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浮上 -ボケじいとの夏休みー   作者: TAKEMITI


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発表

 病院から帰る途中で、携帯を持ってから初めて父から着信があり、電話に出ると、

ボケじいが息を引き取ったと伝えられた。その言葉の意味が分からない年でもなかったので、父に向かって

「わかりました。」と伝えて、電話を切る。

自然と涙があふれ、その場にいる母以外全員が僕のことを見ていた。

 僕は全員に向かって、父と同じように伝えた。

力や慎、太一は意味が分かり、ゆみちゃん達も少ししてから意味が分かったのか、涙を流して泣きだした。

よく見ると運転している母の頬にも涙が伝っている。

 僕達は病室でボケじいが『また明日おいで』と言うのを期待していた。しかしその言葉を聞くことはなかった。おそらくあの時点で、ボケじいには明日がないことを予感していたのかもしれない。

 かなえられない約束をするよりも約束をしない方がいいとボケじいは思ったのだろう。

 僕達にとってのボケじいの『また明日』はそのままの意味で『また明日も会おう・一緒にいよう』の意味だったのだから。


 それからの日々は、親しい親戚のいなかったボケじいのために父が葬式を出し、親族の方に頼んでボケじいの家を売ってもらい。遺品などで高価なもの以外はすべて譲り受けた。その中で父が僕らに渡したのは、何度も読みこまれたのかボロボロになった絵本や小説などとボケじいに見せてもらっていた缶に入った写真だった。

 僕達はその一つ一つを見ながら、子ども達に向かって昔話をするようになった。

 でもボケじいの様にはうまくいかず、ゆみちゃん達しかいない日が続いたが、ゆみちゃん達が友達を連れてきてくれるようになり、少しずつ子どもが増えていった。

 この時初めて、ボケじいが僕達と出会った日の気持ちがわかったような気がした。


 そして・・・・・


 夏休みが終わり、初めての現代社会の授業。

先生は教室に入ってくるなり、

「それじゃあ、夏休みの宿題を発表したい人?」

 そう言って、自分の右手を高々と上げ、教室を見回す。

当然、自分から発表したいなんてやつはいないと思っていたのか、先生は直ぐに右手を下げて、

「しょうがないな、じゃあ・・・・・」

言いかけたところで、先生は言葉を止め、びっくりした顔で僕を見る。。

「どうした、高村?体調でも悪いのか?」

 誰も手を挙げていないと思っていた先生は、おそらく絶対に発表しないだろうと思っていた僕が手を挙げていることに驚いたのか、手を挙げたほかの理由を探しているようだった。

「いえ、僕に発表させてください」

 クラス中にざわめきが起こる。今までの僕なら絶対に自分から発表したりしないだろう。それはクラスの共通の認識だったようだ。先生は慌てふためいて

「お、おう、そうか。じゃあ、えーと、前に出てきてくれるか?」

「はい。」

僕は用意していた物を持って、黒板の前に行く。先生は発表用のものまで準備していたことに驚いていたのか、教壇から動かずにいたので、

「そこ使っていいですか?」

と聞くと、先生は慌てて、窓際に移動して、

「じゃあ、高村よろしく。」

「まず、始めに、僕の父親は隣の市の市長をしています。最近までは市民の方とのすれ違いや誤解からリコールされそうになっていました。そんな父を僕も嫌いでした。

でも、今年の夏休み父は市民の方と話し合い、誤解がとけ、今も市長を続けています。

 僕はこの夏休みで僕の知らなかった父や僕の住んでいる市について色々と知ることができました。

それを教えてくれたのは、『ボケじい』と呼ばれ、小さな子ども達に昔話や、色んな事を教えてくる老人でした。

先日、ボケじいは病気のため他界されました。ボケじいが最後に僕と僕の10年ぶりに再会した友達と小さな友達たちに最後にしてくれた昔話を発表したいと思います。」

 僕は用意してきた紙芝居を箱から取り出した。これはボケじいが亡くなってから、力達とボケじいのまねをするようになって作った物だった。

「紙芝居、『少年と三人の侍』

 昔々、この町に強い三人の侍が・・・・・・・・・・・・・・」

教壇から見えるクラスメートの顔は、夏休み前のものとは違って見えた。

正確に言うなら、彼らはそんなに変わっていないだろう。そう、見る側の僕が夏休みを経て変わったから、物事の見方が変わり、皆が違うように見えたのだろう。

 今、僕がしているのは昔話ではなく、終わったばかりの夏休みの物語なのかもしれない。


 何かのテレビ番組で、海にはそれぞれ種類があり、深さによって呼び方も違うという話をしていた。

諸説あるという話だったし、正確な呼び方かどうかも覚えていないが、海の表層・中深層の様に太陽の光が届く層のことを陽光層といい、太陽の光が届かないところを深海と呼ぶらしい。

 力達と離れ離れになり、父のことをよくも知らないくせに嫌い、友達がまたいなくなることを恐れて一人で過ごしていた日々はきっと、暗く寂しい深海だったのだろう。

 そして、ボケじいの話を聞いて、力と再会し、慎と再会し、太一とも再会して、そして父のことを知り、ボケじいの死という現実を知った僕は、深く何の希望もなかった深海から、友達の大切さや人と関わるということの楽しさや辛さを学んだ。

それを教えてくれたのがボケじいであり、ボケじいと過ごした夏休みを経て僕は・・・・、

        

明るく希望に満ち溢れた陽光層へと浮上したのである。

                                       END


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