けじめ
ピッ、ピッ、ピッ、機械音が鳴る中で、呼吸器をつけ、寝ている顔を見ながら思い浮かぶのは、なぜもっと早くということだけだった。
「君のそんな顔が見たくなかったんじゃよ。」
急に話しかけられ、驚いて顔をあげる。
「君には、本当に感謝している。だから、これ以上、わしのために無理はしないで欲しい。
早く自由になって、もっと幸せな・・・」
「私は、今でも充分幸せです。今も無理をしているつもりはありませんし、私がやりたいからやっているんです。」
「相変わらずじゃな。君ならそう言うだろうと思っとったよ。
じゃが、やらなければいけないのに、逃げているのは君らしくないの。今からでも会話を、対話をすべきじゃ。こんな老いぼれの寝顔を眺めてないでの。」
「でも・・・」
「わしなら、まだ大丈夫じゃよ。君がけじめをつけるまでは寝てられんからな。」
「それでも・・・」
「大丈夫、わしにはまだ果たしてない約束がある。まだまだ大丈夫じゃ。行きなさい。」
涙でかすむ、あの人の顔はいつも通りの優しい笑顔だった。
「コンッコンッ」
ノックの音で目を開けると、
「高村さん、そろそろお願いします。」
スタッフの言葉に「わかりました。」と答え、懐から一枚の写真を取りだす。幼き日の自分と古谷さんが駅員だった頃の写真。
写真に向かって、
「行ってきます」と呟いて、ネクタイをしめ直し、部屋を出た。




