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 親父

翌朝、ボケじいの話を聞こうと家に行くといつもの三人が、既にいて何か話していたので

「おはよう」と言って近づくと

「お兄ちゃん、おはよう」三人が挨拶してくれたあと、

「なにかあったの?」と聞くとゆみちゃんが

「ボケじい、今日用事があるからって言って出かけていないの」

「そうなんだ・・」

「でも昨日そんなこと言ってなかったよね」

「そうだよ」慎二君と祐太君が言うが

「でもそう言ってたもん」とゆみちゃんが信じてよという感じで言った。

「ゆみちゃんは誰から聞いたの?ボケじい?」

「ううん。市長さんだよ。」

「えっ?」あいつがなぜボケじいの予定を知っているのかわからないし、

「どこで会ったの?」と聞くと

「慎二君と祐太君の来る前にきて、ここで言われたよ。

大事な用事があるから今日は帰ってこないと思うからまた明日おいでって言ってたよ。」

聞けば聞くほどわからなかったし、確かに朝家を出る時靴がなかったが、朝から会議があるみたいなことをお母さんが言ってた気がするだけでボケじいとの関連が全くなかった。

「どうしたの?」ゆみちゃんが心配そうに聞いてくれたが

「なんでもないよ」とだけ言うと慎二君が

「お兄ちゃんは何にも聞いてないの?」

と聞いてきたが仲が悪く、話もしていないことをうまく説明できそうになかったので、

「僕がここにきてるの知らないんじゃないかな」と言って誤魔化した。

「じゃあ、今日はしかたないよね、今日何して遊ぶ?」と祐太君がいい

「かくれんぼとかは?お兄ちゃんも一緒にやる?」

とゆみちゃんが言ってくれたがさすがに年齢差がありすぎるのと世間的に見ておかしな気がしたので

「ごめんね。勉強しなきゃいけないからまた今度誘って」と言うと

「大変だね」

「勉強嫌いだからなぁ」 

「じゃあまた今度ね。」

と言って三人は、何をするのか話し合いながら帰って行った。


 ボケじいの話を聞くことを前提に家を出たので時間的に早くなり、図書館の開館時間にも少し時間があったので、公園ででも時間をつぶそうと思って行くと、いつものベンチに人影がある。公園に入って近づこうとしたらその人は立ち上がり、公園から出て行った。

僕と同じようにこの公園でゆっくりするのが好きな人だったのかなと思い、そうだとしたら申し訳ないことをしたなと思いながらベンチに座る。

少し時間が経ったくらいに「あれっ海?」力の声がして振り返る。

「おはよう」僕がとりあえずそう言うと

「おう、おはよう」と返してきた。

「なんだもう来てたのかよ、待たせて悪いな」

僕は「別に、今は力を待ってたわけじゃないよ」と言って笑った。

「えっ、そうなの?いや、昨日何時ここって決めてなかったからもう来てたら悪いなと思ってさ」と力が言った。

僕は笑いながら「昨日の人にかつあげされた?って聞かれたよ」と言うと

「マジで?まささんひどいな。言っとくけど俺はそんなことしたことあ・り・ま・せ・ん」

一生懸命否定するとこが子供ぽいと思ったが「はいはい」といった。

「信じてないな」少し怒った声になったが

「まぁ、そんなのは慣れてるからいいや」と力が言ったので

「ごめん冗談だよ」というと「わかってるって」と言って笑った。

「あのさ、一つ聞いていい?」昨日聞こうとしたことを意を決して聞くことにした。

「なんだよ改まって」何でも聞けよといった感じで力が笑う。

「昨日言ってた親父って?」

「あぁ、俺を養子にしてくれた人だよ。感謝しても感謝しきれないよな。」

と言って空を見上げ、懐かしそうに微笑んでいる。

「よかったね」と僕が言う。

「なんだよいきなり」嬉しそうに笑いながら力が聞く。

「いや、あの後みんなどうしてるのかなって思ってて、そんな人に巡り合えてたって聞いてよかったなと思って。」

「なんかありがとな、でも確かにそうだよな。

親父にあってなかったら、俺、今ここにいなくて、海とも会えてないもんな。

もしかしたら悪さして少年院とか刑務所の中だったかもしれないんだよな。そう考えるとマジで感謝だし、親父と会えたのは奇跡だよ」

そう言って力は笑った。

「どんな人なの?」僕が聞く。

誇らしげに力が「頑固で短気でバカな人かな」と言い、少し間をあけて、

「俺もあんな人になりたいって心の底から思えるような人だよ。」

今日一番の笑顔を浮かべて力が言う。

そして、力は「親父」と出会ったころのことを教えてくれた。


 あの後、俺は、慎や太一と別れて違う孤児院に行ったんだけどさ、この髪の色だし、なかなか里親も見つからないし、試しに何日かそういう人のところで過ごすってなっても、すぐに追い返されるしで、正直その孤児院の人達としても、問題児が来たみたいな感じだったんだよな。

そんで小6の冬くらいまで、行っては戻ってを繰り返してたんだけどさ、そのころには、俺もさ、もう駄目だろうなみたいに思っててさ、次が決まったって、聞いて行くのが嫌になってさ院を飛び出しちゃたんだよな(笑)。

その日は大雪でさ、めちゃくちゃ雪も積もってるし、寒いし、お金も持ってないからお店はいるとかもできないし、で途方に暮れてさ、ふらふら歩いてたら、建てかけの家があって防音用のシートがかかってて、雨宿りできそうだなと思って入ると外よりは暖かいし、座れるとこもあったから休憩してたんだよ。

そしたら「誰だお前は」って怒鳴り声が聞こえて、おっさんが腕組んで立っててさ。

殺されると思って、なんも言えずにいたら、おっさんが近づいてきてさ、もう駄目だと思って目を閉じたら急に暖かくなってさ、目を開けたらおっさんが着てたコートが被さってて、おっさんがさ

「そんな恰好でいたら風邪ひくぞ」って怖い顔で言ってくるわけよ。

俺が「すみません。」って言ったら、急に笑い出してさ、俺もイラっとしてさ

「何が可笑しいんだよ。」って言ったらおっさんが、

「おう威勢がいいな、いや悪かったな、そんな髪の色してるから、もっとでかい奴かと思ったらとんだガキだったから面白くてな。」って言うわけだよ。

俺それ聞いてきれちゃってさ、

「うっさいな、お前もどうせ、俺の髪の色だけで俺を決めつけるんだろ。大人なんてみんなそうなんだよ。」

とか言っちゃってさ、そしたら急に笑うのやめておっさんが元の怖い顔に戻ってさ、

「お前の周りの大人がどうかは知らんが俺はそんなことでお前を決めつけるつもりはねぇし、その髪の色なら、俺の面倒見てるガキの中じゃ珍しくもなんともないんだよ。」とか言ってさ、こっち見てるわけだよ。

まぁ、後で知ったことだけどこの「ガキ」って職人とか従業員とかの意味だったんだけどさ、俺そんなこと言う人会うの初めてであっけにとられてさ、なんも言えなくなったわけ。そしたら、おっさんが

「とりあえず、家に連絡するから名前とうちの電話番号教えろ」って言われたけどさ、

俺としては孤児院に帰りたくないから「嫌だ」って言ったわけ(笑)。

そしたら、おっさんも怒ってさ「言え」、俺が「嫌だ」の繰り返しになってさ、何回言ったかわからなくなった時に「ぐうっ」って、俺の腹が鳴ってさ、恥ずかしくなって腹抱えて、おっさんの顔見たらニヤニヤ笑ってるんだよ。

「なんだよ、笑うなよ」って言ったら、おっさんが二ヤついたまま、

「腹減ってるのか?」って聞いてくるわけだよ。

俺は、腹が鳴ってるのを聞かれた上にわざわざそんなこと聞かれてムカついてさ、

「減ってねぇよ」って言ったわけだよ。

そしたら、また、「減ってるだろ」と「減ってない」の言い合いになって、それ続けてるうちに、また、「ぐう」ってなってさ。でも、2回目は俺のじゃなかったんだよ。

おっさんが「ばっ」って腹抑えてさ、今までやられたからやり返すチャンスだって思って、

「おっさん、腹減ってるのかよ?」って聞いてやったわけだよ。「減ってない」って返ってくると思ったら、

「減ってるよ、だから飯行くぞ」って言って腕つかまれてさ。

 結局、近くにあった定食屋に連れてかれてさ、施設から近いから何回か行ったことある定食屋でやばいと思ったけど結局、無理やり連れてかれて店のおばちゃんに

「あらっ、力いらっしゃい。」って言われて、俺の身元がわかちゃってさ。

「なんだ、児童養護施設のガキだったのかよ。」っておっさんが言ってさ。

そしたら、おばちゃんが

「その子、お試しが決まって、嫌だからって逃げたらしくてね」

「何で知ってるんだよ」って聞いたら、

「さっき、施設の人達が血相変えて知らないかって聞きに来たよ。」

「なんです?そのお試しって?」

とおっさんが聞いて、答えなくてもいいのにおばちゃんが

「里親になってくれる人のところに試しに行って、気に入ってもらえればそのまま里子になれるんですけどね、力は何回もお試しに行って断られているから、また断られるのが怖くて逃げたんでしょ?」って聞かれて、その通りだったから何にも言えなくて黙って下向いてたら、

おっさんが「まぁ、どうでもいいな。かつ丼定食一つ」って言って、

「お前は?」って聞いてくるんだよ。びっくりしてなんも言わなかったら、

「じゃあ、同じの一つで」って言ってかつ丼定食頼んでんだよ。

そんでさ、まじめな顔して、

「お前がだれで、何にビビってるのかなんて今はどうでもいいんだよ。」っていうわけ、俺もイラッとして

「おっさんには、関係ない話だもんな。それに、わかってもらおうとも思ってないからいいよ。」って言ったら、いきなり、

「お前の辛気くさい話なんか、飯食った後で聞いてやるから黙って食えよ」って怒鳴られてさ。

俺はこれだけは言っとかないとと思って、おっさんにバシッと言ってやったんだよ。

「ここのかつ丼定食、死ぬほどまずいぞ」って。


 力は、そこまで話して、「ふうっ」と息を吐いた。

「その時のおっさんが今の親父なわけだけどさ、衝撃的だったよ。まさかあの重い話を聞いた上で、飯のことしか考えてなかったんだからな。」と言って力は笑った。

僕は気になったので聞いてみた。

「お店で料理がまずいとか言ったらやばいんじゃないの?」 

力は笑って、「おばちゃんにお盆で頭たたかれた。」って言って、少し間をあけて、

「いつもはくそまずいのに、あの時のは今まで食べたものの中で一番うまく感じたんだよ。」


その後は、おばちゃんが施設の人に連絡して、来た職員の人にこっぴどく叱られて、これからまた、お試し行くのかと思うと、気分最悪だったんだけどさ、いきなりおっさんが、

「じゃあ、この生意気なガキは俺が貰います。」って言いだして、

周りの大人はとりあえず「あんた誰だよ」ってなって、そんで、おっさんが、個人経営の建設会社の社長で、自分には子供がいないことやヤンチャして行き場のない奴らを雇ってることとか話してて、最後に、

「このガキと話してて、今まで面倒見てきた奴らと同じ感じがするから、こいつが何か間違いを犯す前に俺が責任もって面倒みますから、俺にこのガキ引き取らせてください。」って職員の人達に言ってさ。職員の人達が俺に、

「力君、どうする?この人の身元を調べたりとかもするけど、最終的には力君が決めてもいいんだからね」って言ってきて、おっさんの顔見たら、笑いながら「お前の髪の色が何色だろうが、俺の家族になれば気にならなくなるし、お前がどんないたずらしようがお前より悪いことしてきた兄貴がいる。家族の中にはお前のことが気に入らないやつもいるかもしれないけど気にすんな。40人もいればそんなやつもいるけどその逆の奴もいる。でも、俺が確実に言えるのは、俺はお前がどんないたずらしようが悪さしようが拳骨食らわせることはあっても見捨てたりはしないし、親父が見捨てなければ兄貴も見捨てない。だから、安心して家に来いよ。」って言われて、なんか知らないけど涙流して泣いてて、周り見たら店中の人が泣いてて、俺この人の家族になりたいなって思ったんだよね。


「バシッ」いきなり肩をたたかれて力の方を見ると、うるんだ目でこっちを見ながら力が、「お前泣きすぎだろ」と言われた。

確かに気づいたら涙を流していたようで、ツッコミがはいるほど泣いていたのかと思うと恥ずかしくなった。

「いい人に出会ってよかったな」

そう言って力を見ると誇らしげにまだまだ親父の凄いとこはあるけどなと言った。

「力、コラー」

 かなり遠いところから聞こえてくる怒鳴り声に、ビクッとなり、

「まささんだ、海、これ」と言って紙を渡して

「じゃあまたな」と言って走り去ってしまった。

 少し遅れて、昨日も力を追いかけていた男の人が走ってきた。

通り過ぎるかなと思ってみていると、僕の前で立ち止まり、

「おう、昨日もここにいたよな?金髪のあんたと同じくらいの年のガキ見なかったか?」

「力なら、まささんだって言って、あっちに逃げてきましたよ。」

「そうか、悪いな」

 と言って走り去ろうとしたが急に立ち止まり、

「あれ、力と知り合いなの?」

 今気づいたよと言わんばかりの感じで聞いてきた。

「力が、小さい頃この辺に住んでて・・・、幼馴染みたいなものです。」

「そうなの?じゃあ昨日はホント何もされてないんだよね?」

「力が、そんなこと今までにやったこともないって言ってましたよ。なんでそんなに疑うんですか?」

「あいつのことは信じてるよ。でも、普通の奴でもいい奴でもな、ちょっとしたことで過ちを犯してしまうんだよ。そういう奴らがうちの会社にはたくさんいる。だから、まだ何もしていないあいつが、そういうことをしないように釘をさしてるんだよ。」

「疑われることでそういう人間だと決めつけられているように感じることもあると思います。力は小さい頃からあの髪の色で、大人たちから不良だと決めつけられてきたから・・・。

力が未だあの髪の色なのが不思議なくらいです。」

「確かにそうだよな。でも、あの髪の色については自分で納得してるんだよ。」

「えっ?」

「あいつの髪の色は、ホントの両親が染めていたもので、あいつはあの髪の色でいれば、いつかホントの両親が見つけてくれると思ってこだわってた。だから、施設の人達が黒に染めようとしても断ってた。でも、あいつが中学3年の時に、親方が見つけて、ホントの両親と引き合わせた。でも、両親は力が邪魔だと言ってまともに見ようともしなくて、それに怒った親方が両親ぶっ飛ばして傷害罪で捕まった。まぁ、直ぐに釈放されたけど、いろんな人に怒られることになったけど、あそこで親方が殴ってなかったら、力が何したかわかんないし、完全な決別の形としてはあれでよかったって、親方が言ってたよ。」まささんは寂しそうにそう言った。

「じゃあ、何でまだ力はあの髪の色なんですか?」

「親方に対する誓いだって、力は言ってたよ。親父があそこで代わりに殴ってくれたから俺は間違いを犯さずに済んだから、だから親父に認めてもらえる男になるまではこの髪の色でいる。

俺が髪を黒に染めたら、大人になったってことでよろしくって笑いながら言ってたよ。じゃあ、俺はその時が来るまでお前にずっと注意し続けてやるって約束している。だから、あいつが俺の発言でへそ曲げることはないよ。」

僕はその話を聞いて力の親父さんが本当にいい人だと思ったのと同時に、いろんな人に支えられているのだと思ったが、ふっと疑問に思ったことがあり聞いてみた。

「じゃあ、なんで力はまささんから逃げているんですか?」

「ああ、あいつ休憩が長いんだよ。まぁ、今日は休みだから何で逃げたのかはわからんが、何か後ろめたいことでもあるのかなと思ったんだけどな。」そう言ってまるでいたずらした弟を許すかのようにまささんは笑って、力のことをよろしくと言って帰って行った。


「だよなぁー、俺今日休みだし、何でまささんに追いかけられなきゃいけないのかわかんなかったんだよ。」力が電話越しに笑っている。

 まささんが帰った後、手のひらに残った力の渡した紙を見ると「俺の電話番号」と書かれ、番号が書いてあったのでかけてみたところ、本人は「癖だなこれ」と笑っている。

「いや、やっぱり怒鳴られると逃げちゃうんだよ。今日のは、まささんが悪いよね(笑)。普通に声掛けられてたら、ちゃんと海のこと紹介できたのになぁ」

「じゃあ、当分は仕事忙しそうだし、なかなか会えないけど何かあったら電話してくれよ。」

 そう言って、力との電話は終了した。

 力も頑張っていると思い、自分も頑張らなくてはいけないなと思い、その日は、受験生らしく勉強することにした。


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