10話 招集
しばらく経った頃だった。
家に仰々しい格好の3人が訪ねてきた。
この辺りでは普段見ないような人達だ。
プレートメイルと言うのだろうか、
身体の重要な部分だけ、加工された金属の板で守られているような鎧を着ている。
そして、現在、両親がリビングで話を聞いている状況だ。
ただ、なんだろうか、両親の顔色がとても優れないのが気になった。
深刻な話でもするのだろうか。
俺は気になり、扉の影に隠れて聞き耳を立てることにした。
そうしていると、他の二人とは違い、
心なしか豪華な鎧で、一人だけ座っている人が話しだした。
偉い人なんだろうな。
「ひさしぶりだな、シリウス。元気にしていたか」
「あぁ、ピエージュ。お前に会うまではな」
「そう言うな。俺も来たくて来たわけじゃない……」
明らかに不穏な空気だ。
「今日は、シリウス達に国からの命を伝えに来た」
「分かってる。招集だな」
「すまないな。また忙しくなるようだ」
招集? 父親は何処かに行くのだろうか?
「例の国が、また問題を起こすつもりらしい」
「勘弁してほしいぜ全く。他の奴じゃダメなんだよな?」
「分かっていると思うが、今、この国は人材が極端に不足している。国家騎士のシリウスが不在となってはとても敵わん。この後、アレックスの家にも行く予定だ」
例の国、問題とは何だろうか、穏やかでは無さそうだ。
父親は国家騎士なる団体に所属していたのか。
「それと、すまないのだが、シリウスの嫁の事なのだが」
「そうだよな……そういう約束だったしな。一緒に行くしかないよな」
「物分りが良くて助かる」
母親もか。
俺達はどうすればいいんだ。
一緒に引っ越しでもするんだろうか。
「子供達の事もある。もう少し待ってほしい」
「理解している。しかし、あまり時間がないのでな、なるべく早く準備をしてほしい。私達もそれなりに忙しい。あまりこの村に長居はできないのだ。道中必ずしも安全というわけでもない。私達が同行するつもりなんでな」
「分かった。あぁ、そうだ、アレックスの家には俺もついていく」
そういって、話が一段落したのか、父親とその騎士は立ち上がった。
父親は母親に「ちょっと行ってくると」言い、
騎士らしき人達は、母親に深く敬礼し、ティアの家に向かった。
とある国と問題が起こった。
父親は国家騎士だと言う。
これって単純に考えたら、争いが起こる予兆なのではないのか。
この世界って、安全なわけではないのだろうか。
(なぁケット・シー。何の事だか分かるか?)
(残念ですが、全く分かりませんね。私は、主様がこの世界に産まれるのを待って、人里に降りてきた感じですからね。主様にしか興味が無いのです。世界の事にはとても疎いのです)
(そ、そうなんだ)
誇ったように言われた。
この子、やはりなにかズレている。
日本に住んでたから馴染みのない事だが、兵士が国から呼ばれる。
なんだろう、すごく気持ちがざわつく。
両親は無事で済むのだろうか。
物凄く心配だ。
◇
そして、その日の夜、家族会議が行われた。
「ヘリオス、セリニス。大事な話がある。父さんと母さんは近いうち、国のためにこの村を離れることになる。取り敢えずだが、半年ほどは帰ってこれそうにない」
ヘリオス兄は一瞬、何を言っているのか分からなかったらしい。
驚きのあまり、目を白黒させた後、切羽詰まったように叫んだ。
「なんで? 父さん達を離れるのは嫌だ!」
「半年で帰って来れるはずなの。少しだけ我慢してほしいの」
「嫌だ! 母さんたちと一緒がいい」
まぁそうだよな。ヘリオス兄は、まだ5歳を過ぎたくらいだ。
そう簡単には納得出来ないだろう。
いや、簡単に納得できる人間なんて居るのだろうか。
俺も昼あたりから、焦燥感からかなのか、ずっとそわそわしている。
「セリニスも不安だと思うけど、少しだけ待っていて欲しいの」
「……うん」
俺は、ヘリオス兄みたいに、行かないで欲しいとは言えないらしい。
他人事のようだが、どこか仕方がないと思っているのかもしれない。
前世の記憶があるせいなのか、そんな風には思いたくないのだが。
どうも両親って感覚が薄いんだろうな。
我ながら冷たい奴だ。
「それって、僕らも着いて行けば良いんじゃないの?」
単純な疑問だ。
「そんな訳にはいかない。あそこは、戦場が近くて危険なんだ。それに父さん達は忙しくなるから、お前たちをずっと見てやることは出来ない。守ってやる事も出来なくなる。この村に居てもらうほうが、絶対に安全なんだ」
「そうなんだ……」
それなら仕方がないのだろうか。
確かに、俺達はまだまだ子供だ。
両親が近くに居る事が出来ないのに、戦場をうろうろする事になったら大変だもんな。
「少しの間、アレックスの家に世話になると思う。いい子にするんだぞ」
「わかった」
ヘリオス兄は、涙を我慢するように、身体に力を入れているのか震えている。
心が痛いな。
子供が悲しむ姿を見るのは辛いモノだ。どうしたものか。
そんなこんなで、今日の話はお開きとなった。
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