13話 新生活
「兄さーん! 朝ごはんできるよー!」
「わかった、今行く!」
あれから、しばらく経っただろうか。
前世、一人暮らしをしていたから慣れている部分もあり、大した問題も起きていない。
ヘリオス兄も両親がいない日々の生活にも慣れてきたと思う。
「おはよーう!」
ティアが来たようだ。
ここの所毎日来てくれる。本当にいいお姉さんだ。
頼りになるな。
「あっ! またご飯作っちゃってる! 私が作るって言ってるのにー」
キッチンにティアがやってきた。
もう家族のようなものだ、出入りは自由にしているし、
細かいことを気にしない間柄になっている。
朝ご飯はティアが作りたいらしく、朝早くから来てくれるのだが、
だいたいは俺が作ってしまっている。
たまに、ヘリオス兄とティアと一緒に作る程度だ。
「ティアも食べていくでしょ」
「うん。なんか悪いね……」
「いいよ。気にしないで」
そう言って、みんなで朝ごはんの準備をして食卓を囲む。
今日は、といってもだいたい何時もなんだが、
パンとベーコンエッグとジャガイモのスープだ。
両親が村を出た、初めの頃の話では、
ティアの家で暮らす事になっていたのだが、俺がやんわりと断った。
初めは凄く心配されたし、俺もそうするべきかと迷ったのだが、
「どうしても無理そうだったらお願いする」ような事を言い、
その場はそれで理解してもらった。
俺は生前の知識もあるし、一人暮らしの実績もある。
だから問題ないと考えた。
それに兄の自立性を鍛えたかったのが本音っていうのもある。
そして、朝ご飯を食べ終わったら、いつもの日課となっている剣術の訓練を行う。
以前、父親から貰った、鉄製のショートソードに慣れるためだ。
やっぱり木剣とは違う、まだ身体が出来上がっていないから、
どうしても重さに振り回されそうになる瞬間がある。
ティアも父親から貰ったらしく、鉄製のショートソードを持っている。
3人それぞれが手になじませるよう、剣を振るっている。
兄とティアはかなり上手く扱えている、俺とは比べ物にならない。
俺は俺で、魔法の練習に特化しようと訓練はしているし、
それで間違っていないはずだと思う。
◇
そんな感じで、半年がたった。
両親達はまだ帰ってきていない。
そんな中、父親から1通の手紙が届いた。
内容は簡単に言うと、
”問題が上手く片付かず、長引いている。もう少しの間待っていてほしい”
といったような事が書いてあったのだ。
やはり、半年そこらで帰ってこれる事にはならなかったようだ。
今まで続いている戦争だ、そう簡単に終わるわけではないだろう。
俺は、長引いてしまう可能性もあるだろうと考えていたので、
大した影響は受けなかったが、兄は落ち込んでしまった。
俺とティアで慰め、少しばかり持ち直したが表情が優れない様だった。
それと気になる一文があった。
”帝国が各地で怪しい実験をしているらしい。村から出ないように”と。
実験? 怖いな……前世でも訳の分からない大規模な実験で、
各地に悪影響を残した例もあるしな。注意しなければな。
◇
そして、俺はこの半年ほどいろいろ考えた、この世界で生きるために必要な事。
一番に、戦争が起こった際に戦う力と、魔物と戦うための力が必要だ。
俺には幸い、魔力を扱う力がある。これを上手く使わない手はない。
だから、自分の力がどの程度通用するのか、
一度、魔物なるものを見ておきたいと思った。
俺はいつもの訓練中、ティアにさり気なく聞いてみることにした。
「ねぇティア、魔物ってこの村の近くにいるの?」
ティアは一瞬何を言われたか分からないような表情をして答えた。
「うーん。人通りが多い所にはあまりいないけど、森の中にいるかも」
森の中か、そうだよね。大体そんな所に居るものだよね。
「急にどうしたの?」
「いや、ただ気になっただけだよ。父さん達ってたまに魔物を狩ってたって聞いてさ」
「ふーん」
ティアは怪しそうにこちらを見ていたが、
それ以上追求することはなく、再び剣の訓練を初めた。
どうしたものか。闇雲に探すわけにも行かないしな。
そう考えていたらケット・シーがふよふよと近寄ってきた。
(主様。私、魔物のいる位置分かりますよ)
(そうなの?)
(はい。魔物って濁った魔力を持っているので、それを辿れば見つけられるかと思います)
(へぇ、凄いな。近いうち頼み事していい? その魔物を一度見てみたいんだ)
(良いですが、何をするのでしょうか)
(俺の魔法がどの程度のものか試してみたくてさ。その魔物って結構強かったりする?)
(うーん。おおよそですが魔力総量的には主様より遥かに低い魔物ばかりですね)
(凄いな、そんな事まで分かるんだ)
(そうなんです。もっと褒めて崇めていいのですよ)
そう言ってケット・シーは胸を張って誇らしげにしていた。
◇
その次の日、俺は兄にバレないよう、こっそりと家を抜け出し、
魔物が居るという森にやって来た。
「ケット・シー。こっちで間違いないんだよね」
周りに人が居ない時は、念話で話すことはしない。
口頭で話すほうが、気分的にすごく楽な気がする。
「はい。もう少し真っすぐ行ったら居るはずですよ」
どきどきしてきた。始めての魔物との邂逅だ。
俺はなるべく気配を殺し、音を立てずに先へ進む。
「いた」
そこには、一見ウサギなんだが、知っているウサギとは違う。
明らかに大きさが俺の腰辺りまである。
そして分かる。
淀んでるというのだろうか、じとっとしたような、いつも異なる魔力を感じる。
嫌悪感に近い違和感を肌で感じる。
「周りに他の魔物はいないよね?」
「はい。あのウサギ一匹だけですね」
よし。全力で一度試してみて、やっつけられなかたら全力で逃げよう。
身体強化を使って、全速力で。
村もそんな遠くないし大丈夫だろう……多分。
そう考え、この日のために練習してきた、風魔法の空気砲を放った。
ピギャッ!
その空気砲は見事にウサギに命中した。
そして俺はその威力に驚愕した。
空気砲が当たったウサギは、息が絶えたのか微動だにしないのだ。
念のために近づいて確かめてみたが、目を開けたまま息絶えているようだった。
俺は、その威力に驚愕していた。
「主様。その魔物の周囲の魔力を確認してください」
ん? なんだろう。
言われたままに、ウサギの周りの魔力を確認するため、目を凝らしてみる。
すると、なんだろうか、いつもとは違う感じのうっすら輝く魔力が、
一箇所に固まったかのように存在していた。
「なんだこれ?」
恐る恐る指先で触ろうとしてみるが、特に感触はなくそのまま貫通してしまう。
「その魔力、いつもやっているみたいに、体内に取り込んで欲しいのです」
言われてた通りに試してみると、
普段魔力を取り込んだ時と変わらず、体内に吸収された。
「特に変わった様子はないんだけど?」
「うーん。その程度の魔物だったら大して影響は無さそうですね」
影響? 変な影響が出たら困るんだけどな。
身体が弾け飛ぶのは嫌だ。
「その魔力は、魂が持つ魔力と言えば良いのでしょうか。
取り込むことで、主様の魂の器、蓄えられる魔力の最大値を底上げしてくれるはずです」
そんなことも出来るんだ。それは良いことを聞いた。
今より少しでも強くなることが出来れば、もし何かあった時に対処できるかもしれない。
ただ漠然と魔力の最大値が上がるって言われてもな。
数値化して見れないのは困ったものだ。
自分がどの程度強くなっているのかが具体的に分からない。
ガサガサッ
突然、草木を分ける音がした。
新手の魔物か来たのかと思い、魔力を貯め、
いつでも魔法を唱えられるような状態に構える。
「やっぱりだ。家にもいないし、魔物がどうとか言ってたから気になって来てみたら」
ティアだ。
どうしてここにいるんだろう。
いや、昨日魔物の話をしたから怪しんで後をつけてきたのだろう。
あの程度の会話だったら気にされないと思ったんだけど。
「あ、いや、そのね」
「ここは危ないよ。取り敢えず帰ろうよ。ってビッグラビット、やっつけたの?」
ティアをそう言い胡乱な目つきで、俺を見つめている。
「あ、いや、そのね」
「まぁいいや。でもどうしよう、このまま置いておくと魔物を集めちゃうかもしれないし」
「魔物が集まってくるの?」
「そう、血の匂いで引き寄せてしまうらしいんだよね。魔物の餌にもなるし」
そっか、魔物って肉食もいるだろうしな。
「一応食材にもなるし、持って帰ろうかな」
「えっ、食べるの!?」
「うん。セリニスだってよく食べてるじゃない」
あぁ、あのウサギの肉って、コイツのだったんだ。
なんというか少しショックだ。
魔物って響きがいけないんだろうか、次から少し食欲が失せそうだ。
「じゃあ行こうか」
そういって、ティアは先に進んで行く。
でもなんだろう。いつもより態度が冷たいような。
怒っているんだろうか。
怒っているんだろうな。
「あ、あのティア」
「ん。何?」
「なんかゴメンね」
「何のこと?」
怒っている。言葉にいつもの抑揚がない。
ティアって静かに起こるタイプなんだ。
怖い。
「一人で森に来てごめんなさい」
「……」
「え、えっとね、無茶をしたって」
「もう、心配させないでよ」
「ごめん」
心配させてしまったようだ。
そりゃそうだ、6歳位の子供が一人で、
魔物がいる森に入るなんて普通はありえないだろう。
その後、ビッグラビットをティアの知り合いだという、肉屋に渡した後帰宅した。
俺たちもよく来る店だ。
その際、とても喜ばれ、お礼にと既に解体された後の肉を貰った。
どうも最近仕入れが減っているらしい。
俺の父親や、ティアの父親が村から出てしまって、
魔物を狩る人が減ったためらしい。
しかし、これもビッグラビットの肉なんだろうか、
有り難いような有難くないような。
そして俺はまた考えさせられた。
再び、一人でこそこそ動いてしまうと、また心配させてしまうだろう。
どうしたものか。
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