第21話:雨降る夜に…(この題名は、本文と関係はありません!)
「アナタ…確か土木もんとか言う未来の犬型人造ロボットとか言う奴だったわよね?」
もう少しで、何かを思い出そうとしたのに急に出てきたオヤジに目を丸くした。「プリムのアネさんお久しぶりです!」
土木もんは、頭を下げた。ランプの光が頭を反射して眩しい。
「なんか、のび…安友の教科書とエロ本をすりかえてたんですけどね?その中の教科書の1部に今の歴史で、結構大変な事が書いてあったんで、報告に来た訳ですよ」
ハッハと笑いながらフンドシに手を突っ込む。「えっと…コレかな?違う違う、じゃあコレ?いや、コレは俺専用で…コレは違うし、アレも違う…」
ブツブツ言いながらフンドシの中をあさる土木もん。その異様な姿を、プリムやルナは無言で見つめていた。
「コレは、安友の名義で借りた借金の返済期限超過利子120%の封筒で…コレはこの前の負け馬券…あった!」
土木もんは、1冊の本を取り出してプリムの前に広げて見せた。
「教ー科書〜!」
本の名前だろうか、土木もんは叫ぶ。
「アネさん!この本のこの部分を見てくだせぇ!」と土木もんが指さす所をプリムは読み始めた。
「プリム王女死す。クルシスランドに再び悪夢が襲う…」
「そうです!アネさんが死んじゃうよって書いてあるんですよ」と土木もんは、教科書を真っ二つに破り捨てた。
「俺、のび…安友の教科書にこんな事が書いてあったんで、とりあえず安友をボコボコにしておきましたんで!」
「あっ…そうなの?」
冷や汗を垂らしながらプリムは答えた。
ソフィアにボコボコにされたり、土木もんにボコボコにされたり、■■■にボコボコにされたり、可哀想だと思う。
■■■?
プリムは頭を抱えた。そう言えば、過去に飛ばされた時、ソフィアの他に誰かが居たような気がする。■■■…名前が思い出せない。
「アネさんどうしたんです?」
土木もんは両肩を掴む。
「ねぇ土木もん…覚えてる?私とソフィアと後1人…誰かが居なかった?」
「何すか?もしかしてケンカ中ですか?もー熱い熱い」
茶化すロボット。
「ケンカ中?私が?誰と?」
視線を土木もんに向けた。
「奥さん!アナタの息子さんは、こんな可愛い女性とケンカなんかしちゃって羨ましいっすね!」
急に話の流れをルナに振る。
「えっ?息子?ソルとルルの事かい?」
「違いますよ奥さん。自慢の息子さんですよ?」
“自慢の息子”と聞いてルナは考え込んだ。確かに、自分は最近誰かを自慢の息子と呼んだ気がする。
「土木もんさん…その子の名前を教えてくれる?」
ルナは恐る恐るに土木もんに話しかけた。だが、等の本人(ロボット?)は、2人がふざけてるのだと思い込んだのだ。
「それを僕が言っちゃって良いんですか?参ったなぁ〜」と頭を掻いた。
「じゃあヒントを出しますね」
「ヒントは要らないから答えを出して!」
あまりにもグダグダの土木もんに対してプリムはイライラする。
「分かりましたよ〜…ランドの兄貴でしょ?」
「ランド?ランド…」
名前を何回か復唱し、頭の中を探るが何も浮かばない。
「さっきの化け物も、ランドと言ってたわね」
それは、ルナも同様だった。
「奥さんもプリムさんも、どうしちまったんですかい?まさか、ランドの兄貴を忘れちまったんですかい?」
心配そうに見守る土木もん。
「駄目…全然分からないわ。私の息子のランド…何も」
頭を抱えながらルナは近くにあった椅子に腰かける。そして、目の前にあった本を手にとる。
すると、本の間からシオリがヒラヒラと床に落ちていった。
「あらあら…シオリが落ちちゃったわ」
床に落ちたシオリを拾おうとした時だった。シオリは小さな紙に押し花が貼ってある。
その花を見た瞬間、ルナの脳裏に何かが浮かび上がってきた。
『この花は、大好きな人に贈る花。花言葉は…』
「永遠の家族…?」
頭の中に次々と映像が流れてきた。
森に倒れていた少年…人間離れした力を持っており、何も信用しなかったのだが、人間を信じられる事になり、そして国を守った。
ルナの目からは涙が溢れだして来た。死んだと思っていた息子が、帰ってきた。だが、その息子に対して化け物と呼んでしまった。
「ちょっと…ルナお母様どうしたんですか?」
床に蹲り泣いているルナにプリムは駆け寄った。
「私は何て酷い事を…」
ルナはシオリを拾いあげてプリムに見せる。プリムはそれを手に取りシオリを見つめた。
不思議な色の花…
昔、誰かにもらった気がした。
「クルシスの花…?」
知らない花だったが、何故か名前を知っている。何でだろう…
「花言葉は永遠の…」
突如、頭痛が激しくなってきた。
昔、誰かに貰った小さな花。とても大切にしていた花。その花言葉…
「家族…ランド…狼…」
プリムは思い出す。
夜、部屋で休んでいると誰かが窓から入ってきた。そして、この花を渡された。そして、花言葉を中途半端に教えてくれた。
「永遠の家族…クルシスの花の花言葉…大切な人に贈る大切な花…」
窓から入ってきた青年の顔にかかっていたモヤが段々と晴れてくる。
「ランド…そう!ランド!」
プリムは顔をガバッと上げた。やっと思い出せた大切な人。次々に記憶が蘇ってくる。
初めて出会った頃…
何だかんだ言いながら、いつも守ってくれていた…
真面目な話をしていても、いつも真面目に話を聞いてくれなかった…
ドコか抜けていて、でも頼もしくて…
「ランド…ランドが帰ってきた!」
不意に、お城がある方向を見た。
「全部思い出したわ!ルナお母様!私、ランドに会ってくる!」
「私も行くわ!」
プリムの叫びにルナは答えた。ランドに会って謝らなければ…そして、おかえりって言わなきゃね――とルナは頭の中に誓う。
ただ、今一つ状況を理解出来てない男がいた。
「どうしたんですかい?今、どんな話になってるんですかね?」
頭を掻きながら土木もんは聞いてきたのだが、プリムとルナは無視をして家から飛び出して行ってしまう。
「何なんだ一体…ん?コレは…」
半分に破れた教科書を拾い上げた。
「未来が変わって行く…」
教科書の文字がグニャグニャと曲がり別の文字に変化していく。
「…まぁ、大丈夫だろ。ランドの兄貴とプリムのアネさんがいるのならば」と破れた教科書をグチャグチャに丸めると近くにあったゴミ箱に放り込む。
「さて…と、未来に帰ってのび…安友の学校の先生でもボコボコにしに行くかな」
とフンドシの中から黒いフルヘルメットを取り出すと被り、“安友親衛隊”と背中に大きく書かれたハッピを羽織ると勝手に人の机の抽出を開け中に吸い込まれる様に消えていった。