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第19話:適当に付けていた名前なのに、たまたま共通点をみつけてしまいました。

ソフィアは目の前の扉を蹴る。扉はスゴい音を立てて開け放たれた。

「ただいまー!」

ソフィアは元気よく叫ぶと中から慌てた感じにルナが走ってきた。

「あらあら…ソフィアちゃんおかえりなさい。後ろにいる方は、お友達?」

ルナはソフィアの後ろに視線を投げた。

ソフィアの後ろには、顔面蒼白で息遣いも荒く死の世界を見たかの様なパメラが立っていた。

「ううん。友達とかじゃ無いけど…それよりもね!コッチを見てよ!」

とパメラの手から棺桶から伸びていた紐を奪い取るとルナの目の前に棺桶を叩き付けた。

棺桶はバラバラに分解される。

「ほら!お兄ちゃん!いつまでも寝てないの!」

粉ごなになった棺桶の砂埃の中から頭を擦りながらランドが姿を現した。

「絶対に最低な妹よね…」

パメラは呟くが誰も聞いていない様だ。

「痛てててて――母さんただいま」

感動の再会とは言わないが、ランドは今まで通りの挨拶をする。

だが、ルナの反応は今まで以上に違和感のあるものだった。

「あら…初めて会う方ね。ソフィアちゃんの彼氏?な訳無いか」

ソフィアは首を傾げた。それはランドも同じ感じに首を傾げる。

「俺だよランドだよ?」

「あら、ランド君って言うのね」

クスクスと笑いながら答える。

「?ランドのお母さんなんでしょ?」

今度はパメラが話を切り出した。

「私が、この子のお母さん?全く何を言ってんだい?私は、ソフィアちゃんとソルとルルの母であってランド君のお母さんじゃありませんよ」

何かがおかしかった。いや、何かでは無いがおかしな事には変わりは無い。

「ルナお母さん…お兄ちゃんを覚えて無いの?」

片時もランドを忘れた事が無い母にとって、質問自体無意味だと知っていたソフィアだったのだが…

「覚えて無いも何も、今日初めて会った人をどうしろと?」

ランドの中で稲妻が落ちたかの様な衝撃が走る。

「俺だよ?母さん…ランドだよ?」

とランドは思い出す為にも目の前で獣人化をするのだが、この行為が思いがけない方向へ行ってしまった。

「ひっ…化け物」

母の口から思いもよらぬ言葉が出た。

「ばけ――もの?」

ランドは母の言葉を繰り返した。

「ヒドイ!ランドのこの姿は、聖なる狼クルシス様の姿なのよ!」

パメラが叫んだ。

「聖なる狼…クルシス――確かウチの旦那を殺したのは、クルシスの魂を宿した人間だったハズ」

はっ!とランドは、ルナから発する殺気を感じとった。

まさかとは思っていたが、母からの殺気はドンドンと膨れ上がっていく。

「ルナお母様!どうしたの!?」

パタパタと2階から階段をかけ降りる音が聞こえた。そして、扉を開けた。

実に何年ぶりだろうか…最後の別れから何年経ったのだろうか…。

少女は大人の女になってランドの前に現れた。

何故か、母よりかは感動が大きかった。

「プリム久しぶり」

「あなた…誰?」

彼女の反応は母と同じものだった。この時、ランドは気付いてしまった。

“大事な物を奪う”とは、“命”では無く“記憶”。ルナやプリムからは、ランドに関する“記憶”を奪われていたのだ。

「コイツよ!コイツが、私の旦那を…」

ルナが泣き叫ぶ。

プリムは身を翻し笛を吹いた。甲高い笛の音が辺りに響き渡った。

「プリム!待ってくれ!俺は怪しい者じゃ無い!」

しかし、その叫びは空振りに終わった。それもその筈、ランドは今は狼の姿をしているのだから。笛の音を聞き入れてか、遠くの方から嫌な気配が近づいてくるのを感じた。

いつも遠くから感じていたあの気配・・・。

「プリム様から離れろ!!」

青い鎧の騎士と赤い鎧の騎士が扉を蹴り破り入ってきた。

「シュルツ!キングス!賊を伐て!」

ソフィアは目を疑った。BARに現れて、プリムや子供達を殺そうとしていた人間が、今目の前に現れている。しかも、王国の騎士の格好をしている。

「プリム様!危ないですから下がっていてください!」

キングスはプリムに言うとコチラを見てニヤリと笑った。

「お前ら!プリムや母さん達に何をしたんだ!」

ウルフが叫ぶ。

「さぁね…教える必要も無いでしょう」

耳元で声が聞こえた。

さっきまでキングスの隣にいたシュルツが、ウルフが立つ隣に移動していた。

「なっ――」

ウルフはスグに隣に視線を向けた。すると、こめかみ辺りに気配を感じる。

キングスは、ウルフの頭を片手で掴むと思いっきり床に叩き付けた。

「よくもお兄ちゃんを!」

ソフィアは地面を蹴りキングスに襲いかかろうとしようとしたのだが、ガクッと体の動きを止められる。

シュルツはいつの間にかソフィアの背後に立っていると、ソフィアの両手を掴んでいた。

「えっ嘘!見えな――」

背後に視線を向けた瞬間に、シュルツは手を離すと拳をソフィアの腹に突き立てた。ケホッと息を小さく吐くと、ソフィアはその場に倒れた。

「ちょっと!ソフィアに手を出さないでよね!」

プリムが叫んだ。

「プリム様――あの女は、この国を脅かす存在のスパイです。ここで始末をしておかなければなりません」

キングスは、ウルフの頭を離すとプリムに手を向ける。キングスの掌から、小さな炎が生まれた。

「ソフィアはスパイ?」

プリムが呟く。

「そうですスパイです」

キングスは繰り返す。やがて、掌の炎はどんどん大きくなり消えていった。

「ソフィアがスパイだったなんて!そこの狼人間とソフィアを牢へブチ込んでおきなさい!」

プリムがいい放つ。

「ちょっと待てよ」

ウルフはヨロヨロと立ち上がった。

「てめぇ――その炎の力どこで手に入れた!」

「教える訳無いでしょう?」

シュルツの声が聞こえたと思ったら、蹴りが頭を撃ち抜いた。ウルフはなす術もなく吹き飛ばされた。

「この速さ…この力…まさかお前ら…」

ゲホゲホと咳込む。

「キングス兄さん。遂に気づいちゃったらしいよ僕たちの正体をさ」

「やっと気づいたんだなランド兄さん」

「お前らの力と速さ…そして、お前らの名前…この国を狙う理由と、俺を狙う理由…全て一致した」

「だけど、もう遅いんじゃないの?」

ウルフの視線の中にシュルツが現れた。

「お前ら――いや、お前は絶対に俺が倒す!」

ウルフが叫んだと同時に目の前が暗くなっていった。暗い意識の中でランドは決意した。

「俺が取り戻す!全てを!必ずな!」


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