
キッシュが起き上がりランドを睨んだ。ランドもまたキッシュを睨む。
「貴様…この能力は、俺が敗れたあの力か?」
「ああ。聖なる狼の力さ」
ランドはプリムを離し広場へと踊り出た。
「生意気な…水で自分と妹…そして王女の分身を作り上げたか!」
確かに、偽プリムが爆発を起こした所に水溜まりが出来ていた。
「まさか彼処まで膨れ上がったのは予想外だったけどな」
ケラケラと笑い出すランド。
「だが、いつ“すり替えた”?」
「俺が向こうから助走をつけてソフィアを投げたら、かなりのスピードが出てな。お前が手を振りかざしたらへんで“すり替わった”よ」
舌打ちをするキッシュ。すり替わった事に気づかなかった事が、よほど悔しいのだろう。
「まあいいさ。俺も、生まれたてで力も発揮出来てない事だし。今日の所は引いてやるさ」
くるりと踵を返す。
「せいぜい記憶の戻った王女と楽しむんだな!明日、俺が敗れたあの場所で決闘だ!この3年で、お前がどれだけ強くなったか…見てやるよ」
負けたくせに態度のデかいキッシュは、背中から翼を生やすと飛び去ってしまった。
「何なんだアイツは…」
一人残されたランドは呟いた。
「ランド…」
ランドは振り向いた。何か気まずそうにプリムが立っていた。
「プリム、記憶が戻ったんだってな」
「うん!ランドおかえり!そして…」
と拳を固く握ると、ランドに思いッ切り突き出した。あまりに唐突だったので避けきれずマトモに当たり後方へと吹き飛んでいく。
「ごめんって言いたかったけど…何よアレは!何であんなに膨れ上がって!只の晒し者じゃない!」
もう虫の息で、あまりプリムの言葉が耳に入らなかったがランドはとりあえず顔を上げた。
広場には、鬼がいた。周りの野次馬達もガタガタと震えている。
「おにいちゃん!大丈夫?」
素早い動きでランドの元へ駆け寄るソフィア。
「大丈夫だ…それよりソフィア!逃げろ!キレたプリムは誰にも止められない…」
最後の言葉を残し気絶する振りをするランド。
「あっ!おにいちゃん!ズルイ!気絶する振りしちゃって!早く起きて、あの鬼を止めてよ!」
ガクガクッと肩を揺するが、地面にへばりつきなかなか起きないランド。
その間にも、鬼が近づいてくる足音が聞こえてくる。
「ソフィア…よくもあんなに大笑いしてくれたわね」
指を鳴らしながら近づくプリムに殺気を覚えた。
「いやぁぁぁ!助けてぇぇぇ!アレはほぼおにいちゃんのせいで、私のせいじゃ無いのにぃぃぃ!」
半泣きになりながらも、必死にランドを叩き起こそうとするソフィア。
「助けてぇぇぇぇ!!」
ソフィアの声は、かなり遠くまで響いた。
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「んっ…」
暗い暗闇の中でパメラは目を覚ました。頭の中でガンガンと何かが響く。
「痛たたたた…地下牢から穴に落ちて地上に行く訳無いじゃない」
ぽつりと毒つきながら体を起き上がらせた。
「今、ソフィアの声が聞こえた気がしたけど…」
辺りを見回すが、何もないただの部屋だった。とりあえずパメラは、手を伸ばし、何か手掛りが無いか調べる。すると目の前に何かが通りすぎた。
「あれ?ソフィア?」
目の前にいたのは、大きな白い狼だった。
『人間よ…なぜこんな所にいる』
頭の中に声が響いた。
「ソフィアじゃ無い?私、地上に帰りたいんだけど」
『そうか…それならば、そこの非常口から階段を上れば帰れるさ』
と狼が顔を明後日の方角に振り向ける。その視線の先に、暗闇の中に光る緑の光が見えた。緑色の棒人間が出口に向かって走っている絵が書かれている。
「あ…うん。ありがとう」
パメラは壁つたいに歩き始めて扉に手をかけた。
そして一気に扉を開け放つと太陽の光が部屋に流れ込んできた。
『人間よ…ランドとソフィアをヨロシクな』
頭の中に声が響くと、パメラは振り向いた――がそこには、狼の姿は無くなっていた。
不思議に思いながらも、パメラは階段を上って行くと、遠くからソフィアの悲痛な叫びが聞こえてきた。
あそこにいた白い狼は何だったんだろう…ランドとソフィアを知っているみたいだったが…。




