1話 目覚め
ブックマーク有難うございます。
とても嬉しいです。
引き続き楽しんでいただければ幸いです。
意識が朦朧とする。
どうしたんだろう、意識があるって事は、生きてるって事なんだと思う。
なぜだか、目があまり開かない。
しかし、あの爆撃はなんだったんだろう、
そんな治安の悪い所ではなかったはずなんだが。
とにかく身体の確認をする。
やけに身体が重く感じる。
手足は多少重みを感じるが、動くといえば動く。
でもどうだろう、寝返りがうてない。どうも身体が重すぎる。
(主様、主様)
なんだろうか、微かに響くような声。
(目は覚めましたか、主様)
とても重たく感じる、体と首を必死に動かし辺りを窺う。
その時、ふと違和感に気付いた。
裸眼で困らない程度の視力だったはずなのに、あたりの景色が鮮明に見えない、周りの景色が物凄くぼんやりとしか見えない。
どうしてしまったのだろうか、すごく視界が悪く不安感になる。
たまにある、寝起きの際に視界に靄が掛かる現象と似ている。
目を凝らす、必死に凝らす。
脳が、ただ一点、その部分しか認識しないと言うほどの意識の全てを眼球に集めた。
少しばかり時間がたった辺りから、少しずつだが視界が晴れてきた。
ただ、疲労感が体中を支配して、指一つ動かす気になれない。
(あまり無理をしないほうが良いですよ。今のお体で無理に力を使った場合、どのような悪影響があるか分かりませんので)
そうであった、先程、何かに声を掛けられていたのだった。
再度、重い頭をぐいっと、声を掛けられたような、うっすらと気配を感じる方へ動かす。
うぉっ、赤子が居る。
じろじろ赤子を眺めながらも、視線を下へとずらしていく。
ふと視界に自分の体が入る。
なんだこれは! 手足が異様にに短い! むちむちしている!
(主様は死んだのです)
俺は死んでしまったらしい。
夢としては、ままある展開かな。
点数でいうと30点ほどだろうか。
(主様は、今、赤ちゃんですね。生まれ変わった言えば良いのでしょう)
ほう、今回はそういう趣向なのだろうか。
夢って自分の無意識の願望がそうさせるって話だけけれど、俺ってそんな願望あっただろうか。
(あっ、主様を産んだ人が来ましたね。出来ないと思いますが……生後間もない赤ちゃんなんで、無理に話そうとしない方が良いですよ。不自然なんで)
確かに、この声の主の言うとおりだろう。
ここはしばらく様子を……見なくてもいいや。
「あ、あぁあー」
上手く声が出ない。
詰まったような、喉を締め付けられているような気持ち悪い感覚だ。
(止めてくださいって言ったのに……普通の赤ちゃんが話す程度で済んだから良いですけど、それ以上は止めたほうが良いと思います。想像してください、不思議な言葉を話す赤ちゃんって、それはもう怖がられちゃいますよ。気持ち悪くて、気持ち悪くて、私ならぽいですね)
ぽいはしないで欲しい。
いらない子って思わないでほしい。
(っと、通訳は私がしますので安心してください)
通訳? 何の話だろう。
ここは日本ではないのだろうか。
「あら。セリニス起きたのね」
おぉ、凄い。不思議な感覚であるのだが、知らない国の言語がうっすらと聞こえる中、同時に理解の出来る言語、日本語で話しかけてきているように聞こえてくるのだ。
仕組みは分からないが、ほぼタイムラグなしで意味が分かる。
「おはよう。セリニス」
容姿端麗という言葉がぴったり。
美しく、艷やかなといえば良いのだろうか、
語彙が足らないゆえ、うまく表現ができないのが悔しい。
整っている顔のパーツからは、優しい雰囲気を感じる。
体型は……見たまま表現すると、おっぱい大きいし、お尻の形も良い、出るところは出ていて、引っ込むところは引っ込んでいる、
なかなかお目にかかれないであろう、美人な女性がそこに立っていた。
「そろそろ、ミルクの時間かしら」
ミルクの時間とはそれはつまり――
……はっ! 俺の脳の1%にも満たないであろう、煩悩を司る灰色の脳細胞を全力で活動させるのだ。
ミルク、母親、そして俺は赤子、このキーワードから導き出される答えは……答えはいつもh。
そう。授乳である。
赤子の食事といえばおっぱ――いや母乳である――。
合法的に、人妻の乳を授かることが出来る。
これは天の思し召しだである。神はここに居た。
気づけば、服を開けさせ、準備が整った女性が居た。
あっ、でも、そういうプレイはやった事はないので。
いえ、興味はあるのですが、急に「はい、どうぞ」って与えられるとと戸惑うと言うか、なんというか、こちら側にも心の準備があると思うので。
あ、いや、こちらとしても望んでいないことではないんですよ?
そりゃ、あげるっていわれたら欲しいですし、物によってはこちらとしても、両の手を床につけて頭を低く、それはもう俺が地層になってもいいほど頭を下げさせていただきますよ。
俺地層が完成して、土に帰り、永遠に帰れないとしても厭わないというものですよ。
「あら? お腹は空いてないのかしら」
ここは冷静に事を進めよう。そう、俺は冷静な男、滅多なことでは心を乱さない男。
……オレ、ミルク、ノム。オッパイスウ。
手を伸ばして、欲しい気持ちをアピールする。
少し分析してみよう。
まず、実際に口にしてみると、想像と現実は違う。
正直な所、美味しいのかと言われると、なんとも言えない。
食事をするという意味であれば、どうしても肉が食べたいとと考えてしまう。
せっかくなので、思い出は俺の心の宝箱にしまっておこう。
それはもう大切に。
ま、空腹でいるのは問題ではある。
栄養を取らないと死んでしまうのは間違いない。
なので、ありがたく頂戴させていただきましょう。
しばらくして、お腹は満たされたので、お腹いっぱいアピールをする。
俺の気持ちを理解してくれた母親は、もうひとりの赤子を抱いた。
次は、もう一人の赤子へミルクをあげるようだ。
しかしだ。
どうしたものか、この状況。
生まれ変わったと言われても、全然実感が沸かない。
(主様)
おっとそうであった。
先程から聞こえる、謎の声の主を探さないといけない。
(とても、美味しそうに飲んでましたね。一見「普段行われているいつもの日常。この程度、俺の心をかき乱すほどの事態ではない」といった感じで、興味が無い様子よう見えましたが、口をつけた辺りからまんざらでもなく。主様の、むしゃぶりつきっぷりったら、なかなかのものでしたね。さぞ、そういう行為がお好きだったのでしょう。生前もよほど変態だったのでしょう、ね! )
ね! って。
ひどい言われようだ。あんまりだ。
表面上、必死に冷静さを振る舞おうとしながらも、内心、歓喜に打ち震えていたのは否定出来ないことで事実ではあるのだけれど、先程までの出来事を、客観的に、冷静に、解説されるように伝えられると、とてつもなく恥ずかしい。
あんなにはしゃいでしまった事が、後悔のあまり涙が出てきそうだ。
今後、何度か思い起こすだろう。
そのたびに発狂してしまうに違いない。
(それは、ともかく)
そうだ。ともかくさておき置いておこう。
もう忘れてしまおう。
無理だろうけど。
(こっち、こっちです。主様)
こかから聞こえる、何者かの声を確認するため、再度、辺りを見渡す。
この部屋には、もう一人の赤子と一人の女性いる事は分かっている。
おそらくではあるが、この人達が兄弟と母親なのはうっすら理解している。
視野を広く、部屋全体を確認すると、部屋の隅に何か居るのが分かった、
その何かが居る方、部屋の隅へ視線をやると、椅子の上、そこに一匹の猫がいたのだ。
猫と表現するのも違う気がする。
見た目は猫なんだが、首のあたりにとても立派なたてがみを纏っている。
ふわふわで、さわったら、さぞ気持ちが良いのだろう。
尻尾は2本。
猫と表現するのが躊躇われる一番の理由、猫としてあってはならないもの、翼が生えているのだ。
(久しぶりですね、主様)
久しぶり? こんな不思議生物に会ったことなんて一度もない。
(私は今、ケット・シーと呼ばれる存在になってます。猫型の妖精と思ってもらえば良いでしょう)
ケット・シー。
神話やゲームに登場する存在だと記憶している。
この不思議な生物は、猫型の上級妖精。
猫型ね。ダメダメな俺のために、はるばる時空を超えてやって来てくれたのだろうか。
だとしたら、もっと分かりやすく、机の引き出しからバーンと出てくるべきだ。
(前世にて、いろいろと面倒を見てもらってました。紛争が起こった時には、命を掛けて助けてもらいました。ま、その直後、死んでしまったんですけどね。主様が張った命は全くの無駄でしたね! どんまい!)
その猫型の不思議生物は、死んだ事を気にする様子もなく、あっけらかんと話している。
俺は当時の記憶を探ってみた。
たしかに居たな、面倒を見ていた猫。
こんな不思議生物では無かったけど。
しかしこの生物、しばしば辛辣だ。
張った命が無駄って。しかも、励まされた。
今の気持ちをどう表現すればいいのだろうか。
あのたてがみを毟りたい。
(しかし、会話が出来ないのは不便ですね。そうですね、この世界で使える特別な力について説明するとしましょう)
その不思議生物は、片腕を頬に当てて、うーんと考えているようだった。
器用に直立している。
猫って、骨格的にあのようなポーズが出来るのだろうか。
(こちらの世界では、魔力と呼ばれる特別なエネルギーがあり、ある程度であれば体内に溜まっています。さらに、その魔力と呼ばれるエネルギーは、そこら中に漂っているので、主様であれば不自由なく扱える事ができると思います。まず、その魔力を使って私と念話を出来るようになりましょう)
魔力。念話。何を言っているんだこの化物。
魔力は、ゲームとか、ファンタジーな物語でよく扱われている都合の良い物質だとは知っている。
そういった特別な力には憧れていたが、いざ使えるとなると、小物である俺は受け入れることは出来ない。怖い。ビビっちまう。
すでに状況を飲み込めないがゆえ、緊張のあまり心臓がばくばくと音を立てて波打っている。
(主様、まずは深呼吸しましょう。リラックスして、心を落ち着かせてください)
まず、言われる通りに心を落ち着かせるために深く息を吸って、ゆっくりと吐いてみた。
多少は落ち着いた気がする。
(そして、肌に感じる、何かしらの違和感のようなものを感じ取ってください)
(色々と理由があるのですが、人によって感じ方は違うらしいので、個人の感覚に頼るしかなく、具体的には言えませんが、からだの周りに纏わりつくような、押し付けられるような、不思議な感覚がそれに近いです。風や熱とはまた違った感覚が魔力と思って良いです)
(まずそれを、体内に引っ張るイメージで試してみてください)
集中、集中。
意識を肌に集中する。
肌を撫でるかすかな風。
気持ち良く、暖かな、ほどよい気温。
魔力は、これらとは違う感触だという。
意識を集中させて、肌にふれる感覚を確かめていたら、ふと、肌に触れる、纏わりつくような違和感を感じた。
ぶよぶよとしているような、ねとっとしたような感覚。
水中に居ないのに、水中に漂っているような感覚。
水と表現するのは違うような、スライム状の何かと言うべきなのか、
重さは感じないのだが、膜に包まれている感じだ。
これを体内に引っ張るイメージだったろうか。
どうするんだ。全くわからないぞ。
しばらく試していると、意識して呼吸をした時、空気を吸い込むと同時に、魔力の流れが変わり、張り付く感覚がした。
(お、良いですね。その調子です)
この感覚なんだろう。
さらに、呼吸、肌で感じる違和感を感じろうと、強く意識を集中した。
(流石ですね、とても良いセンスを持っているようですね。この状態になるまで時間がかかると思ったのですが杞憂でしたね)
(魔力が物凄い勢いで集まってきます。圧縮率もなかなかのものです)
その不思議生物は、満足そうにうんうんと頷いている。
その様子がちらっと視界に入ったあたりで、頭がくらっと揺れた。
(あっ、それ以上は止めてください。今の身体だと、魔力に負けてしまう可能性もありますから)
言われた通り止めたいのだがどうすれば良いのだろう。
(魔力の流入を止めるには、魔力を引っ張ろうと集中している意識を止めれば、おのずと魔力の流入もとまりますよ)
止まった、と思う。感じていた気持ち悪さが無くなったし。
直後、温かい風のような、水のような、太陽の下にいるときのような感覚のような。
心地よい。力が満ちているって、こういう事を言うのだろうか。
(本当に、良いセンスですね)
俺は今、かの伝説の特殊諜報工作員に褒められた、特殊部隊隊長の気分だ。
魔力の気持ちが分かる気がするぜ。
(基本的には、現状の、魔力が体内で活性している状態を維持したまま、魔力の操作をするんです)
(念話は、対象物を特別意識しながら、伝えたい事を脳内で考えると同時に、魔力を飛ばすイメージです)
(百聞は、一見にしかずです。一度やってみましょう。私と主人は魂の波長がとても似ているので、そこまで難しくなく念話が出来ると思いますよ)
絶対難しいだろ。
とにかく、不思議生物に意識を向け、試すしかないのだろう。
脳内で話しかけることを意識しつつも、魔力を飛ばそうと必死に、いろいろと試してみる。
とても虚しい気持ちになりながらも、ひたすら試してみる。
(チェックワンツー。ハッ、ハッ。ヘッ。フヒッ)
(聞こえました、主様! やっとお話ができますね!)
yeah. 俺の魂の叫びが通じたようだぜ。
(いやーほんと凄いですね。念話は使う魔力が少ないので、そこまで難しくはないのですが。この短時間で出来てしまうなんて)
(お話が出来るようになって嬉しいのですが、やってしまいました。お母様が主様をこちらを見ていますね。愕然状態ですね。文字どおりあごが外れてしまいそうなほど!)
いいえ。愕然の「がく」は「あご」ではありません。
胸を張り、してやったりな表情でこちらを見ているが、全く決まってないからね。
目線をさきほどの女性が方へ向けた。
その女性は、驚いたあまり目を見開いて、口をあんぐりと開け、こちらを見つめている。
確かに愕然とはしているね。
「あなた! こっち来て! セリニスに魔力が! 魔力が集まっているわ!」
(お母様がいる事忘れてましたね。わたしとあろう者が、油断していたようです)
(この歳で魔力を操れる事は、この世界の常識に照らし合わせるとありえませんからね。いやあ大変な事になりそうですねえ。面倒な事にならなければ良いのですが!)
どうやら、このケットさんはおっちょこちょいらしい。
そしてどこか他人事のように話しているところから見ても、大変だと思っていないだろう。
この不思議生物、難有りである。




