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三学期四日目、午前。

東京に珍しく降った重い雪の中を軽くスキップをするように足早にかけるのは昨日の進展に心を踊らせる僕だ。

早くいったから早く放課後になるわけではないのだが家でダラダラしていると時間の流れが遅くなるような気がしてかなり早めに家を出てしまった。

こんなにも早く用意を済ませて僕が家を出ることなんてまずない。母親は今朝始終キョトンとしていた。

しかも軽く駆け足で来たのだから僕が学校に着いたのは朝の予鈴の四十分も前のことだった。こんな時間に学校にいるやつはほとんどいない。


「やっべ早く着きすぎたなぁ」


誰もいない校門で一人つぶやいた。

それに雪の中を駆け足で走る高校生ははたから見れば年甲斐もなく珍しい雪にはしゃいでる奴、に見えたのではないかと今更ながら恥ずかしくなった。

その時強い風が吹き付けて思わず身震いする。

校門にいても寒いだけなので教室に向かうことにした。


案の定誰もいなかったが一つ予想外なことがあった。瑞稀の机に既にカバンがあったのである。

一瞬探しに行こうかと思ったが見つけてしまった場所が学校のとんでもなく辺境の地、例えば旧校舎の最奥とかだったら来た理由が説明できないし、そうなればきもいストーカーだと思われそうだということに気がつき、思いとどまった。

でも探せる範囲はなんとなく探しておきたいものである。僕は窓の外をじっくりと眺めることにした。


体育館の周辺、いない。


旧校舎の方、いない。


第1グラウンド、いない。


第2グラウンド、いない。


プール、いない。


まあ、外になんているわけないか。東京ですら雪が降るような極寒の日に外にいる高校生なんてそうそういない。諦めて机とロッカーの整理をすることにした。

机の中はたいして汚くなかったのですぐに片付け終わった。問題はロッカーである。うちの学校では扉と鍵付きの顔より一回り大きいくらいのロッカーが廊下にずらりと並んでいてそれが一人に一つずつ割り当てられているのだが扉と鍵があるのをいいことに多くの生徒が基本的に使わない教科書を力ずくでねじ込んでいるのだ。僕も多くの生徒のうちの一人だった。

意を決してロッカーを開けると見慣れない教科書や参考書がバサバサとすさまじい音をたてながら雪崩のように飛び出して来た。


「あけなきゃよかったかなぁ」


少しの後悔をこぼしながら僕の後ろまでツルツルと滑っていった教科書を拾う。

ちょうど腰を落として教科書に手がかかったぐらいの時、僕の首筋をキンキンの風がゾワッと撫でた。

びっくりして立ち上がると正面の窓が少し開いたままになっていた。


「ったく、掃除当番のやつ誰だよ」


少し苛立ちながら窓を閉めようとした時だったちょうど窓の真下の位置、校舎の裏側に少しだけ空いたスペースに瑞稀がいたのだ。

僕は慌てて窓を閉め、気づかれないようにそっと下を覗くと、座り込んで何かをしているのはわかったがそれが何をしている動作なのかまでは分からなかった。

じっくり観察したい気持ちもあったが見つかった時の言い訳が思いつかないという理由でそれはやめた。

そのかわり休み時間か何か空いた時間に下を見に行くことを今日の脳内メモに書き足した。




「起立、礼」


『ありがとうございましたー』


「海斗!直哉!食堂行こうぜ!」


「えー、教室でいいじゃん廊下さみぃし面倒いよ」


「今日弁当忘れたんだよ、お願いだから、な?」


「たく、しゃーねーなー、じゃ、行くか海斗」


「おっけー」


四限が終わるとすぐに幸人が声をかけて来て僕たちは食堂に移動した。


「いつ来ても混んでんなー、悪いな二人とも」


「貸しだぞ」


「そうだね貸しいち」


「勘弁してくれ、じゃあ食券買ってくっから席とっといて!」


「「貸しにー」」


「おい、それもかよ!」


実際、混雑こそしていたが席は十二分に確保されているので並びで三席空いているところを見つけるのぐらいはそんなに手間取らなかった。


「よし、ここでいいな、じゃあ俺幸人に場所伝えにいってくるわ」


「おっけーここで待ってる」


直哉が席を立ってからは二人が来る前に弁当を食べ始めるのはなんとなく悪い気もして来慣れていない食堂をぐるりと見回していた。

するとうどんそばコーナーの列に見慣れた女子、瑞稀が並んでいるのが見えた。

教室にいないと思ったらいつも食堂で食べてたのか、たまには食堂に来てもいいかもなどと考えていたらいつの間にか戻って来ていた直哉に「おーい」と目の前で手を振られてはっと我に帰った。


「なーに、見てたんだよ」


「いや、別に、」


「どれどれー、あぁ、瑞稀か」


「いや、違うよ!僕は別に、」


だめだ、自分でも怪しいのがわかるぐらいには怪しい、昔からなんとなく鋭いところがある直哉なら完全にお見通しだろう。


「隠さなくてもいいじゃねーか、もともとちょっと気になってそうな感じだったじゃんか、てかその慌てぶりだと最近なんか進展でもあったか?」


まさかそこまでお見通しとは、恐れ入った。僕は直哉の脳内ステータスに透視を書き足しながら「堪忍したよ」と一言いった。


「いいじゃねえか、修学旅行で俺らも含めてカップルが二組増えるなんて青春っぽくてさ、あぁ幸人には秘密にしといてやるよ、あいつは良くも悪くも声がでかいからな」


僕も直哉もカップルが成立するなんて保証はないのにと心の中でツッコミながら直哉の気遣いに感謝する。

直哉は細かいところに気が回るやつだ。それでいて明るくてうちの学校の中じゃ頭もいい、顔もなかなかイケてる部類なのだから彼女がいないと知った時にはかなりびっくりしたのを覚えている。


ふと、前に一度直哉がクラスの女子に告られて振ったという噂を聞いた時直哉にそれについて聞いたことがあるのを思い出した。


「なんで振ったの?そこそこ可愛いし、いいやつじゃん」


「そこそこじゃだめなんだよ、やっぱ俺はクラス一可愛い千佳と付き合いたいんだ」


「へぇー、じゃあ告ればいいのに」


「馬鹿野郎、そういうのはタイミングが重要なんだよ」


「それ、昨日冴えないおっさんがテレビで言ってたよね」


「う、うるせえ」


そういえばそうだ。直哉は致命的に一途で致命的にロマンチストなんだった。だから修学旅行まで引っ張りに引っ張ってここに来て告白を決意したのか。

多分小樽の綺麗なガラス細工かオルゴールかなんかをプレゼントしながらちょっとくさいくらいのロマンチックな告白をするんだろうな、とか勝手に想像していると幸人が帰ってきた。


「悪りぃ!今夏美と会ってさ、あいつと食べてくるわ!ほんっとごめん!」


「はぁー!?全くしょうがねぇやつだな、今度食堂に来た時俺と海斗の分奢らせっからな!早く行ってこい!」


「ありがと!じゃあ、教室でな!」


幸人はラーメンの乗ったお盆をガタガタ言わせながら大慌てで人混みの中に消えていった。

「まったく羨ましいやつだなほんと」と直哉が笑いながら言ったので僕も「ほんとだよ」と笑って返した。




食堂を出た後直哉に、用事があるからといって校舎の裏側、朝瑞稀がいたところに向かった。

何か特別なものがあるとは思えないそこの変わったことといえばただ周りより少し雪が積もっているということだけだった。雪のおかげで瑞稀のものだと思われる足跡が見えたので辿っていくと朝瑞稀がいたところにたどり着いた。そこには何か四角いものが置いてあったであろう凹みがあり、その先にさらに足跡が続いていた。

さらに足跡をたどってみると今は使われているのかもわからない小さな物置につながっていた。

恐る恐る物置を開けると小さく物音が聞こえた気がした。

かなりびっくりした僕は少しビクビクしながら物音がした方を覗き込む。




すると、少し雪を被ったダンボールが「ワンッ」と小さく吠えた。

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