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 夏休み初日(2)

 築30~40年くらい古い和風の家は夏なのに風通しがよく涼しかった。

ろうかを歩くと「ギシッギシッ」ときしむ音がした。

「昔話ばかりで宿題にまったく役立たなかったじゃろ?それに昔の写真のような物があるとまとめるのが楽じゃろうしな」

「いえ、子供達と一緒に楽しく聞かせて頂きました。写真があるんですか?」、二コッと笑い、

「そこの部屋で待っててくれるかな?」

「はい」僕は部屋に入り、ボケじいは家の奥に進んで行った。

 居間だろうと思うその部屋は八畳くらいで座布団が二枚、ちゃぶ台、タンス等があり昭和の映画のセットに使えそうな部屋だった。

 とりあえず入り口付近で正座をして待っていたらボケじいがせんべいの缶を持って入ってきた。

「なんでそんなところにおるんじゃ?」

「いえ、特に理由はないんですけど・・・」別に責められているのではないが緊張してしまった。

「まぁよいか」

そう言って缶をちゃぶ台の上に置きふたを開けた。

覗き込むと白黒の写真がたくさん入っていた。

街の風景や小さな子どもの写真など種類は様々だった。

「この写真は50年前のものだからさっきの昔話の10年前のものになるかな」

よく見ると1960~1970と書いてあった。

「なんでこんなに写真があるんですか?」

「写真を撮るのが趣味の人がいてね」

ボケじいが撮ったのではないことがわかったが誰が撮ったか教えてくれそうになかったので

「すごい量ですね」とだけ言った。

「欲しい写真があれば持っていっていいよ」

と言われたがテーマが決まっていないためにすぐに選ぶことができなかった。

結局適当に2~5枚もらった。

部屋を見回していると写真たてが一つありフワッとした白髪のおばあさんとボケじいが写っていた。

つい「奥さんですか?」と聞いてしまった。

それまでは優しく微笑んでいた顔が少し悲しげになってしまったので「すみません」と謝った。

「いいんじゃよ。」とまた笑い、

「3年前にね。あれが最後の写真になってしまったがのぉ~」

 過去の記憶に入り込んでいるかのような語尾を残し、少しの間沈黙の時間があり、

「これらの写真は、彼女が撮ったものじゃよ」

「えっ?じゃあ写真返します。」 

「いいよ。わしも長くはないし、親戚に親しい人もいないから思い出もこの家もすべて失われるから必要としてくれるなら貰って欲しいのじゃ。」

今までで1番、こんな顔は見たことがないくらい暗く、寂しげで悲しそうな顔をした。

 そしてまた笑顔になり、

「全部持っていってくれてもいいんじゃよ。」

と言った。帰り際に

「そういえば海君たちの小さな頃の写真もあったの。また探しておくよ」

と言われたが、僕は写真を撮られた記憶がなく、

「ほんとですか?」と聞いてしまった。

「また明日おいで」ボケじいは笑って言った。

写真については当然にあると言っていた。

 帰り道必死に昔の記憶を辿るが思い出すのは、人垣の1番外側でボケじいの話を聞いている所だけだし内容も思い出せなかった。


 家に帰るのが嫌だったので近くの公園のベンチに座る。夏休みの暑い時間だし、紫外線がどうだとか、クーラーのきいた部屋でゲームをするとかで、外で遊ばなくなってきている。

 そのため公園には子供はおろか老人もいない。

 緑の多い公園で木陰は太陽の光をいい感じに遮り涼しくさえ感じた。

 葉っぱの揺れる音を聞いている、それしかしていないのに心地よかった。

 かなり時間がたった頃、

「おい、速く来い‼昼休み終わるだろうが‼」

「すみません。」

 背が高くこわもての男が僕と同じくらいの男に怒鳴っている。

 二人とも大工の作業着を着ていた。

そういえば近くで工事とかしてたなと思っていると若い男の方が公園の入り口付近でフッと立ち止まりこちらを見ている。

距離があり、顔が見えなかったが僕もじっと見た。

「何してんだよ‼親方に怒られるだろうが‼」

「すいません。」

 と言って若い男は走り去って行った。

 何だったのだろうと思ったが何もわからないし、見た目は僕より背が高く、がっしりした体格、そしてよくいるような金髪の男だった。

 ちょうどその時、携帯が鳴った、母からの電話だった。

「今どこにいるの?」

どうでもいいだろうがと思ったが適当に

「図書館で勉強してる。」

「そう」少し嬉しそうな感じで言って来たのがイラッとしたが

「何?」と聞いた。

「お昼どうするの?」 携帯を少し耳から離し時計を見る。

12時40分、朝8時にボケじいの話を30分聞き、40分くらい家にいたと考えると2時間以上も公園で何をするでもなくボケっとしていたのかと考えるとバカだなと思い自笑する。

「どうしたの?」母の声が聞こえ、

「何でもない」と答えてから財布がないのに気づき

「じゃあ一回帰ってご飯食べるよ」と言って電話を切った。


 家に帰り、荷物を持っていないことに対して母が聞いてきたが、図書館の赤本を参考に解答していたことにして、午後は自分の参考書を持っていくと言って丸めこむことに成功した。

 そして明日からは荷物を持って行こうと心に決めた。


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