解任派
集会に集まった人たちが、次々に部屋を出ていく、父はずっと頭を下げ続けており、解任派の人が全員出ていったのか、何人かが父に歩み寄り、
「要次君、お疲れ様。でも、辞表を書いてきていたとは思ってなかったよ。」
父は顔を上げ、
「すみません。勝手なことばかりしてしまい。」
「いや、別に責めるつもりはないけど・・・・、相変わらず人を頼るのが下手だね。」
「申し訳ありません。」
父とその人のやり取りを見ていた僕達の中で、力が
「あの人、川原先生じゃないか?」
僕はその人が誰かわからずに、慎と太一を見ると、二人も懐かしそうに
「そうだね、川原先生だよ。」
「かなり痩せてるから、最初気付かなかったよ。」
「誰?」
僕が聞くと三人は顔を見合わせ、
「そっか、海は知らないよな。施設の職員の人だよ。」
力が教えてくれ、慎が
「海も何回か会ってるよ。あの頃はもっと太ってて、怖そうな顔だったけど。」
太一が懐かしそうに
「ほら、施設の晩御飯つまみ食いした時に、力のこと怒ってた先生だよ。」
そう言われると、確かにそんな人がいた。でも、その記憶の面影とは程遠く、痩せて穏和な表情を浮かべている。
そんな話をしている間にも、父の周りには人が多く集まり、父の姿が全く見えなくなっていた。
「なんか、昔のボケじいの家をの前みたいだね。」
慎が言い、太一が、
「後ろの方からじゃボケじいの顔も見えなかった頃だね。」
「古谷さんもあの人垣がなくなるのは、悲しそうだったな。」
いきなり後ろから聞こえた声に僕らは驚き振り返る。父の幼馴染と言っていた田中さんが笑顔で父の様子を見ている。
「ボケじいの周りから子ども達がいなくなったのは、ボケじいの政策が失敗だったからですか?」
僕が聞くと田中さんは笑いながら、
「そうか、君たちの目にはそう映るのか。本当は違うんだけどね。」
「どういう・・・・・・」
僕が聞きかけたところで、力が
「おじさんって、あんなにたくさんの人に応援されてるんだな。なんかもっと孤立してるイメージだったよ。」
田中さんが笑顔で、
「それはあいつが、自分の味方をすると俺らに迷惑がかかるからって、近寄らせなかっただけなんだよ。それを後から来た人が見て、市長は市民全体から嫌われているって勝手なイメージを持ってるだけなんだよ。」
「じゃあ、解任派の人が多いというのもそのイメージのせいですか?」
慎が聞くと、田中さんは少し複雑な顔で、
「まあ、いっぱいいるのは本当の話なんだけど。実際は解任派の人の中でも本当に辞めさせようとしてる人の方が少ないんだよ。」
太一が不思議そうな顔で聞く。
「どういうことですか?」
「実は・・・、何て言えばいいのかな~。
本当は、施設に対して援助をしたことを怒ってる人はそんなにたくさんいないというか・・・、あいつの生い立ちとかも結構前から知られていたというか・・・」
歯切れの悪い田中さんに僕が聞いた。
「じゃあ、父はどうして辞めさせられようとしてるんですか?」
「高村が嘘をついたから、になるのかな。
正直に自分のことを話した上で、政策を行っていれば、こんなことにはならなかったし、古谷さんの時も責められたことに対して少し言い訳をしてしまったから批判が止まらなくなった。
あいつは、古谷さんの政策を引き継いだことで皆に受け入れられたのに、肝心ななぜそうしたのかを話すことができなかったから、嘘をついたように受けとる人がでたし、人気が欲しかっただけだとほざくやからもいた。」
慎が
「それじゃあ、その嘘をつかれたと思った人が解任派なんじゃないんですか?」
「まぁ、そういう人も含まれるけど、実際は高村を楽にしてやりたいって人の集まりなんだよ。」
力が少しイライラしながら、
「ごめん、おっさん、俺、頭悪いからおっさんの言ってることがよくわかんないんだけど?」
田中は苦笑して
「そうか、そうだな。
もっと簡単にいうと、高村がこれ以上辛い思いをしないように、市長でなくなればもっと高村が幸せになれるんじゃないかと思った人たちが、高村にもう充分やったから辞めた方がいいんじゃないかと勧めたのがきっかけだったんだけど、高村が古谷さんに恩返しするまではって聞かなくて・・・」
「それで無理やり辞めさせようってなったんですか?」
太一が聞き、田中さんは頷いた。
「無理やりでも辞めさせれば、あいつは楽になれるんじゃないかと思ってた。
でも、今日の演説を聞く限り、途中で辞めさせても、また同じことを繰り返そうとするだけなんじゃないかと思ったんだろうな。みんな見守る方向で行くんじゃないかな。」
僕が心配そうに、
「あの解任派の代表の方が父の辞表を出すことはありえないんですか?」
田中さんは笑いながら、
「ない、ない。あの人は絶対にそんなことしないよ。」
「何で言いきれるんだよ?」
力が聞くと、田中さんは
「だって、あの人は・・・・、そうか!君達は知らないんだな。
彼は君達が知ってる園長先生の前の園長だった人で、高村も僕もあの人に育ててもらったようなもんだからな。自分の息子を不幸にするような人では決してないよ。」
慎が
「何でそんな人が解任派の代表なんですか?」
「あの人は、高村が市長になることを古谷さんと一緒に反対した人だったし、この市内ではかなり人望のある人だから、自然とかつがれたんだろうな。」
「父を辞めさせたいと思ってる人の反感をあの人がかうことはないんですか?」
「ないだろうね。逆にあの人を怒らせると、この市で政治をやるのは難しくなるくらいだから。」
「何で、政治がやりにくくなるのが嫌なんだよ?普通の市民の人だろ?」
力が聞くと、田中さんは真剣な顔で、
「いや、本気で辞めさせようとしてるのは、高村とは違う政党の人達だから、要するに人気の高い現市長を辞職させて、自分たちの党から新しい市長を出したいと考えてる人達が一生懸命になって、高村を解任させようとしてるんだ。まあ、無駄な努力だけどな。」
「じゃあ、父は・・・・・」
「辞職することもないし、今までみたいに批判とか、解任とかの話も消えてくと思うよ。」
田中さんは優しく笑っている。
「田中、何の話をしてるんだ、さっきから。」
いつの間にか近づいてきていた父の声で驚いて顔を見ると、疲れたような顔に少し涙をぬぐった跡がある。田中さんはへらへらと笑い、
「いや、一回の演説で問題が解消するならもっと早くやればいいのにって、海君達に愚痴を少しな?」
田中さんは、僕たちに同意を求め、僕達は「はい」と答えた。
父はどうやらその嘘も見抜いたようだったが、追及をやめ、
「田中、今まですまなかったな。また近いうちに」
父はそう言って、コップで飲むようなしぐさをする。田中さんもそれを見て
「楽しみにしてるよ。」
と言って、帰っていった。




