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浮上 -ボケじいとの夏休みー   作者: TAKEMITI


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演説

「本日はお忙しい中、お集まりくださりありがとうございます。

私は、既に皆様がご存知の通り、数年前までありました児童養護施設で暮らしていました。

その件で、施設に対して援助を行っていたことが、私情に基づいたものではないかと思われても仕方ありませんので、その点について否定するつもりはありません。

私は3歳の頃に駅に両親に置き去りにされ、あの施設に入りました。今でも置き去りにした両親は憎んでいますが、私がこうして皆様の前で堂々と生きていられるのも、当時、駅員だった古谷前々市長とあの施設があったからです。

幼き頃の私は両親を探し、毎日駅で朝から晩まで、見つかるはずもない両親を探し、古谷さんや施設で働いていた方々に迷惑をかけ続けました。結局、両親は見つからないまま養子に迎えてくれた高村家で過ごし、父と母もこの世を去りました。

高村の父と母は私にとって恩人です。しかし、一番の恩人はやはり古谷前々市長だったと思います。彼の存在が私を間違った方向に行かないように支える柱だったのです。

その彼の政治が間違っていなかったことを証明することで、恩返しをと思って、今日までこの職に居続けて来ました。

この場をお借りして、皆様にお願いしたいことがあります。」

父が語り、話が途切れたところで、解任派の人物だろう人が

「何だ、まだその職に留まりたいとかいう気か?

確かにあんたの生い立ちには同情できるし、古谷さんのこともわかるが、むしがよすぎるんじゃないのか‼。」

「仰ることもごもっともです。しかし、私は皆様にお願いしたいのはそんなことではありません。」

「じゃあ、何だってんだ?」

「図書館を存続させていただきたいんです。

今、利用者の減少と老朽化から取壊しを訴えている人がいます。

私の同世代の方には、ご理解いただけるかもしれませんが、現在ほど娯楽がなかった時代、図書館という場所が子どもにとって、子を持つ親や年寄りにとってどれほど大事な場所であったか。

 母が子どもに本を読み聞かせ、その子がまた自分の子に本を読み聞かせる。現在の様に書籍がネットで見られる時代でもなく、多くの種類があることから図書館を利用する人が昔は多くいました。

 先ほども言いましたが、ネットの普及に伴って図書館の利用、さらに言うなら本を読むということも現在の若者には縁遠いものになったのかもしれません。

 しかし、我々が先人から受け継いできた伝統を、その良さも教わっていない若者が『面倒なもの』、『必要のないもの』と思い無くしてしまう前に、その良さを知る我々が良さを伝え、『残すこと』の意味を教えなければいけないと思います。

 失うことは簡単です。でも手に入れることは難しい。同様に『壊す』ことは簡単で『作り直す』のは想像を絶するほど難しい。伝統とは、どれほど面倒なものでも一度失ってしまえばまた始めるのは大変なことです。『伝統』という言葉をめんどくさいと感じるのか、大切なものと感じるかはその人次第です。

 でも、図書館は人の思いが詰まった場所です。親が子に対して本を読むという行為が愛情表現の一つであるとするなら、図書館にはたくさんの愛情があり、そして、その受けた愛情を繋ぐための場所でもあると思います。

 私は、本当の両親から愛情を受けることはありませんでした。しかし、施設で過ごしている間は職員の先生方から、養子に行った先では、その両親からたくさんの愛情を頂きました。

 古谷さんも奥さんの明里さんにもたくさんの恩を頂きました。

残念ながら、古谷さん達に頂いた恩をお返しすることはできそうにありませんが、そんな私に古谷さんは、

『私に返すのではなく次の世代に与えなさい』と言われました。

 私が今、次の世代に与えられることは何か、残せることは何なのかを考え続けています。

その答えになるかはわかりませんが、自分にとって大事だった場所を残そうとして、現在、批判を受けている私には、同じように自分の思い出の場所を残したいということしかありません。

 こんなことを言うとまた批判を受けることでしょうが、私にできることは私が経験し、その時に何を思い、そしてどうしたらよかったのかを考えた先にあると思っています。

 私の様に一人で本を読んでいた子どもがいるように、お母さんに本を読んでもらった子供がいたように、あるいは祖父や祖母に本を読んでもらった子どもがいるように、友達と一緒に本を読む子供たちがいたように、そんな光景が今後も続くように、誰かの思い出の場所を、自分の子どもにもそうしてあげたいと夢見た子どもの夢を守るためにも図書館は残していただきたい。」

父はそう言って頭を下げた。周りからは何の声もあがらない。解任派の人から、ヤジのひとつもとぶのかと思ったが、それもない。父は頭をあげて、

「私があの施設に援助をしたのは、最終的な結論として、自分の育った施設を助けたかったからです。

自分と同じような境遇の子ども達に笑顔で生活して欲しかったからです。結局、その願いは叶わず、施設で暮らしていた息子の友達も含めバラバラになってしまいました。

私の友人で、施設で一緒に暮らした人はみんな兄弟で家族だと言った奴がいました。施設で暮らす子どもの多くが家族と引き離され、辛く悲しい思いをした子達なのです。

これ以上は弁解にしか聞こえないと思いますが、施設の子達にこれ以上の悲しみを感じてほしくなかった。

できることなら、いつまでも、新しい家族ができるまで、一緒にいさせてあげたかった。

この場で辞任しろと言われるのであれば、そうしてもいいと覚悟を決めています。

お時間を頂けるなら、私は最後まで子ども達のために頑張ります。私や今までの辛く悲しい思いをした子どもを今後出さないためにも、そんな気持ちを感じる子どもを減らすためにも、・・・」

父は一段と深く頭を下げた。ここで司会の人が

「高村市長、あがとうございました。皆様、本日はいじょ・・・・」

司会の人が終わらせようとすると、解任派の人から

「結局、まだ続けたいといってるじゃないか。本当に辞める気があるのか?」

父は頭をあげ、懐から何かを取り出し、

「ここに辞表を用意しています。必要だと言われるなら、私の解任を求めておられる方々の代表者にこちらと、委任状をお渡しします。

私が先程、申した時間を頂きたいというのは、図書館を残すために、それを実現させてくれる市議会議員の方を探すためです。

役所の人間は取り壊しに傾いてますので、それを阻止できる議員の方に後のことをお願いする期間を頂きたいという意味です。」

「その辞表は本当に本物か?」

「お疑いになるのなら、あなたの目の前で書き直しても構いません。ほんの少しだけ猶予を頂けるなら何でもしましょう。」

父は力強く言い、その勢いに解任派の人も黙ってしまった。

解任派の代表らしき人が立ち上がり、

「それでは、それは私がお預かりします。

今日、あなたが話したことが嘘だったり、信用できないと感じれば私が直ぐに提出させて頂きますし、市民からこれ以上の批判が出た場合も同様にさせて頂きます。

それでよろしいですか皆さん?」

解任派の人達から拍手が起こる。その拍手をもって了解を得たとみた代表の人は父に向かって、

「そおいうことです。

あなたに残された時間は、あなたの行動次第です。」

「お気遣い感謝します。皆様を裏切らないように精進します。」

父は頭を下げた。代表の人は、父を辞めさせようとしていた人物のはずなのに、どこか優しい笑顔を向けていた。

司会の人が

「そ、それでは、以上で終了となりますので後方におられるかたから順に御退室ください。ありがとうございました。」

司会の人が言い、頭を下げると、父も一段と深く頭を下げた。


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