第2章10話:決してカエルとネズミは食糧では無いと思いたい年頃
───第2章───
「あーあ…全く、今日は良い天気なのにやることが無いなんてな」
ランドは寝転がり空を見上げた。
雲1つ無い良い天気。いつもと変わらない様な気がするが、違うと言うのは今は船の上にいると言う事だった。
ランドが船に乗り、急遽クルシスランドに帰る事になったのは、つい昨日の事だった。
翼の生えたおかしな人間2人が現れ、自分の大切な物を奪うと宣告してきた。
ランドは直ぐにでも2人を追いかけ、大切な物を守りたかったがランドの居た場所とクルシスランドは全くの正反対の場所にあると言われ、陸路を諦め海路を進む事になった。
いつ着くのかも分からないので、食糧も沢山貰い受けた。
理事長には、事が済んだらまた戻ると約束をした。命を助けられ、理事長に言われるがまま臨時講師を請け負った。
話のタネも無くなって来た事だし、戻ったら旅の話をしよう。
それにしても、あの2人組は一体何なんだろう──。俺の事を知っていると言っていたが──。
俺は奴らを見たことも聞いたことも無い…。
今まで会った空を飛ぶ奴らと言ったら、昆虫兄弟しか思いつかない。
しかし、奴らの羽は昆虫の羽では無かった。ゴツゴツしたようないかつい羽だったが。
ランドは考えるのを辞めた。いくら考えても、答えが見つからないからだ。
それより今は、天気の良いこの日に何をするかを考えなければいけない。
それにはまず、この船に乗っている人物を呼び出さなければ───
「パメラ!出てこいよ」
ランドの乗っている船は小さく、船首から小さい声を出しても船尾に聞こえる。
ランドの声に反応してか、食糧を積んでいる箱がカタッと音を立てて揺れた。
「いつから気づいてたの?」
箱の後ろの方から声が聞こえてきた。
「最初から。敢えて婆さんには何も言わなかったけどな」
「バレない様に昨日の夜から乗り込んだだけどな──」
箱の後ろから、パメラがすっと出てきた。
「やっぱり、気配を隠しきれて無かったのかな」
「それもあるし、決定的な事はパメラの匂いが箱の裏からプンプンしたって事かな」
"匂い"と言う言葉にパメラは反応して、自分の匂いをかいだ。
「私、そんなに臭かった?」
「ん──いや、別に臭いとかじゃ無いんだけど、パメラ個人の匂いがしたんだよ。──ほら俺、特別に鼻が良いからさ」
と自分の鼻を指さした。
その言葉を聞きパメラは納得したようだ。
ランドの魂は、狼の魂。
人間の姿でも、素早い動きが出来るのだから犬並──いや狼並の嗅覚を持っていてもおかしくは無い。
「良かった──本当に臭いのかと思ったじゃん」
安堵の息を漏らすのが聞こえた。
「大丈夫だよ。本当に臭かったら、臭いって言うから」
ランドのデリカシーの欠片も無い言葉にパメラはため息をついた。
「どうした?必至に隠れてたから疲れたのか?」
「んーん違う。プリム様可哀想だなって思って──。ランドって、いつもそんな感じにプリム様と話してるの?」
「うん。何で?」
「自分で気づかないならそれで良いと思うんだけど──はぁ〜可哀想すぎるプリム様」
パメラの言うことが理解出来ない様子のランド。
パメラは思った。何でプリム様はランドを選んだのだろうか。
外見はなかなか良いのだが、中身はデリカシーの無い男。それでも、戦えば強いけど魔物を食べたりする残虐性もある。
「もしかして、プリム様の前でも魔物を食べたりとかしてたの?」
唐突も無い質問。
「ああ。むしろ、プリムにも食わせた事があるな」
ランドは笑って答えた。
その言葉を聞き、再度ため息をつく。
「1国の王女様に魔物を食べさせるなんて──つくづくランドってスゴい男ね」
「そうか?誉めても何も出ないぞ」
パメラは3度目のため息をついた。
「誉めて無いのに…」
皮肉で言った言葉を、素直に受け止めるランド。底知れない力を感じるパメラだった。
「とにかく、島が見えたらパメラは引き返せ。あの2人から、パメラを守る自信も無いし、倒せる自信も無いからな」
倒せる自信が無い──それは正直な気持ちだった。
翼人間は、ランドの攻撃を軽々と避けてしまった。そんな奴を2人も相手にするのは正直辛い。
それも、プリムを守る役目もあるのにパメラまで守るとなれば勝ち目は0に等しかった。
「大丈夫よ!ほら、それにランドが怪我した時に私が居れば心強いでしょ?」
「それなら、俺自身が治せば問題無い」
「ランドの意識が無くなった時とか自分自信で傷を癒せなくなった時に私がパッと治せるじゃん」
「それも大丈夫。俺の妹も同じ能力を持ってるから問題は無いからさ」
パメラは次なる言い訳を考えた。
今さら──と言っても、出発したばかりなのだが──帰れと言われ、
「はいそうですか」と帰れる訳は無かった。
家族に内緒でランドについて行き、何も無いまま帰れば何故学校をサボったのかと怒られるのは目に見えていた。
そうなるのなら、いっその事、旅の最終地点までついていき何か成果を上げれば帰っても怒られる心配は無くなる。
パメラはそう思っていた。
「お願いランド!決して邪魔はしないし、自分の身は自分で守るから、だからずっとついて行かせて!」
結局は、堤の良い言い訳も思いつかずランドに頼み込む。
「本当に自分の身は自分で守れるか?」
「守る!迷惑もかけません!だからお願い!」
ここまで言われれば、無理に追い返す理由も無くなるランドは渋々首を縦に振るしか無かった。
そんなこんなで、クルシスランドに行くには途中から陸路を歩かなければならない。
今、ランド達が歩いているのはサバラ砂漠と言う世界で1番大きいと言われる砂漠だった。
3日前ほどに、陸が見え上陸し2日ほど街を探して歩き続けていた。
「あ゛あ゛暑い!喉が渇いた」
サバラ砂漠は、世界で1番大きな砂漠と言うが灼熱地獄という異名を持っていた。
気温は、昼は最高で84℃くらいまで達し夜になると更に気温は上がるのだ。
「暑いー!喉渇いたー!お風呂に入りたい!お腹空いたー!」
パメラは初日から歩く体力を無くし、ランドがどこかから拾ってきた板の上に乗せられ縄で引っ張られながら進んでいた。
「元々、食糧は1人分ので1週間分はあったのにパメラのお陰で2日しか持たなかったんだよな」
ランドは呟いた。
「どっかの誰かが無計画に食べ尽したのが問題だと思うんだけど」
「腹減ったなら、砂漠ネズミとかサソリとかカエルとかを食べれば問題無いだろ?」
砂漠には何も無いと言うが、良く見てみればカエルやらネズミやらが沢山いる。
ランドは、見つけては捕まえて食べるのだが、パメラは食べなかった。
いくら飢餓になっていても、ネズミやカエルを生きたまま口にするのは自身が許せなかった。
だからと言って、ランドにそう伝えたらわざわざ殺してから渡されるカエル。
そう言う意味で言ったのでは無いが、ランドは親切にも皮を剥いだり何やらをしてくれるが食べる事は出来なかった。
「もしこのまま街が無かったら、私だけ飢餓で死ぬかも」
パメラは呟く。
「そうなったら無理にでもパメラの口にネズミを突っ込むから心配しなくて良いぞ」
これは親切なのだろうか、それとも嫌がらせなのだろうか──ランドの前で気を失うは良そうと決意をするのだが、その決意も虚しく次の日には熱さと空腹と喉の渇きでパメラは気を失った。
次にパメラが目を覚ましたのは、ちょっと固いベッドの上だった。
辺りは暗く、隣の家の明かりが窓から入ってきていた。
パメラは上半身だけ起き上がらせた。あれだけ空腹だったのに、何故か満腹感で胃が満たされている。
きっと、この宿のご飯を無理矢理突っ込んでくれたに違いない!
決して私はネズミやカエルなんて食べて無い!そう思う事にした。
辺りを見渡すと、ソファーで寝ているランドを発見した。手に何かを持っている。
何かと思い近づいてみると、下半身しか無いネズミを持ったまま寝ていた。
きっとこれは、ランドが食べ途中のご飯だ!そう無理にでも思う。
むしろ、そうであって欲しい。
ランドの顔に落書きをしたかったが、今日の事は全てを忘れるかの様に睡魔に身を任せた。