16話 はじめての旅路
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現在、辺りは少し暗い。
太陽が登るのはもう少し先だろうか。
なるべく早く出ておけば、日中に着けるだろうと考え、この時間にしたのだ。
皆、魔物を狩りに行くときの格好をしており、
いつもと少し違うところと言えば、食料と水を運ぶための、比較的小さめのバックパックを背負っている程度だ。
あまり荷物を多く持っても運べるか分からないし、疲れるだろう。
なんとしても今日中には街へ着きたい。
バックパックは家の物置にあったものを勝手に拝借してきた。
父親が使っていたものだろう。結構年季を感じる。
「さて、みんなそろそろ出発しようか」
「おう!」
「ふぁーい」
ヘリオス兄は初めての旅ということで、かなり張り切っている。
ティアは眠そうだ。
ちゃんと睡眠は取れたのだろうか。
「二人共ちゃんと寝れた?」
「……」
「寝れた、かな?」
あまり寝れて無いんだな。
気持ちは分かる。
なんだかんだ言って、俺も、旅前の期待感から来る興奮のせいなのか寝付きは悪かった。
「じゃあ行こうか」
そう言って俺は歩き始める。ぽてぽてと皆が着いてくる。
半日か、どの程度の距離だろう。
ざっくり計算すると50km程だろうけど、子供の足だとどうなるか分からない。
休憩とか考えたら、予定通りに着くことは出来るのだろうか。
「ふふーん。なんだか楽しいねー」
「あまり浮かれ無いほうが良いと思う」
ヘリオス兄は、意外と考えているのかもしれない。
二人の様子を見ていたら、不安が薄れた気がする。
可愛い子には旅をさせよと言うじゃないか。
いい経験になると良いな。
物事はいい方向へ考えるのが良いと思う。
前向きに行こうじゃないか。
ケット・シーが背負っているバックパックに乗って、ぐでんとしているのに気付き、その立派な羽は何のためにあるのだろうかと考えてしまって、心のなかで悪態をついてるとしてもだ。
重さはほとんど感じないから別にいいんだけどね。
折角良い天気になったのだ。幸先は良い。
楽しまないと損というものだ。
◇
1時間ほど歩いただろうか。
この世界は本当にきれいだ。
このあたりは草原地帯というのだろうか、遠くには山が見え、草木が美しい。
歩いているだけで幸せな気持ちになれる。
今の所、魔物と遭遇する事は無い。
そういや、肉屋のおっちゃんが言ってたな。
人通りがそれなりにあるからか、街道は魔物が出現することは稀で、そこまで警戒する必要は無いと。
安全なのは良いことなのだが、少し拍子抜けだ。
後ろをちらりと見ると、どことなく表情が暗くなった二人がいた。
結構な距離を歩いてきたから、疲れていてもおかしくないだろう。
「みんな、少し休憩しようか」
「まだ行けるぞ!」
一見、元気に見える。
けれど、無理をすると疲労も貯まり続け、ピークに達したときには、いくら休憩してもそれ以上動けなくなったりする。
この辺りで一度休憩を取ったほうが良いだろう。
「あまり無理はしないで行こうか」
「そうだね、私はちょっと疲れたかな」
「そうか」
ヘリオス兄とティアに水筒を渡し、水を飲むように勧めた。
そうして俺達は少しばかり休憩し、多少落ち着いたので先に進む事にした。
何度か休憩を取り結構歩いた。
太陽が真上にあるという事は、お昼頃だろう。
6時間は歩いただろうか、かなり進んだと思う。
丁度、見通しが良い場所があるから、そこで食事にしよう。
「みんな、お昼にしよう」
程よい空間を準備して、家を出る前に用意した、固めにパン、干し肉をバックパックから取り出した。
そして、簡単な干し肉のスープも作った。
調理に使用した火元は、燃えやすい草木を集め、そこに雷魔術を発動させ火を起こした。
魔術って本当に便利。
「流石に疲れてきたな」
「そうだね。足がぱんぱんだよ」
二人は結構疲れているようだ。
そりゃそうだ、子供がこんな距離を歩く事はなかなか無いだろう。
「セリニスはあまり疲れて無さそうだな」
ヘリオス兄そう言われて気づいたが、その通りで、俺は疲労をほとんど感じていないのだ。
なぜだろうか。
(主様は、普段から身体が魔力を取り込んでいるのです。自然と身体活性が起こって疲労がたまりにくいんだと思いますよ)
それは凄い。
俺の身体は思っている以上にスペックが高いのかもしれない。
(主様は魔力の扱いがだいぶ慣れてきたと思うので、他の人に魔力を渡す訓練もしたほうがよさそうですね。試しに、二人の足に手を触れて魔力を流してあげてください。他人にも身体活性の効果を与えることが出来るはずですよ)
そんな事、出来るんだろうか。
魔力を他人に流し込むって、割と怖いんだけれど。
魔力って、取り込みすぎると爆散するって聞いたことあるし、普通に考えて危険な気がするけれど。
(そんな考えすぎなくて大丈夫ですよ。渡し過ぎなければ良いのです)
不安ではあるのだが、ケット・シーそう言うのなら試してみようかな。
けれど、いきなり足を触るのもどうかと思うし。
なるべく自然に。
「兄さん、足をマッサージしてあげるよ」
「マッサージって何だ」
「足を揉むんだけど、それで疲れが取れるんだよ」
「そうなのか?」
俺は兄の足をマッサージをするフリをして、ヘリオス兄さんの足に魔力を流した。
(少しずつですよ。大量に渡したらだめですからね)
気をつけなければ。
兄の足を爆散させる訳にはいかない。
笑い事では済まないぞ。
そんな事を考えながら、少しずつ魔力を流しつつもマッサージを行う。
「おぉ! 痛みがかなり引いたぞ!」
効いているらしい。
兄は感動からなのか、飛んだり跳ねたりしている。
せっかく疲れが取れたのに、あまり無理はして欲しく無いんだけど。
「じゃあ次はティアだね」
「うん、お願いねー」
そう言ってティアの足を持とうとした。
が、俺は躊躇してしまう。
俺はこの足を触るのか。
良いのだろうか。
ティアはあれから大分成長し、年頃の女の子だ。
健康的ではあるものの、体つきはだいぶ女子っぽくなってきている。
容姿はモデル並みといっても過言ではない。
そんな女子の足を揉む、俺は大丈夫なのか。
この世界は、わいせつな行為を取り締まる法など存在するのだろうか。
俺は罪に問われてしまうのだろうか。
否。
俺はこのミッションを遂行するしかない。
強制的な行為ではない。これは善行なのだ。
あぁ神よ、私はあなたに感謝しております。
「どうしたの?」
「あ、いや。触って大丈夫かなって」
「ふふ、今さら何を言ってるの? 別にいいってー」
ティアはけらけらと笑っている。
「この機会を与えたもうた神に私は感謝します。それではティア、失礼致します」
「畏まり過ぎ!」
そう言って、ティアの足をマッサージした。
「すごい! ほんと痛みが取れたし、疲れもなくなった気がする!」
感動してくれているようだ。
そのように喜んでもらえると純粋に嬉しいものである。
そうして、ひと仕事終えた俺は額の汗を拭う。
「ありがとうございました」
「なんでセリニスが感謝してるの!?」
ありがとう魔力。
ありがとう魔法。
今日の出来事を糧に、明日からまた元気に過ごすことができそうだ。
俺は天に向かってガッツポーズをしていた。
「何をやってるの? そろそろ出発しないと日が暮れちゃうよー?」
「「は0い」」
ティアに軽く窘められながらも、再び歩き始めるのであった。
◇
そして、2,3時間進んだ頃だろうか、丘の上から一つの街が見えてきた。
橙色のレンガで出来た家が並び、要所々々に木々が生えている。
美しい街並みだ、前世で世界中をふらふらしていた頃、海外の田舎がこんな感じだったなと思い出した。
そんな事を、考えていたらいきなり声を掛けられた。
「おう。これまた小さな冒険者達だな」
俺達は声のする方を振り返る。
そこには、立派な全身鎧を着た、無精髭のよく似合うお兄さん? が立っていた。
「えっと。僕たちはお使いで来たんで冒険者じゃないですよ」
「おっと。そうだったのか、偉いな坊主ども」
なんというか、ひょうひょうとした感じの人だ。
「そうだそうだ、坊主どもと同じくらいの歳の女の子を見なかったか」
女の子? 道中は大人しか見なかったと思うけど。
「どんな感じの女の子ですか?」
「そうだなあ」
おっちゃんはそう言いながら、
顎の髭をつまむように触る仕草をしながら考えていた。
「おっ、そうだ。髪の毛が派手だな。銀色って言うのかね、そんな色をしてんだ」
そんな分かりやすい特徴を持っているんだったら、気づくと思うんだけどな。
きっと会ってはいないだろう。
「見てないです。すいません」
「そっか、謝んなって。見てないなら良いんだ。引き止めて悪かったな。お使い頑張れよ!」
そう言い残し、お兄さんは颯爽と去っていった。
ヘリオス兄とティアは、おっちゃんがあまりにも急に現れて、颯爽と去っていったのでポカーンとしている。
なんだったんだろうか。
人を探していたのは分かるのだが、ずいぶん立派な格好をしていたな。
お偉いさんがお嬢様でも探していたんだろう。
「さぁ街はすぐそこだよ」
不思議に思いながらも、俺は街へ足を進めた。