14話 チームプレイ
俺はしばらくたった日の晩、兄とティアがいる時に自分の考えを伝えることにした。
「ヘリオス兄。僕らは強くならなくちゃいけないと思うんだ」
「その通りだけど、急にどうしたんだ?」
兄は、なんだ当たり前の事を言って、こいつ馬鹿なのか。
というような顔で戸惑っている。
ティアはティアで、困った子供を見るような目でこちらを見ている。
「例えば、父さん達がもっと長い間帰ってこれないとしたら、僕らどうなるんだろうって考えてさ。このままじゃいけないと思うんだ」
「もうすぐ帰ってくるって、手紙に書いてあっただろ」
「例えばの話だよ」
兄は少し機嫌を悪くしてしまったのか、少しばかり低い声でそう答えた。
「この前、少しだけど父さんに話を聞いたんだ。この国は戦争をしているらしくて、父さん達はその戦争を終わらせるために戦っているって言ってた」
「戦争?」
「うん。別の国の人達と戦っているんだって」
「父さん達は無事なのか?」
「手紙を送ってくれたんだ、きっと無事なはずだよ」
俺は兄を心配させないようにそう言った。
実際は無事かどうかなんて分からない。
だって戦争だ、無事で済まない事も多いだろう。
「この世界は戦争も起こっているし、魔物もいる。だから自分の身を守るためにも、僕等も強くならないと行けないと思うんだ」
「そりゃそうだけどな」
「実は兄さんに黙っていたんだけど、この前森に行って魔物を倒してきたんだ」
ヘリオス兄は物凄く驚いたような顔をした。
「そんな危ないことしてたのか!」
「ご、ごめん……とにかくだよ、少しでも自分の身は守らないと思って、
少しずつだけど、森に行こうかなと思っているんだ」
ヘリオス兄は何か考えているようで無言のままだ。
「また一人で森に行くの?」
「そうだね……みんなを危険な目に合わせたくないし」
ティアが不安そうな表情でこちらを見ている。
「俺も行く」
「え、でも危ないよ」
「セリニスにも出来たんだ、俺でも大丈夫だ」
俺には出来たけど、兄さんはどうなんだろう。
「じゃあ行くときは、私もついていくよ。どうせ止めても行くんでしょ?」
「いやあ、そのね」
はい。きっと行くと思います。
「数が多い時だったり、強い敵の場合は逃げる。
その戦い方で少しずつ慣れていこうかなって思ってるんだ」
ケット・シーの索敵能力もあるし大丈夫なはずだ。
と、勝手に考えている。
「絶対、無理はだめだだからね!」
そうして、なし崩し的にではあるが森を探索して、魔物を相手に訓練をすることになった。
◇
次の日、俺達は両親に貰った剣と防具を装備して、
前回の森に行くことになった。
(こっちですよー)
そう言ってふよふよと移動するケット・シーの後についていく。
その後ろを二人がついてくる形だ。
「こっちで大丈夫なのか?」
不安そうにヘリオス兄に尋ねられた。
心配されるのは当たり前で、二人にはケット・シーの姿が見えていないのだ。
「そうだね。こっちに魔物の気配がする気がするなあ」
「気がする? 大丈夫なのか?」
「とにかくこっちだよ」
俺は適当に誤魔化しながら二人を案内する。
二人は不安そうについて来ているが、とにかくついて来てもらうしかないのだ。
「あ、いたよ。姿勢を低くして隠れて」
後ろの二人に、ハンドサインでその場で停止するよう指示する。
「ほんとだ、ビッグラビットが1匹だね」
「じゃあ作戦どおり、ティアが前線で攻撃を受け流してもらって、
兄さんが隙を見て攻撃だよ。危ないと思ったらすぐ逃げるんだ」
「分かった」
「うん」
しかし、魔物を目前にすると言いようのない不安に駆られる。
俺一人だったら魔法で一撃離脱が可能なのだが、二人がいるとどうなるんだろうか。
自然と心拍数が上がる。
いざとなったら俺が魔力全力で立ち回るしかない。
もうここまで来てしまったんだ。
やるしかない。
「僕は魔法でサポートに周るからね」
ティアは左手に小さめの木製ラウンドシールドと右手にショートソード、
ヘリオス兄は父から貰ったショートソードを構えている。
「じゃあ二人は、僕が魔法で敵を弱らせた後から突撃してね」
そうして俺は魔力を練り、
いつでも魔法を発動させることの出来る状態にする。
「いくよ」
そうして俺は、敵の動きを鈍らせるため、
ビッグラビット全身を覆うような、雷魔法を発動させる。
森のなかに、電気が弾ける音が響いた。
「いまだよ!」
二人は合図とともに草むらから飛び出す。
ビッグラビットは感電しているのだろう、痺れた身体を上手く動かせないようだ。
「えいっ!」
ティアが掛け声とともに、シールドで強打して、ビッグラビットの体制を崩す。
ビッグラビットの苦痛の叫び声が響く。
しかし、踏み込みが弱かったのか、倒れるほどの威力にはならなかったようで、
体制を崩しつつも、ビッグラビットはティアに対して体当たりをしてきた。
「きゃっ」
ティアはバランスを崩したものの、ビッグラビットの攻撃はシールドで受け流すことが出来たようだ。
俺は不味いと思い、焦っていた所に、
ヘリオス兄が剣を使ってビッグラビットを斬りつける。
「喰らえ!」
しかし、傷は浅いようで致命傷は与えられていないようだ。
ビッグラビットは息を整えるためか、少し距離を取りこちらの様子を見ている。
ビッグラビットも生き残るために必死なんだろう。
魔物だから倒して良いのもだと思っていたが、そのような事、良いのだろうか。
俺は前回、生物をただの力試しで殺してしまったのだろうか。
「セリニス! どうしたの!」
はっとした。
戦闘中なのに俺はそんな事を考えて呆けてしまったようだ。
そうだ今はとにかくこいつを倒さないといけないんだ。
「ティア、兄さんまだ行ける?」
「うん! 大丈夫だよ!」
「問題ない」
ティアはビッグラビットの体当たりを受けたものの、大した事はなく無傷だ。
兄さんも怖気づいては居ない。
「もう一度行くよ!」
そう言って俺はもう一度雷魔法を発動させる。
森のなかに電撃が走る音が響く。
ビックラビットは2度めの雷撃でかなり疲弊しているようだ、
立つのがやっとのようで、ふらふらしている。
その攻撃と同時に、ティアが再度攻撃を仕掛ける。
それと同時に、ヘリオス兄が踏み込む。
ティアが再度繰り出したシールドバッシュがビッグラビットの体勢を崩した。
それと同時に、ヘリオス兄が剣を突き立てる。
「はぁはぁ」
ヘリオス兄の攻撃で止め刺さったのだろうか、
ビッグラビットは完全に動くことは無かった。
「やったね」
「た、倒したぞ」
ヘリオス兄とティアはその場に倒れるように座り込んだ。
魔物との初戦だ、気が抜けたのだろう。
「お疲れ様」
二人の手を握り、立ち上がらせる。
「勝ったんだな」
「うん! 二人と凄く強かったよー!」
二人はやり遂げたような、照れたような表情をしている。
今日は祝杯だ、二人のために旨い料理を作ってやろう。
ちなみに、魂の魔力なるものは、それとなく俺が頂いておいた。
そもそも魔力を自分の意識で取り込むといった行為は、
俺以外は出来ないらしいので、仕方がないらしい。
「疲れてる所悪いけど、長い間ここに居ると魔物が来るかもしれないから早く帰ろう」
俺はそう言って、仕留めたビッグラビットを麻袋に入れ、
みんなと共に家路につくことにした。
帰りにまた肉屋に寄って、ビッグラビットを渡した所、
「お前らだけでコイツを狩ってきたのか!?」と大変驚かれた。
前回はお使いで持ってきただけだと思われていたらしい。
そりゃそうだ、子供三人で魔物を狩って来るなんて信じられないだろう。
おじさんからは、「危ないことはあんますんじゃねぇぞ」というような忠告と、
「正直助かる、これはお礼だ」といった感謝の言葉と共にまた肉を貰った。
そして、その日の夜は少しばかり手の込んだ料理で二人を労い、お互いの健闘を称えた。
かなり無茶をしてしまった自覚はあるが、一歩前進した気がする。
これで皆も力をつけ、少しは自衛能力が上がるだろう。
正直これで良かったのかは疑問だが、力は付けておきたい。
生前、世界放浪中、力のないものが力のあるのもに屈服させられている様は度々見た。
その度に、自分の無力さを悔しく思ったものだが、今回はそんな後悔はしたくない。
二人の笑顔を見ながら、そんな事を考えていた。