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17話 はじめての街

街に着いた頃には、既に夕暮れ前だった。

特に問題なく街に着くことが出来て良かった。


街の名前は、レイモスというらしい。


やる事としては……冒険者ギルドに行って街からの手紙を渡して、肉屋のおっちゃんの注文書を渡すんだっけか。

その前に宿を探した方が良さそうだ。

すぐ用事が済むか分からないし。


あ、しまった肉屋のおっちゃんの注文書、誰に渡せば良いんだろうか。


「ねぇ、この注文書、どこに持っていけば良いのかな?」

「え!? 分からないよ……」


ティアが知っているわけ無いか。

どうしたものか。

いきなり躓いてしまったぞ。


「宿も探したいしな。まず冒険者ギルド行っていろいろ聞けば良いんじゃないか?」

「おぉ」


ヘリオス兄に言われてはっとした。

そうだ、その通りだ。


「さすが兄さんだよ! それでいこう!」


兄さんは照れているのか、足早に先へと進みだした。


「兄さん。冒険者ギルドの場所分かるの?」

「分からない」

「そうだよね、門番の人に聞こうか」


そうして俺達は、冒険者ギルドの場所が分かった。

冒険者ギルドは中央区にあるらしい。

そういった主要施設は中央区に集まっているとの事だ。

この街の地図も欲しいけど、売ってたりするのだろうか。



そうして俺達は冒険者ギルドにやって来た。


恐る恐るドアを開ける。


そこには屈強な冒険者達がおり、一瞬こちらを一瞥したようだが、大して興味も無さそうに、各々、自分の用事を済ませているようだった。


俺はカウンターにいる、受付嬢らしき人達を見つけ、その中でも物腰が優しそうな雰囲気を持つ、お姉さんに声を掛ける。


「あの、すいません」

「あら。かわいらしい冒険者さんたちね」

「えっと、僕達おつかいでここに来て、この手紙を渡すように頼まれたのですが」


そう言って、依頼の手紙を受付嬢に渡した。


「エストルスの村からの嘆願書ね、ギルド長に確認するから少し待っていて」


へぇ、俺の住んでる街ってエストルスって言うんだ。

住所とか気にしてなかったから、今まで知らなかった。

住所とかあるか知らないけれど。


「おまたせ。こっちよ。着いてきて」


言われたとおり、お姉さんの後を追うと、一つの部屋に通された。

6人ほど座れる椅子と、大きめの机がある部屋だ。


「エストルスって結構遠いわよね、大変だったんじゃない? お菓子でも食べてて待っててちょうだい」


そう言われて、温かい紅茶のようなものと、焼き菓子をそれぞれ用意してもらった。

疲れていた身体に丁度良い。

二人とも、とても嬉しそうだ。


しばらく経った頃だろうか、ドアをノックする音と共に、爽やかなイケメンの耳鳴がお兄さんが現れた。

きっと、種族で言えばエルフだと思う。


「待たせたね。私がギルド長のバルトロメだよ。わざわざ遠いところから有難う。これが返事の手紙だ」


俺は、渡された手紙を受け取る。


「君たちは小さいののにとても優秀だね。是非、冒険者ギルドに登録してほしいものだよ」


褒められた。

しかし、優秀? そうなのだろうか。

この世界ではこのくらいのお使いは普通らしいけど。


「子供でも登録出来るんですか?」

「出来るよ。年齢制限はないからね。仕事さえ出来れば大歓迎だよ」

「登録、したほうが良いいのかな」


兄さんとティアの方を見たら、二人とも、どこかポカーンとしており、何がなんだかといった様子だった。


「良いことは。そうだね、一番はお金が稼げることかな。冒険者を生業にしている人は多いよ。立派な職業と言っても過言ではないね」

「おかげでこの国の経済も回っているからね」

「あとはランクが高いと、国からの依頼を貰えるようになったりして、国直属の騎士として雇ってもらえる事もあるかな。そうなったら、よほどのことがない限り、定期的に仕事がもらえるし、保証もあるから年を取っても、多くを望まなければ普通に暮らせるよ」


国から雇って貰う形になるのか。

そうなったら、冒険者よりかは安定するだろうしな。

その事も視野に入れておくべきなんだろうか。


「ランクが高いと信用が上がって、特別なサービスが受けやすくなるね。

例えば、ランクが高くないと入れない施設があるんだ。

高級志向の宿屋、食事処。あとは図書施設と言った所かな」


高級志向の施設か。

利用できるようになれば、暮らしも快適になりそうだ。

図書施設、これは是非活用したい。

情報が増えるって、損することは無いだろうし。


「なるほど。便利そうですね」


二人を確認した。まだ、表情は変わらず、話について来れないようだった。

世間の事はまだまだ分からないことだらけだろう。

二人には、早く一人前になって欲しい。

経験を積ませて、育てていこう。


「登録したら困る事……そうだ、強制される事ってあったりします?」


バルトロメは少し目を見開き、驚いたような顔をしたように見えた。

表情はにこやかしようと努めているように見えたが、それは仕事だからだろう。

こちらが子供だからといって、馬鹿にするようには見えず、隙きを見せないようにしているようだ。


誇れるほどではないが、俺は、多少であるが人生経験を積んでいる。

いや生前だから「積んでいたか」か。

騙されることだけは無いよう、気を付けなければ。


「ギルドからの依頼がある程度かな。

と言っても絶対強制ではないから、理由があれば断れるよ。

強制してしまって、この街の人材が減るほうが困るからね」

「冒険者っていうのは自由気質な人が多いから、無理強いしてしまうと、すぐ他の街に行ってしまうんだ」


確かにな、命の危険もあるだろうし、そうなるのは必然だろう。


「そうだね、他に登録する理由といったら……」


バルトロメは少し考えるように視線を上にそらしている。


「登録しないと、冒険者ギルドから依頼が受けれ無いて事くらいだろうか」

「なるほど」

「登録はいつでも出来るから、気が向いた時に来ると良いよ」


話が終わったのか、バルトロメは紅茶を啜った。


「あ、そうだ。僕等の街の肉屋の店主から、注文書を渡すよう頼まれているんですが、どこに持って行けばいいですか」

「きっと調理ギルドだね」

「わかりました。それと、僕達、宿を探してるんですけど良い所ってあります?」

「それならあそこが良い。リゼットに案内させよう」


ギルド長は机に合った、きれいに輝いている小さな鈴を鳴らした。

ちりんと響く音がなった後、先程の受付嬢のお姉さんがやって来た。


「どうされましたか?」

「この子達を、羊の歌声亭まで連れて行ってほしいんだ。

今日はそのまま帰っていいよ」

「そうですか、分かりました」

「宿泊費は、手紙を配達した依頼料って事で処理しておくれ」

「畏まりました」


お姉さんは綺麗な姿勢のままお辞儀をしていた。

訓練されているような物腰だ。

しかも、どこか逞しさを感じる。


「じゃあ、私はここで失礼するね。また来てくれる事を信じているよ」


ギルド長は椅子から立ち上がると、俺達に笑顔で軽く頷き、部屋を後にした。


バルトロメから、好ましい印象を受ける。

立ち振舞が良いからだろう。上手いと表現するのが正しいのだろうか。

でも、上品さって訓練しないと出来ないようにならないだろうし、純粋に尊敬する。


しかも、部下を気遣える素晴らしい上司だ。

見る限り、清々しいほどホワイトだ、実に羨ましい。


「あなた達、行くわよ」


そうして俺達は、リゼットに案内され宿屋に向かう事になった。



リゼットは、饒舌では無さそうだ。

ただ、無言で歩く時間が多く、その空気に耐えることが出来ず、なるべく話そうと努力するものの、手応えは感じない。


何かした情報を得られると良いのだけれど。

何を聞こうか。

こっちは子供だ。多少あざとくても問題ないだろう。


「ギルド長はいい人そうですね」

「そうね、基本的にはね」


含みのある言葉だ。

何か思う所でもあるのだろうか。


「良い人よ。職員の事を考えてくれるしね」


出来た人なんだろう。

人当たりはとても良かった。


「あなた達、街に来るのは初めてかしら?」

「はい」

「だったら、精霊の加護は受けてないのよね」

「加護ですか? 受けてませんよ。初めて聞きました」


ちらっとケット・シーをみる。

何の事だか、よく分からないといった表情だ。


「冒険者になるんだったら受けといた方が良いわ。

向いてる職業も分かるし、能力も上がって出来ることも増える。

時間があったら神殿に行って、儀式を受けなさい」


それは便利そうだ。

受けておいて損はないだろうし、時間を見つけて受けておくべきだろう。


「神殿ですか。どこにあるんですかね」

「あの丘の上ね」


リゼットは、腕を上げて、真っ直ぐではなく、少しばかり上空へ向けて指を差した。

その指は、街から少し外れた所にある丘の上を指していた。

その丘の上には、神聖さを主張した「ここは神殿です」とあからさまな建物があった。

絶対あそこだ。まごうことなき神殿だ。


「詳しいことは、神殿に行った時に直接聞きなさい」

「分かりました」


そのごは他愛のない話をしながら、しばらく歩いた。


目的の場所に着いたらしい。

羊が、前足、後ろ足を、ばっと広げた。なんともポップな看板が軒先に掛けられている。

絶対ここが羊の歌声亭だろ。


古民家をおしゃれにリフォームしたような外観で、内装は木材を使っているため温かみがある。

趣の良い宿屋だ。

俺たちは、リゼットは引き連れられ店内に入る。


一階は広々としており、食事スペースも兼ねているのだろう、机と椅子が幾つか設置されている。


奥から、店の店主だろう筋骨隆々のおじちゃんが出てきた。

店主というよりも、冒険者と表現した方が正しいような風貌をしている。


「ダリル、お客様を連れてきたわよ」

「なんだ! リゼットじゃないか!」


おじちゃんは、拡声器を通したのかと勘違いするほどの大きな声で、快活に答えている。

おかげで目が冷めたけれど、俺はおっちゃんの近くに居たから耳が痛い。

リゼットはいつもの事だと思っているような表情で、何か話しているようだった。


うしろの二人は、相変わらずポカーンとしている。

今日はいろいろな事があって、脳の処理が追いついていないのだろう。

はやく休ませてあげないと。


二人の話が終わったのか、おっちゃんはこちらを見て眉を上げた。


「おっ、これはまた可愛い冒険者達だな」

「まだ冒険者じゃないわ。お使いでエストルスの村から来たのよ」


一応ながらではあるが、俺達は剣をひっさげており、胸当を付けている。

不格好ながら冒険者に見えたのだろう。


しかし、「まだ」って。

俺達が冒険者になるのが決まっているかのような表現だ。


「3人で良いんだよな。部屋一緒か?」

「はい、3人です。部屋は――」


そうだ、ティアと一緒の部屋にするのはどうなんだろうか。

あいては年頃の女の子だしな。色々とあるだろうし。


「どうしようか。ティアは、部屋別々にするべきかな」

「うーん」


小首をかしげているティアは迷っているように見えた。

遠慮せずに一人の部屋を取って良いのだけれど。


「一緒でいいよ。二人が心配だし」

「それじゃ、一泊、一人大銅貨5枚だ」


この国の貨幣は、10枚ごとに、一つ上の価値のある貨幣と釣り合うようになっている。


銅貨10枚で、大銅貨1枚。

大銅貨10で、銀貨1枚といった具合だ。

なので、今回3人で合計大銅貨15枚となり、結果、銀貨1枚と大銅貨5枚となる。


肉屋のおっちゃんがそう言っていた。


「今回の宿泊費は冒険者ギルドが持ちます、いつもの方法で」

「あいよ。飯は夜と朝の分があるからな。食べてもいいし食べなくても良い。俺がいる時にだったら、好きな時に頼んでくれて構わないぜ」


2食付くのはとても助かる。

街の事を知らないから、この宿で済ませることが出来れば手間がかからない。

メニューはなんだろうか、楽しみだ。


「あなた達。今日はゆっくり休むのよ」

「はい、リゼットさん。ありがとうございました。あと宿泊費も出してもらっちゃって」

「いいのいいの、どうせ経費で払うんだから」


そうなのだろうが、お金を出してもらったんだ。

浮いた分のお金で観光も出来るだろうし、本当に助かる。


「じゃあまた」


リゼットさんは、俺達に手を降って宿を出ていった。


「お前ら、部屋はこっちだ」



宿泊部屋は、簡素な木製のベッドとクローゼット。

テーブル一つに、椅子が人数分。

それと冬に使うのだろうか、暖炉があった。


「いろいろあって楽しかったけど疲れたなー」


ティアは背伸びをしている。


「セリニス、マッサージしてくれよ」

「後でしてあげるよ」


ヘリオス兄はベットに寝転がっている。

今にも寝てしまいそうだ。


「ほんと、今日はいろいろあったねー。いろんな風景も見れたし、冒険者ギルドでいろんな話も聞けたし。冒険者、良いなー、わたしなりたいなー」

「そうなんだ」

「色んな所に行って、いろんな事が出来そうだからねー。剣術だってもっと上手くなりたいからね!」


冒険者。

独り立ちするなら、どこに行っても稼げる方法があれば困る事も無いだろうし、興味はある。

けれど、不安な事も多い。

お金を稼ぐ方法、一つの方法と考えるのであれは良いのかもしれないけれど、危険は付き物あろう。


「そっか――強くなりたいんだ」


力をつける事。それはは悪い事ではない事であると理解できる。

間違っている事では無いと思う。


「神殿に行くと強くなれるような事を言ってたし、近い内行ってみようか」

「精霊の加護ってものだよね。どんな事するんだろうねー」


強くなれるなら、この街に居る間に行かないとだ。

次は、何時来られるか分からないから。


「明日は調理ギルドに行って、手紙渡した後時間あったら神殿に行ってみようか」


だとしたら、あと1泊は必要か。

明後日あたり。街に帰る事になるのかな。


「そうだね。今日は疲れたしご飯食べたら早く寝ようよ」


誰かの寝息が聞こえる。

兄さんだ、寝てしまったのか。


「夕飯はちょっと待とうか、兄さん寝ちゃったし」

「そうだね」


俺達は少し休んだ後、兄さんを起こして夕飯にした。

メニューはシチューとパン、鶏肉の様な物のソテーだった。

普段、あまり食べないような味だったため、二人は食事に夢中になっていた。


料理か。村に居た頃は、だいたい同じメニューになっていたし、品目増やせると良いかな。

調理ギルドへ行ったら何かいい食材とはあるかもしれない。

そんな事を考えなが横になっていたら、俺はいつの間にか寝てしまっていた。

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