鳩好きな人
「昔から、鳩を見ると首根っこを掴みたくなるんだよね」
後ろから抱いている彼女の頭に、ぽすりと顎を載せた。
彼女は何も答えない。
「そのまま骨折ってもいいけど、バタバタ暴れんのを押さえ付けるのも楽しいと思うんだ」
彼女は少し身じろぎした。
「あ、別に鳩は嫌いじゃないよ。むしろ好きな部類……前にゆったっけ?」
彼女が動いたから、首の位置がちょっと遠くなってキツい。
「子供とかさ、蟻潰すの好きじゃん。あと、雪が積もると足跡つけまくったり。それと一緒」
今度は彼女の首もとに顔を埋めた。
「あと、好きな娘ができると、一生残るような傷とかつけたくなるね」
彼女が体を固くした。もともと小さく体育座りをしていたのを、もっとちぢこませる。
「だーいじょうぶ、体には残さないよ。心にトラウマを植え付ける系? っていうの?」
肌の表面を滑らせるように甘噛みする。
外で誰かが騒いでいる。うっせぇなぁ。せっかく彼女とイチャイチャしてんのに。
苛立ちまぎれにため息を吐くと、彼女の震えが大きくなった。
「ガタガタ震えちゃって……やっぱかぁーいいね、お前は」
彼女は何も答えない。
別にたいしたことはしていない。
ちょーっと縛って閉じ込めて罵倒しながら殴ってブチ犯しただけだ。
でもそろそろ潮時だな。
「はぁ……よっこいせ」
彼女を残して立ち上がる。見下ろした彼女の素肌には、あざ、キスマーク、噛み跡エトセトラ。
俺が着ていたTシャツをてきとうに被せてやった。
頭から灯油を被る。
一応彼女とは距離をとってるけど、どんくらい燃えるんだろ、これ。
「なぁ、お前のことはホントに好きだったんだぜ?」
どうか、彼女が俺のことを一生憎み、そして怖れ続けますように。
警察官たちが部屋に雪崩れ込むと同時に、俺はライターを付けた。