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12話 やるきになる

両親と別れる前日。

旅立つ両親が家にいる事の出来る、最後の日の晩のことだ。


「ヘリオス、セリニス。渡したいものがある。父さんと、母さんからプレゼントだ」


そう言って父親は、鉄で出来ているであろうショートソードと、

革で出来た胸当ての様なものをプレゼントしてくれた。


「自分の身を護るための道具を渡す。これは大事なモノを護るために使うものだ。間違っても、他人に暴力を振るう為に使ってはいけないぞ」


渡されたショートソードを持ってみる。


うわ。本物の剣だ。

恐る恐る、鞘から剣を抜き手に持ってみた。

実物を持ってみると、その重みと、鋭利な金属の物騒な雰囲気に呑まれそうになってしまう。


前世で、包丁やナイフといった小型の刃物は日常的に触っていたのだが、

ここまで大きいとおっかなびっくりだ。

この位のサイズだと、簡単に人とか殺せてしまだろうし。

俺が剣を持った感想としては、強くなった気分というよりも、恐怖に似たような感情が湧いてくるといった所だ。


ちらっとヘリオス兄を見ると、

この前、両親が家を出る話を聞いたときのように、めそめそするような様子はなく。

何かを決めたかのような表情をしている。


兄は、剣に怯える様な性格ではないようだ。

あれだけ剣術が好きであれば、剣が怖いなんて感じ無いものなのだろうか。


「あまり、危ない事はしないでちょうだいね」

「分かった」

「うん」


母親は、とても心配そうな表情をしている。

そりゃあ、この年齢の子供を置いて家を出るなんて、不安でしかないだろう。

こういう時は、どんな言葉をかければ良いのだろうか。

俺は、気の利いた言葉も浮かばす、ずっと黙っている。


その日は、母親の作った温かい料理と、父親の優しさに触れ、

しばしの間の幸せな時間を過ごした。



両親が出発する日だ。


俺たち兄弟と装備を整えた両親と一緒に、村の出口に向かう。

その道中、あまり会話する事もなく、あっという間に村の出口に着いてしまった。


「アレックスはまだ来てないな」


ティアの父親も、今日この村を出る事になっている。

父親同様、国家騎士なるものに属しているのだろう。


「何度も言うようだけれど、ちゃんと毎日ごはん食べるのよ。

お風呂もちゃんと入って。歯もちゃんと磨いて。それから…」

「大丈夫だよ。母さん」


俺は、実家出た時に見送ってくれた、

生前の母親を思い出しながらも、そう答えた。


「よし!さっさと問題を片付けて返ってくるぞ!」

「そうよね!ちょっとの間の別れだけど、元気で待っててちょうだいね」


父親の、いつもの調子の良さに救われたのか、

母親も少しは気が軽くなったようだ。

ほんと良い夫婦だと思う。


「すまない。待たせてしまった」

「おう。待ってたぞ」


そこに、ティアの家族達がやって来た。

この前来ていた騎士達も一緒だ。


ぽてぽてとティアが俺の隣に来た。

いつもより表情が暗い気がするな。


そりゃそうだ、父親が戦争に行くなんて納得のできる話ではない。

思春期の子供に与える影響は、どの位のものなのだろうか。

俺は、精神年齢が子供ではないから、ある程度は受け入れることが出来るが、

ヘリオス兄とティアはまだ子供だ。

どのくらい心に負担がかかっているかなんて想像がつかない。


多少ではあるが、心の支えになることは出来るだろうか。

話を聞いてあげる事しか出来ないのだろうか。

俺は、ヘリオス兄とティアの顔を見ながら、そんな事を考えていた。


「準備は出来ただろうか」


騎士の長らしき人物が皆に問いかけた。

神妙な面持ちで頷く両親達。

俺はどこか気が抜けた表情でずっと眺めていた。


「じゃあ行って来るな!すぐ帰るから待っていてくれ!」


そういって、父親は俺たちをぎゅっと抱きしめた。

ほどよく鍛えられた男の胸板だ、がっしりしている。

力強くあり息苦しい包容ではあったが、とても安心した気持ちになれる。


「いい子にして待っていてね」


そういって母親も俺達をぎゅっと抱きしめる。

母親の優しさが肌を通して直で伝わってくるようだ。

生前の母親の記憶が蘇り、愛おしい思いが溢れてきた。


なにか、鼻にツンとくるものを感じ、

ちょっと泣きそうになってしまったがそこは堪えた。

悲しい別れになるのは辛いだろうからね。笑顔で見送ろう。


「まかせてよ!ねぇ、兄さん!」

「あぁ!心配しないでいいよ!」


そんな俺達の言葉に、笑顔で答える両親。

少しは安心してくれただろうか。


ティア達も別れの挨拶が済んだようだ。


「では、出発する」


名残惜しそうに俺たちを見ながら町を出て行く両親。

俺達は、その後ろ姿を見えなくなるまで眺めていた。


「行っちゃったね」

「そうだね」


気づけば、俺とヘリオス兄の間にいるティアが、俺達の手を握っていた。


明日から何をしようか。

考えないといけないんだろうな。


家族の事。

戦争の事。

世界の事。

魔法の事。


少しばかり、いや、かなり平和ボケしていたのかもしれない。

自暴自棄になっていたが、前世で死んでしまった事は、それが原因の一つだろう。


前世にはあまり未練はないが、この世界では違う。

守りたい家族がいる。ティアとその家族もいる。

俺はこの世界の大切な人達を守るために、全力を尽くしたい。


もう、前世のように後悔はしたくないんだ。


そんな事を考えながらも、

今日は、いつもより強く感じる疲労がとても心地悪く。

早めに休むことにした。

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