全てここから始まったんです。
人が犇めく東京の街中の、
一つの旅館で人が死んでいる。
その側には男が一人。
男はニヤリと笑いつぶやいた。
「犯人は……
…僕です」
-一週間と三日前-
「当たったぁ!!?」
妹が声を上げる。ちょっと、自分でも頭の理解が追いついていないのだが、
妹はそんな状況でも待ってはくれない。
「あの、東京観光旅行三ヶ月間無料プランに、当たったていうの!!?」
「あぁ、そうな…」
「ちょっと待って、じゃあ三ヶ月間兄ちゃんいないの!?
三ヶ月だよ、三ヶ月!一年の1/4!
いや、でも兄ちゃん学校は?三ヶ月も!休むの!?
えぇ!ずるいぃ!来年受験でしょ、大学の。
三ヶ月はないでしょ~~
ていうかさー…」
どうやら妹は俺に喋る時間をあたえてくれないようだ。
こんなんだから彼氏も…出来たんだよな~。
本当に奇跡だろ!
今まで喋り続けていた妹が本日二回目の声を上げた。
「あぁ!!」
「あ?」
全く騒がしい、今度は何だ?
「いつ…行くの?」
「あぁ、一週間後」
「ギィヤァァァァァァァ!!」
マジ、うるせぇ。
◆
今でも時々夢にみる。
あの場所、あの感触、最後の言葉、全て鮮明に映し出される。
アパートの屋上に立つ父を十歳の俺は……
押し殺したのだ
◆
「ハッ!はぁー、はぁー、はぁーー」
体中から汗が吹き出している。
頭の上に置いている目覚まし時計によると、
今の時刻は朝の三時三十七分だ。
さすがに旅行当日の朝の夢にはおすすめできないな。
実はこの夢には続きがある。
(お前が殺ったんだろう?)
あの少し老いた刑事が言うのだ。
全てを見てきたような、大きく見開いた目で…
もうやめよう、考えるな。
そうだ、実季(妹)が作ってくれた夕飯のカレーの残りでも食べよう。
考えるな、思い出すな、もう早く消えろ。