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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編集 冬花火

月下美人

作者: 春風 月葉

 あなたという人は夜に閉じ込められている。

 世界は夜に眠るのに、あなたは夜のみ現れる。

 昼のあなたは平凡で弱々しい顔なのに、夜のあなたは妖艶で月の光も霞ませる。

 夜のあなたに魅せられて、夜のあなたに恋をした。


 私という人間は平凡で、これといった特徴もない集団を構成する一パーツに過ぎない。

 色恋も知らず、娯楽にさえ触れることなく作業のように生きてきた今までは、私にとって可もなく不可もない退屈な人生だった。

 そんな私が彼女と出会ったのは大学時代の映画サークルで行った同窓会の帰りだった。

 一つ下の後輩である月子は人付き合いの上手な優しい娘であったが、外見はぱっとせず、良くも悪くも普通な娘であった。

 彼女との帰り道、少しばかり酒を飲み過ぎた私は、月子に肩を借り自宅近くの川沿いを歩いていた。

 ふらふらとおぼつかない足取りで歩く私を、私よりも小さく華奢な月子が支えるのには相当な無理をしていてくれたのだろう。

 ふらりと身体が大きく傾いた。

「あっ!」という月子の可愛いらしい声が聞こえ、私と彼女は川の浅いところに落ちてしまった。

 月子は焦って私を陸へ引き上げて、そこが膝にも届かぬほど浅瀬であることに気付き、一人で顔を赤らめた。

 これだけの水を浴びたのに、私の酔いは覚めていないようで、上着を脱ぎシャツの水を落としながら私に謝罪する月子を見て、そのあまりの美しさに返事すら返せなくなっていた。

 薄く透けて見えるシャツの奥の白いミルク色の肌、髪から頰、胸元へと流れていく水滴の一滴さえも彼女という芸術の一部に見え、月明かりを受けて光る髪の揺れるのにさえ目を奪われた。

 心配そうに私の方へ寄ってくる彼女が月の光と重なって、彼女の顔が影で見えなくなろうとするのと同時に、私の意識はどこかへ去った。

 翌朝、私は自分のベッドの上で着替えた状態で寝かされていた。

 テーブルには朝食が用意されている。

 冷蔵庫のは無かったものも見えるので買ってきたのだろう。

「おはようございます。昨晩はごめんなさい。」そう言っていつもの月子が頭を下げる。

 乾いてはいるが昨晩と同じシャツを着ている。

 きっと寝れないで色々としてくれたのだろう。

 私の前にいる月子は、私のよく知る優しくて普通ないつもの月子だった。

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